日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年神審第93号
    件名
貨物船光陽丸作業船清港丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、米原健一、西田克史
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:光陽丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:清港丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
光陽丸…船首材に擦過傷
清港丸…船尾部に凹損、作業員1人が転倒して打撲傷

    原因
光陽丸…見張り不十分、船員の常務(新たな危険・避航動作)不遵守(主因)
清港丸…見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、光陽丸が、見張り不十分で、先航する清港丸の船尾に向けて転針し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、清港丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月16日09時48分
大阪港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船光陽丸 作業船清港丸
総トン数 179トン 5.6トン
全長 9.00メートル
登録長 36.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 294キロワット 80キロワット
3 事実の経過
光陽丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.4メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成9年7月16日09時30分、大阪港大阪区第4区木津川運河内のテイカ専用岸壁を発し、同港大阪区第6区辰巳ふ頭に向かった。
A受審人は、操舵室において単独で操船に当たり、機関を微速力前進にかけて木津川運河を手動操舵で下航し、09時41分ごろ同運河を出たところで機関を半速力前進に増速のうえ右舷側の航泊禁止区域を避けて西行沖、左舷前方に北上するバージを押した押船(以下「押船列」という。)を視認した。
09時44分A受審人は、大阪鶴浜通り船だまり北波除堤北灯台(以下「北波除堤北灯台」という。)から194.5度(真方立、以下同じ。)1,120メートルの地点で、航泊禁止区域の南西角を通過したとき、押船列の手前で右転して針路を340度に定め、押船列の右舷側を約60メートルの間隔で並び、6.0ノットの対地速力で進行した。定針時A受審人は、左舷船首4度370メートルに、同じく北上中の清港丸を視認でき、同船の針路と光陽丸の針路とが小角度で交差しているものの、そのまま航行すれば、その後方を無難に航過できる状況であったが、左舷側を並走する押船列との距離関係に気を取られて清港丸の存在に気付かなかった。
09時46分A受審人は、自船より低速力の清港丸の方位が徐々に右方に替わりながら前路180メートルのところで右舷側に無難に替わったものの、同船を見落としたまま続航するうち、左舷側の押船列が針路を右に転じて徐々に近づいていることを認め、これを避けるため自船も右転することとした。
09時47分A受審人は、北波除堤北灯台から220.5度730メートルの地点に達したとき、押船列の接近模様に気を取られて転針方向の見張り不十分で、右舷船首16度120メートルの清港丸に気付かないまま、針路を354度に転じたところ、同船の船尾に後方から接近する態勢となり、新たな衝突のおそれを生じさせたが、このことに気付かず、直ちに右転するなど、衝突を避けるための措置をとらないで同一針路で進行した。
こうして、光陽丸は、354度の針路で原速力のまま進行中、09時48分北波除堤北灯台から236度600メートルの地点において、その船首が清港丸の船尾に後方から2度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力4の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、清港丸は、専ら大阪港内において、海面の浮流ごみなどの回収作業に従事する全幅5.10メートルの双胴型鋼製作業船で、B受審人が1人で乗り組み、同作業の目的で、作業員2人を乗せ、船首尾とも1.0メートルの喫水をもって、同日07時30分同港大阪区第3区三十間堀1水門南側の社団法人大阪清港会専用浮桟橋を発した。
ところで、清港丸は、両胴部にそれぞれ主機及び推進器を装備した2基2軸型船で、左舷側胴部の船首甲板上に操舵室が設けられており、また、両胴部の間に張られた甲板の前部に、浮流ごみを甲板上に揚収するローターを装備し、その後部の甲板上にごみを集積する金網で囲われたコンテナ2個が船首尾方向に並んで設置されていた。そのため、これらコンテナがごみで一杯になったときは、操舵室内の操舵位置では右舷正横後45度から80度後方にかけてがコンテナの死角となって見張りが困難な状態となった。
B受審人は、発航後操舵室の操舵輪後部に置いたいすに腰掛けて見張りを兼ねて手動で操舵に当たり、大阪港大阪区第3区、第4区及び第5区の南港地区で順次浮流ごみなどを回収して航行し、08時50分南港外港オズ岸壁前で2個のコンテナがごみで一杯になったので作業を打ち切り帰途についたところ、間もなく右舷側プロペラに浮流していたロープが絡まり、これが外れないまま機関が停止したので、左舷機のみで航行を続けた。
09時38分B受審人は、北波除堤北灯台から193度1,500メートルの地点に達したとき、針路を大阪港第3突堤の南西角に向首する352度に定め、左舷機を全速力前進にかけ、3.6ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、自船が専ら大阪港内を航行する雑種船で、右舷機が使用できなかったうえ、右舷後方の見張りが困難な状況であったが、低速力で航行する自船を他船が避けてくれるものと思い、船尾甲板で休息中の一級小型船舶操縦士の海技免状を受有している作業員に後方の見張りを依頼するなど、後方の見張りを十分に行わずに続航した。
09時44分B受審人は、北波除堤北灯台から210度870メートルの地点に達したとき、右舷船尾16度370メートルのところで木津川運河を出てきた光陽丸が針路を右に転じて北上する態勢となり、互いにその針路が小角度で交差する状況となったものの、このことに気付かないまま、その後同船の前路を徐々に右方に替わり、同時46分その右舷側に出て進行した。
09時47分B受審人は、光陽丸が正船尾方向わずか左120メートルのところで再び右転して自船の船尾に接近する態勢となり、その後その方位が変わらず、新たな衝突のおそれがある状況となったが、依然後方の見張り不十分でこのことに気付かず、装備されている電気ホーンによる警告信号を行わないで続航中、同時48分少し前作業員の大声を聞いて後ろを振り向いたところ、間近に迫った光陽丸の船首部を認めたものの、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、光陽丸は船首材に擦過傷を、清港丸は船尾部に凹損をそれぞれ生じ、清港丸はのち修理され、また、同船作業員1人が転倒して打撲傷を負った。

