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1999年(平成11年)

平成10年仙審第58号
    件名
漁船第五十一久榮丸漁船第三十一安栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、高橋昭雄、上野延之
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第五十一久榮丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第三十一安栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
久榮丸…右舷船首部外板に塗装剥離
安栄丸…船首部を圧壊、シーアンカー用ロープ巻き取りリールなどに損傷

    原因
久榮丸…動静監視不十分、船員の常務(避抗動作)不遵守(主因)
安栄丸…警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五十一久榮丸が、動静監視不十分で、漂泊中の第三十一安栄丸を避けなかったことによって発生したが、第三十一安栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月3日04時30分
青森県八戸港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十一久榮丸 漁船第三十一安栄丸
総トン数 125トン 11トン
全長 36.28メートル
登録長 14.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 691キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
第五十一久榮丸(以下「久榮丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか11人が乗り組み、操業の目的で、船首1.7メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成9年11月3日03時30分青森県八戸漁港(小中野)を発し、航行中の動力船の灯火を表示して同県三沢市沖合約10海里の漁場に向かった。
発航後A受審人は、単独の船橋当直に就き、八戸港西航路を経て中央防波堤沿いに北上したのち、03時46分鮫角灯台から310度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点で、針路を015度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で、3海里レンジとしたレーダーをときどき見ながら前路の見張りに当たって進行した。
04時14分半A受審人は、鮫角灯台から355度6.9海里の地点に差し掛かったとき、ほぼ正船首3海里に第三十一安栄丸(以下「安栄丸」という。)のレーダー映像を初めて認め、目視により同船が点灯している明るい集魚灯を前路に確認し、安栄丸が漂泊していか釣り操業中であり、風向きから船首を南西方に向けてシーアンカーを入れていることを確認したが、まだ遠いので1海里ばかりに接近してから同船を避ければよいと思い、引き続き安栄丸に対する動静監視を行うことなく、漁場に近づいたこともあって魚群探知機の記録紙交換や潮流計の深度設定などの魚群探索の準備作業を始め、同じ針路、速力のまま進行した。
04時27分A受審人は、鮫角灯台から000度9.2海里の地点に達したとき、前路で引き続き漂泊中の安栄丸まで1,060メートルとなり、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、魚群探索の準備に気を取られてこのことに気づかず、同船を避けないまま続航中、04時30鮫角灯台から001度9.8海里の地点において、原針路、原速力のままの久榮丸の右舷船首部が、船首から延出されたシーアンカー用ロープに接触して引き寄せられた安栄丸の船首部に前方から35度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、衝突地点付近には微弱な南西流があり、視界は良好であった。
また、安栄丸は、いか一本釣り漁業に従事する部に操舵室のあるFRP製漁船で、B受審人が妻の甲板員と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月2日15時30分八戸漁港(館鼻)を発し、18時ごろから2時間ばかり青森県むつ小川原港沖合約4海里の漁場で操業を行ったのち、探索しながら南方に移動を始めた。
22時30分B受審人は、鮫角灯台から003度10.3海里の地点で、集魚灯用発電機を運転して1及び3キロワットのハロゲンランプ各3個並びに省エネランプと称する2及び3キロワットの白色灯各30個の集魚灯すべてを点灯したのち、船首から直径16メートルのパラシュート製シーアンカー及びパラシュート深度調整おもり保持用の直径50センチメートルの桃色浮玉1個を投入後、同アンカーに接続した直径25ミリメートルの合成繊維製シーアンカーロープを70メートル延出し、折からの南西風により船首が220度に向いて同浮玉が前方約100メートルとなり、クラッチを入れれば直ちに前後進可能の状態で機関を中立とし、航行中の動力船の灯火を表示して左右各舷5台及び船尾に1台の自動いか釣り機による漂泊操業を始めた。
B受審人は、当初いかの釣れ具合が良くなかったので甲板員を休息させ、操舵室で1人で周囲の見張りに当たりながら、ときどき船首甲板に降りて1箱当たり1分ないし1分半の所要時間で漁獲物の箱詰めを行っていたところ、翌3日04時ごろから釣れ具合が良くなってきたので、省エネランプを1個おきに半数消灯し、甲板員を起こして2人で箱詰め作業を始めた。
04時25分少し前B受審人は、前示衝突地点付近において、同じ船首方位のまま船首甲板で漁獲物の箱詰め作業を行っているとき、左舷船首25度1海里に自船に向けて直進してくる久榮丸が表示する白、紅、緑3灯を初めて認めたが、もう少し近づけば自船を避けていくものと思い、漁獲物の箱詰め作業を続けた。
04時27分B受審人は、左舷船首方に他船の機関音が聞こえたとき、同方位1,060メートルに、久榮丸の灯火を再び認め、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、依然自船を避けていくものと思い、その後自ら操舵室に戻って久榮丸を見ていたものの、同船に対して避航を促すよう直ちに警告信号を行わず、さらに接近しても機関を後進にかけるなと衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けた。
04時30分少し前B受審人は、久榮丸が避航の気配のないまま桃色浮玉付近に接近したとき、ようやく衝突の危険を感じて汽笛により短音を2回鳴らし、機関を後進にかけたが間に合わず、同船が接触したシーアンカー用ロープに引き寄せられて船首が230度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、久榮丸は右舷船首部外板に塗装剥離を生じただけであったが、安栄丸は船首部を圧壊したほかシーアンカー用ロープ巻き取りリールなどに損傷を生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、八戸港北方沖合において、久榮丸が、漁場に向けて航行中、動静監視不十分で、いか釣り集魚灯を明るく点灯して漂泊中の安栄丸を避けなかったことによって発生したが、安栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、八戸港北方沖合を漁場に向けて航行中、前路にいか釣り集魚灯を明るく点灯して漂泊中の安栄丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、まだ遠いのでもう少し接近してから避ければよいと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、魚群探索の準備作業を始めてこれに気を取られ、同船を避けないまま進行して安栄丸との衝突を招き、久榮丸の船首部外板に塗装剥離及び安栄丸の船首部に圧壊等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、八戸港北方沖合において、いか釣り集魚灯を明るく点灯し、シーアンカーを投入して漂泊操業中、衝突のおそれがある態勢で接近する久榮丸を認めた場合、同船に対して避航を促すよう直ちに警告信号を行い、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、もう少し近づけば自船を避けていくものと思い、直ちに警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、漂泊を続けたまま同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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