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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月7日19時30分 熊本県三角ノ瀬戸北方沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第八順吉丸
バージえびす丸 総トン数 96トン 登録長 29.99メートル 39.00メートル 幅
9.00メートル 12.00メートル 深さ 4.80メートル
4.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 441キロワット 3 事実の経過 第八順吉丸(以下「順吉丸」という。)は、船首部にクレーン1基を備え、航行区域を限定沿海区域とし、専ら熊本県田浦港から福岡県大牟田港への石灰石輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人及び同人の母であるB指定海難関係人のほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、平成8年12月7日16時30分大牟田港を発し、乗組員の休養の目的で、熊本県天草郡御所浦町与一ケ浦に向かった。 A受審人は、出航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、三角ノ瀬戸経由で目的地に向かうこととし、航行中の動力船の灯火を表示し、17時00分半三池港北防砂堤灯台から230度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点に達したとき、針路を170度に定め、機関を全速力前進にかけて8.0ノットの速力とし、自動操舵で進行した。 ところで、A受審人は、船首部のクレーンに加え、空倉状態では船首が浮き上がって、船首方向に死角を生じることから、平素船橋当直を行うに当たっては、適時ウイングに出るなどして船首死角を補う見張りを行っていた。 17時31分ごろA受審人は、長洲港北防波堤灯台から291度2.0海里ばかりの地点に達したとき、当直交代のために昇橋したB指定海難関係人に船橋当直を行わせることとしたが、長洲沖合から三角ノ瀬戸北口の北方3海里ばかりの上ノ州に至るまでの広い海域を航行するに当たっては、日ごろ同人に船橋当直を行わせていて何ら支障を生じなかったので、改めて注意するまでもあるまいと思い、同人に対して食事を済ませてくると告げただけで、船首死角を補う見張りを十分に行うよう指示することなく、上ノ州の手前から操船に当たるつもりで降橋した。 降橋して間もなくA受審人は、船橋からの呼出しブザーで昇橋したところ、前路に行会い船を認め、同船が航過したのち、17時40分長洲港北防波堤灯台から256度1.7海里の地点で、自動操舵のまま針路を三角ノ瀬戸北口に向く174度に転じて再び降橋した。 その後、B指定海難関係人は、自動操舵のまま時々GPSプロッターを見て予定の針路線上を航行していることを確かめながら、レーダーと肉眼による見張りに当たって続航したところ、島原港沖合を通過したころ高まった波の影響でレーダーの映りが悪くなったものの、レーダーの調整ができなかったので、そのまま進行した。 19時22分半B指定海難関係人は、三角灯台から352度3.8海里の地点に達したとき、正船首1.0海里のところに、白色全周灯2個と白色点滅灯2個をそれぞれ表示して錨泊中のえびす丸を視認でき、その後、同船と方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、前方にいつも錨泊しているえびす丸の明かりが見えず、レーダーでも同船を識別できなかったので、今夜は同船が錨泊していないものと思い、ウイングに出るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わないで、同船の存在に気付かないまま続航した。 こうしてB指定海難関係人は、錨泊中のえびす丸を避けないで進行し、19時29分半ごろ上ノ州に接近したので、ブザーを鳴らしてA受審人を呼び、昇橋した同人に何も告げずに船橋当直を交代して降橋した。 船橋当直に就いたA受審人は、直ちに周囲の状況を確認するため、レーダーの画面を見たところ、海面反射の影響で映りが悪くなっていたので、レーダーを調整中、19時30分三角灯台から350度2.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、順吉丸の右舷船首部がえびす丸の右舷船首部に前方から約39度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は良好で、付近海域には波浪注意報が発表されており、高さ約1メートルの波があった。 また、えびす丸は、船首部にクレーン1基を備えた非自航型鋼製バージで、上ノ州に常時錨泊し、第八宝生丸(以下「宝生丸」という。)が採取した海砂を一時貯蔵したのち他船に積み込んでいた。 一方、宝生丸は、航行区域を平水区域とする船尾船橋型鋼製砂採取船で、船長のC指定海難関係人のほか5人が乗り組み、荒天時を除いて同船に接舷し、上ノ州で採取した海砂をえびす丸に積み込む作業に従事しており、同指定海難関係人が同船の管理に当たっていた。 ところで、えびす丸は、錨泊中の灯火として、クレーンの操縦室上部と船尾居住区上部の後部マストに、蓄電池を電源とした白色全周灯をそれぞれ1個ずつ設置していたほか、これらの白色全周灯の設置個所付近に、日光弁付きで光達距離2キロメートルのゼニライトL-2型と称する、単一乾電池を電源とした白色点滅式簡易標識灯をそれぞれ1個ずつ設置していた。 C指定海難関係人は、付近海域に波浪注意報が発表されている状況下、同日朝からえびす丸に接舷して海砂の採取と同船への積込みを行っていたところ、北西風が次第に強まってきたので、一時三角港に避難することとし、えびす丸の船首から出した錨鎖を6節まで繰り出し、前示白色全周灯を点灯したのち、10時50分海砂600立方メートルを積載し、船首尾とも3.70メートルの喫水となった同船を離れ、11時30分同港に入航して避泊した。 その後、えびす丸は、前示衝突地点付近で無人となったまま315度に向首して錨泊中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、順吉丸は、右舷船首部外板に凹損を生じ、えびす丸は、右舷船首部外板、同部ブルワークなどに凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、島原湾において、波浪注意報が発表されている状況下、順吉丸が熊本県長洲港沖合から三角ノ瀬戸に向けて南下中、見張り不十分で、前路で錨泊中のえびす丸を避けなかったことによって発生したものである。 順吉丸の運航が適切でなかったのは、船長無資格の船橋当直者に対して船首死角を補う見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、島原湾において、波浪注意報が発表されている状況下、船橋当直を無資格のB指定海難関係人に単独で行わせる場合、船首方向に死角を生じて見通しが妨げられる状況であったから、前路の他船を見落とさないよう、同人に対してウイングに出るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、日ごろB指定海難関係人に船橋当直を行わせていて何ら支障を生じなかったので、同人に改めで注意するまでもあるまいと思い、船首死角を補う見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同人がえびす丸の存在に気付かないまま進行して衝突を招き、順吉丸の右舷船首部外板に凹損を、えびす丸の右舷船首部外板、同部ブルワークなどに凹損を生じせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、波浪注意報が発表されている状況下、単独の船橋当直に就き、島原湾内の熊本県長洲港沖合から三角ノ瀬戸に向けて南下する際、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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