(航法の適用)
本件は、大阪港内において、両船が、針路が小角度で交差する態勢で相前後して北上中、先航する清港丸が、光陽丸の前路を左方から右方に無難に替わって間もなく、同船が右転して清港丸の船尾に衝突した事案であるが、以下適用航法について検討する。
清港丸は、専ら大阪港内において海面に浮流するごみなどの回収に当たる作業船で、港則法第3条の雑種船にあたるものと認められる。
港則法第18条第1項において、雑種船は、港内において雑種船以外の船舶の進路を避けなければならないと規定されており、また、雑種船以外の船舶も、海上衝突予防法第40条に基づき、同法第17条の保持船の規定が適用されることとなる。
しかしながら、本件においては、両船が互いに針路が小角度で交差する状況であったものの、清港丸が衝突の約2分前に光陽丸の前路180メートルを左方から右方に無難に航過したのち、衝突の1分前に光陽丸が右転して新たな衝突のおそれを生じさせたものであり、本件においては前示規定を適用せず、船員の常務で律するのが相当である。

(原因)
本件衝突は、両船力がいずれも大阪港大阪区第4区を北上中、光陽丸が、転針方向の見張りが不十分で、自船の前路を無難に航過した清港丸の船尾に向けて転針し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、直ちに右転するなど、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、清港丸が、見張り不十分で、光陽丸に対して警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、大阪港大阪区第4区の木津川運河を出て北上中、左舷側至近を並走する押船列を避けるため針路を右に転じる場合、自船より低速力で右舷前方近くを先航する清港丸を見落とすことのないよう、転針方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、押船列の接近模様に気を取られ、転針方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、先航する清港丸に気付かないままその船尾に向けて転針し、同船と新たな衝突のおそれを生じさせて清港丸との衝突を招き、自船の船首材に軽損を、清港丸の船尾部に凹損などの損傷を生じさせたほか、清港丸の作業員に軽傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、プロペラにロープが絡まって片舷機のみの低速力で船舶交通のふくそうする大阪港大阪区第4区を北上する場合、船尾方向において転針し、新たな衝突のおそれが生じた光陽丸を見落とすことがないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、低速力で航行している自船を後方から接近する他船が避けてくれるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方を無難にかわる態勢にあった光陽丸が右転して新たな衝突のおそれが生じたとき、同船に対して警告信号を行わないまま航行を続け、光陽丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせたほか、自船の作業員に軽傷を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION