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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月12日09時40分 福岡県倉良瀬戸 2 船舶の要目 船種船名 瀬渡船久栄丸
プレジャーボートコノミ-II 総トン数 4.27トン 全長 7.39メートル 登録長
9.90メートル 機関の種類 ディーゼル機関
電気点火機関 出力 36キロワット 66キロワット 3 事実の経過 久栄丸は、瀬渡しに従事するFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、瀬渡しした釣り客の様子を見る目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年4月12日09時35分福岡県地ノ島の地島漁港豊岡地区を発し、同島北西岸のノーセ鼻沖合に向かった。 A受審人は、地ノ島を右舷方に見ながら進行し、09時36分半倉良瀬灯台から144度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点において、針路を321度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 定針したころA受審人は、正船首860メートルのところに、錨泊して魚釣りをしているコノミ-II(以下「コノミ」という。)を視認できる状況であり、そ後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、右舷方の地ノ島の岩場に瀬渡しした釣り客の様子を見ることに気を取られ、前路の見張りを十分に行うことなく、コノミに気付かず、同船を避けないで続航中、09時40分倉良瀬灯台から147度1,150メートルの地点において、久栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首がコノミの右舷船首部に前方から5度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、視界は良好であった。 また、コノミは、船体中央部にキャビンを有し、有効な音響を発する音響信号装置及び船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日08時00分福岡県遠賀川支流の西川に面した同県遠賀郡芦屋町の係留地を発し、地ノ島北西方沖合の釣り場に向かった。 B受審人は、08時40分前示衝突地点に至り、機関を停止し、重さ7キログラムの錨を水深約5メートルの海中に投じ、直径14ミリメートルの合成繊維製錨索を30メートル延ばして船首部のビットに止め、船首を南東方に向けて錨泊し、黒色球形形象物をキャビン上部のマスト灯用の支柱に掲げ、後部甲板において同乗者と共に釣り竿を用いて魚釣りを始めた。 B受審人は、近くの地ノ島北西方の海岸に釣り人を認め、錨泊地点付近が近くの海岸や岩場に釣り人を瀬渡しするための渡船等が通航する海域であることを知っていたものの、周囲を一瞥(いちべつ)したところ船舶が見当たらなかったことから、周囲の見張りを十分に行わなかった。 09時36分半B受審人は、船尾部で船尾方を向き、中腰になって集魚のための撒(ま)き餌をしているとき、ほぼ正船首860メートルのところに久栄丸を視認できる状況であり、その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、撒き餌をすることに気を取られ、依然、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず、注意喚起信号を行わないで、魚釣りを続けた。 B受審人は、09時40分わずか前、後部甲板の左舷側で漁釣りをしていた同乗者の叫び声を聞いて振り返ったところ、船首方至近に迫った久栄丸を認めたがどうすることもできず、コノミは、船首を146度に向けて錨泊中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、久栄丸は損傷がなく、コノミは右舷船首部及びキャビン右舷上部に亀裂を生じたがのち修理された。また、B受審人は10日間の休養加療を要する腰部及び右臀部打撲傷を、海中に投げ出されたコノミの同乗者Cは久栄丸に救助されたが、全治20日間の右第10肋骨及び同第11肋骨骨折並びに右側腹部打撲傷を負った。
(原因) 本件衝突は、福岡県倉良瀬戸において、久栄丸が地ノ島西岸に沿って北上中、見張り不十分で、前路で錨泊中のコノミを避けなかったことによって発生したが、コノミが、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、福岡県倉良瀬戸において、地ノ島西岸に沿って北上する場合、前路で錨泊する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方の地ノ島の岩場に瀬渡しした釣り客の様子を見ることに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊しているコノミに気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、コノミの右舷船首部及びキャビン右舷上部に亀裂を生じさせ、B受審人に腰部及び臀部打撲傷を、コノミの同乗者に肋骨骨折及び腹部打撲傷を負わせるに至った。 B受審人は、福岡県倉良瀬戸において、錨泊して魚釣りを行う場合、錨泊地点付近が近くの海岸や岩場に釣り人を瀬渡しするための渡船等が通航する海域であることを知っていたのであるから、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、集魚のための撒き餌をすることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する久栄丸に気付かず、注意喚起信号を行うことなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
参考図
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