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1999年(平成11年)

平成10年那審階第50号
    件名
引船第一東栄丸引船列灯標衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:第一東栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
東栄丸…船尾部及び船首部の右舷防舷材各1個に損傷
両灯標…昇降用ステップに曲り、剥離などの損傷

    原因
操船・操機(灯標に著しく接近)不適切

    主文
本件灯標衝突は、運航が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月5日13時15分
沖縄県国頭郡本部町水納島水納港
2 船舶の要目
船種船名 引船第一東栄丸 台船トウエイ1号
総トン数 19トン 994トン
全長 17.70メートル 45.00メートル
幅 16.00メートル
深さ 3.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第一東栄丸(以下「東栄丸」という。)は、航行区域を沿海区域とする鋼製引船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成10年4月5日06時15分台船トウエイ1号(以下「台船」という。)を引いて本部町本部港本港地区を発し、同町水納島の水納港に向かった。
台船は、作業員2人が乗り組み、水納島で使用するダンプカー3台、パワーショベル3台、土木用資材など合計100トンを積載し、喫水が船首、船尾共に0.6メートルとなり、引索の長さを調整して東栄丸船尾から台船船首まで32メートルとし、引船列の全長が95メートルとなっていた。
A受審人は、発航時から操船に当たり、水納港沖合に達したとき、同港に作業中の浚渫(しゅんせつ)船団がいるのを認め、着岸に支障があったので問い合わせたところ、12時ごろには沖合に出る旨の連絡を受け、それまで仮泊することとし、07時15分水納港第2号灯標(以下、灯標の名称にっいては「水納港」を省略する。)から014度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点で、台船の錨を投じさせた。
ところで、水納港北側は元来海岸からさんご礁が400メートルほど拡延した水域であったところ、海岸線から沖合に向かって設置された護岸の先端部の東側及び北側を船着場岸壁とし、船着場岸壁から033度の方向にさんご礁水域を掘った長さ270メートル幅30メートル水深2.0メートルの水路(以下「水路」という。)が設けられ、水路西側境界線を示す第2号灯標及び第4号灯標が航路標識として設置され、船着場岸壁北方に水路の中ほどから西方に延びる長さ170メートルの防波堤が築造されていた。
12時30分A受審人は、浚渫船団から出港する旨の連絡を受け、やがて浚渫船団が出港する様子を認め、折からやや強い南東風が吹き、白波が少し目立つなか、揚錨させたうえ台船を引く態勢とし、13時10分第2号灯標から038度220メートルの地点(以下、地点については東栄丸の位置を示す。)から水路入口に向け、機関を適宜使用して少しずつ前進しながら、浚渫船団の作業船1隻とこれに引かれる土砂積載のはしけとの引船列が水路を出るのを待ち、同時13分同引船列が水路を出たとき、水路延長線よりも西方で、第2号灯標から030度130メートルの地点に位置していた。
このときA受審人は、水路延長線に対して斜航して水路入口に向かうこととなるうえ、折からやや強い南東風により圧流される状況であり、かつ水路に単独で北上する浚渫船団の他作業船やプレジャーボートが存在していたが、なんとか航行できると思い、反転して作業船等力泳路を出るまで待つとともに水路延長線上の位置から水路入口に向かうなど、適切な運航を行うことなく、そのまま水路に向かうこととして針路を第2号灯標を正船首少し右方に見る205度に定め、機関を微速力前進に掛け、2.0ノットの対地速力で進行した。
こうしてA受審人は、台船の状況及び出航する作業船等に気を遣いながら続航し、13時14分第2号灯標から034度60メートルの地点で、台船が東栄丸の正船尾よりも右方に位置するようになっていたので、台船が第2号灯標に接近しないよう、操船するうち、第2号灯標に著しく接近し、これをかわすことができず、13時15分215度に向首して東栄丸船尾部右舷が第2号灯標に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の未期であった。
A受審人は、その後も出航する作業船等に気を遣っているうち、今度は第4号灯標に著しく接近し、これもかわすことができず、215度に向首して船首部右舷が第4号灯標に衝突した。
A受審人は、そのまま水路を南下し、台船を船着場北側岸壁に着けた。
衝突の結果、東栄丸は船尾部及び船首部の右舷防舷材各1個に損傷を生じ、両灯標はそれぞれ昇降用ステップに曲り、剥(はく)離などの損傷を生じた。

(原因)
本件灯標衝突は、沖縄県本部町水納港において、折からやや強い南東風が吹き、水路に出航する作業船等が存在する状況下、水路に入航する際運航が不適切で、第2号及び第4号の各灯標に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、水納港において、台船を引いて水路に入航する場合、折からやや強い南東風が吹き、かつ水路に出航する作業船等が存在していたから、作業船等が水路を出るまで待つとともに水路延長線上の位置から水路に向かうなど、適切な運航を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、なんとか水路を航行きるものと思い、適切な運航を行わなかった職務上の過失により、台船の状況や出航する作業船等に気を遣いながら水路を進行するうち、第2号灯標に著しく接近し、また同様に第4号灯標にも著しく接近し、これら灯標への衝突を招き、東栄丸右舷防舷材及び両灯標の各昇降用ステップに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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