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1999年(平成11年)

平成10年門審第37号
    件名
漁船大力丸漁船清栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、供田仁男、平井透
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:大力丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:清栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大力丸…船首外板に擦過傷
清栄丸…右舷船尾外板が大破、船長が入院加療26日を要する右足関節捻挫、右腓腹筋断裂等、甲板員1人が外傷性肝破裂等で死亡

    原因
大力丸…見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守

    主文
本件衝突は、大力丸が、見張り不十分で、転針して前路でほとんど停止中の清栄丸と衝突の危険を生じさせたことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月24日10時50分
山口県角島南西岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船大力丸 漁船清栄丸
総トン数 4.9トン 0.3トン
全長 13.30メートル 5.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 279キロワット
漁船法馬力数 7
3 事実の経過
大力丸は、採介藻漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あわびを素潜りで採取する目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成9年10月24日10時30分山口県角島港を発し、角島南西岸沖合の漁場に向った。
ところで、大力丸は、船幅が296センチメートル(以下「センチ」という。)、操舵室の幅が165センチであり、同室前面には、甲板上高さ14。センチの所から上方に、いずれも直径34センチの旋回窓が組み込まれた縦41センチ横50センチのガラス窓2枚があり、同室の船首方には甲板上高さ85センチの機関室囲壁があって、窓から船首方180センチの同囲壁上には、船体中央部よりやや右舷側に直径60センチ高さ80センチの煙突が直立して設置され、その頂部には直径14センチ高さ35センチの排気筒が置かれており、また、船首楼甲板上には各舷に錨台があって、同楼後部中央には三魚型マストが、機関室囲壁船首側中央部には小型マストがそれぞれ設置されていたことによって、操舵室から正船首方各舷約20度に死角を生じ、船首方向の見通しが悪い状況にあった。
こうして、A受審人は、10時48分わずか前角島灯台から160度(真方位、以下同じ。)1,550メートルの地点に達したとき、針路を296度に定めて、機関を半速力前進にかけ、9.4ノットの対地速力で進行し、同分半少し過ぎ同灯台から167度1,380メートルの地点で、針路を308度に転じて続航中、同時49分右舷船首6度290メートルに、船首を北東方に向けてほとんど停止して底見漁中の清栄丸を視認し得る状況にあったが、天気のよい日は底見漁船が角島北岸の夢ケ埼沖合で操業するので、前方に他船はいないものと思い、船首を振るなどの死角を補う見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま進行した。
A受審人は、同一針路のまま航行すれば、清栄丸の後方を右舷側に30メートル離して無難に航過する態勢にあったが、10時49分半わずか前角島灯台から172度1,220メートルの地点に達したとき、依然として清栄丸の存在に気付かないまま、他船が投入した漁具を表示する赤旗を左舷船首越し間近に認めて右舵をとり、転針して同船と衝突の危険を生じさせる318度として続航し、同時50分わずか前原針路に復した直後、10時50分角島灯台から玉78度1,100メートルの地点において、大力丸は、308度に向首して原速力のまま、清栄丸の右舷後部に前方から89度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、清栄丸は、採介操業時に従事するFRP製漁船で、B受審人及び同人の妻である甲板員Cの2人が乗り組み、さざえを採取する目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日09時10分角島港を発し、角島南西岸の通瀬埼付近で操業して100個ほどの漁獲を得たのち、漁場を移動し、10時00分衝突地点付近に至り、船首を北東方に向け、ほとんど停止した状態で操業を行った。
ところで、さざえ採取の操業方法は、底見漁と称するもので、機関を中立運転として漂泊し、B受審人が船体中央部の魚倉に入り、右舷側を向いて両膝を着き、舷側から上半身を乗り出した姿勢をとり、額を水面に置いた底見鏡と称する箱型のめがねに当て海底を見ながら、先端に鉄製の三叉が付いた竿を操ってさざえを挟み採るもので、同受審人の命によってC甲板員が、見張りを行いながら後部甲板上に渡した板に腰を下ろした状態で櫓を操ることによって船首方向を変えたり、わずかに移動しながら行うものであった。
底見漁中のB受審人は、10時50分少し前C甲板員が突然「船がこっちに向いたから頭を上げろ。」と叫ぶのを聞き、右舷方を見たところ、自船に向首して、間近に迫った大力丸を認めて驚き、機関を前進にかけて避けようとしたが、対処する余裕がなく、清栄丸は、船首を039度に向けて、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大力丸は、船首外板に擦過傷を生じたのみであったが、清栄丸は、右舷船尾外板が大破してのち修理された。また、B受審人は、入院加療26日を要する右足関節捻挫、右腓腹筋断裂等を負い、C甲板員(昭和16年7月25日生)は、外傷性肝破裂、外傷性骨盤骨折、外傷性血気傷胸等を負っで病院に収容されたが、のち死亡した。

(原因)
本件衝突は、山口県角島南西岸沖合において、航行中の大力丸とほとんど停止して底見漁中の清栄丸が無難に航過する態勢であった際、大力丸が、見張り不十分で、転針して清栄丸と衝突の危険を生じさせたことによって発生したものである、

(受審人の所為)
A受審人は、山口県角島南西岸沖合を漁場に向かって航行する場合、船首の一部に死角を生じて船首方向の見通しが悪い状況にあったから、前路でほとんど停止中の他船を見落とさないよう、船首を振るなどの死亀を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、天気のよい日は底見漁業が角島北岸の夢ヶ埼沖合で操業するので、前方に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、清栄丸の存在に気付かず、転針して同船と衝突の危険を生じさせて衝突を招き、大力丸の船首外板に擦過傷を生じさせ、清栄丸の右舷船尾外板を大破させ、また、B受審人に右足関節捻挫等を負わせ、同船甲板員に外傷性肝破裂等を負わせて死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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