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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月1日23時44分 広島港 2 船舶の要目 船種船名 旅客船新栄丸
漁船明和丸 総トン数 12.12トン 4.4トン 登録長 11.90メートル 11.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
154キロワット 漁船法馬力数 70 3 事実の経過 新栄丸は、専ら広島港港域内で通船業に従事するFRP製旅客船で、港則法第3条第1項に定める雑種船であるが、A受審人が1人で乗り組み、船舶機器修理業者2人を輸送する目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成8年10月1日22時00分広島港内の宇晶灯台から006度(真方位、以下同じ。)1,350メートルの税関桟橋を発し、同港港域内の宇品灯台から260度1.7海里の錨泊船に向かい、所用を終えた前示2人を乗船させ、法定の灯火を表示し、同23時33分半少し前同船を発進して帰航の途に就いた。 23時39分少し前A受審人は、宇品灯台から248.5度1,500メートルの地点で掛路を080度に定め、機関を全速力前進にかけ10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し、同時43分わずか過ぎ同灯台から197度340メートルの地点で、針路を045度に転じたとき、右舷船首10度340メートルのところに明和丸の掲げる白、黄色閃光の2灯を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かる状況にあったが、宇晶島を左舷側に著しく接近して航行していたから、同島にこれ以上接航して西行する他船はいないと思い、右舷方の見張りを十分行っていなかったので、明和丸に気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、新栄丸は、23時44分宇品灯台から145度160メートルの地点で、その右舷中央部が原針路、原速力のまま、明和丸の船首部に前方から42度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。 また、明和丸は、延縄漁業に従事し、船体のほぼ中央部に操舵室を備え汽笛を装備しないFRP製漁船で、B受審人及び同人の妻が乗り組み、穴子漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日16時30分広島市草津漁港を発し、宇品島周辺の漁場に向かった。 漁場到着後B受審人は、宇品灯台から218度180メートルの地点で、先端に点滅灯付き浮子を取り付けた延縄を投下して順次金輪島沖まで東方に延出し、同島沖から宇品灯台より179度2,000メートルの地点を経由して同島南端の金輪尻ノ鼻付近に至り投縄を終了して付近のカキ筏に係留索を取り仮眠した。 仮眠の後22時30分ごろB受審人は、操舵室前部オーニング支柱から吊り下げた前部甲板土を照らす周囲に明かりが漏れない金属製傘付き30ワットの白色電球、右舷中央部舷外にブルワーク上端より下方のところに引き揚げた延縄を照らす前示と同様の傘付き30ワットの白色電球、船橋上部のマストに30ワットの白色全周灯及び同灯火の下方に乾電池を電源とする日光弁式黄色閃光灯をそれぞれ点灯して、投縄終了地点から順次揚縄作業中、宇品島東方沖に至り引揚中の縄が切断したので、反対側の延縄投入開始地点から揚縄することとし、23時39分宇品灯台から099度640メートルの地点で、針路を延縄投入開始地点付近に向く267度に定め、3.5ノットの対地速力で、妻を前部甲板上で引き揚げた延縄の整理に当たらせながら航走を開始した。 B受審人は、航走開始時前部甲板上で周囲を一瞥したところ他船を視認しなかったので、付近に他船はいないものと思い、左方が操舵室により死角となる操舵室右側の右舷甲板上通路で、リモートコントロールにより操舵操船していたため、左方の見張りが不十分のまま進行し、23時43分わずか過ぎ左舷船首32度340メートルのところに新栄丸の表示する白、緑の2灯を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、延縄没入開始地点の浮子を探すことに気を奪われ、依然、見張りが不十分で、新栄丸に気付かず、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、新栄丸は右舷中央部に亀裂を生じ、明和丸は船首部に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、両船が広島港港域内の宇品島東側水域を航行中、港則法に規定された雑種船である新栄丸が、見張り不十分で、同法に規定された雑種船以外の船舶である明和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明和丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、広島港港域内の宇品島東側水域を北上する場合、港則法に規定された雑種船であるから、同法に規定された雑種船以外の船舶である明和丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、宇品島を左舷側に著しく接近して航行していたから、同島にこれ以上接航して西行する他船はいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右方から接近する明和丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、新栄丸の右舷中央部に亀裂を生じさせるとともに明和丸の船首部に亀裂を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、広島港港域内の宇品島東側水域を西行する場合、左方から接近する新栄丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航走開始時周囲を一瞥したところ他船を視認しなかったので、付近に他船はいないものと思い、浮子を探すことに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左方から接近する新栄丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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