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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月3日21時25分 兵庫県尼崎西宮芦屋港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートジャスミン 全長 8.68メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
147キロワット 3 事実の経過 ジャスミンは、FRP製プレジャーボートで、株式会社Rが昭和60年に製造したYFV-680GPIV型GPSプロッタを装備し、A受審人ほか1人が乗り組み、同乗者5人を乗せ、花火見物の目的で、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成9年8月3日19時30分兵庫県尼崎西宮芦屋港新西宮ヨットハーバーを発し、大阪港大阪区新淀川に向かった。 ところで、上記GPSプロッタに搭載されている地図データは平成元年補刷された海図第106号が使用されていて、その後尼崎西宮芦屋港内で、発航地の南東方2.1海里ばかりのところに、西宮市鳴尾浜2丁目南端から197度(真方位、以下同じ。)方向へ300メートルにわたって新設された鳴尾防波堤は入力されておらず、同プロッタの取扱説明書に航海上の判断には必ず正規の海図を使用するよう記載されていた。 一方、A受審人は、平成8年8月ごろから会社勤務の余暇を利用し、1箇月に2度ほどジャスミンを使用して大阪湾内等でクルージングをしていたものの、夜間、新西宮ヨットハーバー以東の尼崎西宮芦屋港内を陸岸沿いに航行するのは初めてであったが、GPSプロッタを装備しているので大丈夫と思い、あらかじめ海図にあたるなどして、付近の水路調査を十分に行っていなかったので、鳴尾防波堤の存在を知らなかった。 A受審人は、20時00分ごろ淀川大橋の下流500メートルばかりの地点に至り、それまで操縦していた甲板員Bと交代して右舷側にある操縦席のいすに腰を掛け、付近で停留して花火見物を始め、21時00分ごろ帰途に就くこととし、その左側に見張員を配して手動操舵により新淀川を16.2ノットの速力で下航した。 21時20分A受審人は、西宮鳴尾防波堤灯台から135度1,620メートルの地点に達したとき、陸岸に沿うよう、針路を320度に定めたところ、鳴尾防波堤に向首する状況となっていたが、付近の水路調査を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、西寄りの波浪による船首船底の衝撃を和らげるため、速力を10.8ノットに減じて進行した。 A受審人は、前略に西宮鳴尾防波堤灯台を視認したものの、往航時はB甲板員に操縦を任せて船尾で同乗者と談笑していて同灯台の灯火を認めておらず、鳴尾防波堤の存在を知らなかったので灯浮標の灯火と思って続航し、21時25分少し前見張員の叫び声で船首至近に横たわる黒い影を認め、機関のクラッチを中立としたが及ばず、21時25分西宮鳴尾防波堤灯台から017度168メートルの地点において、ジャスミンは、原針路、原速力のまま鳴尾防波堤に衝突した。 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 衝突の結果、船首右舷に亀裂を伴う凹損及び船体に歪みを生じ、のち廃船とされ、同乗者Cが左頬骨等を骨折し、ほかに5人が負傷した。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、尼崎西宮芦屋港において、同港新西宮ヨットハーバーに向けて西行する際、水路調査が不十分で、鳴尾防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、尼崎西宮芦屋港において、同港新西宮ヨットハーバーに向けて西行する場合、同ヨットハーバー以東の同港内を陸岸沿いに航行するのは初めてであったから、あらかじめ海図にあたるなどして付近の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、GPSプロッタを装備しているので大丈夫と思い、付近の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、鳴尾防波堤に向首していることに気付かず進行して同防波堤との衝突を招き、船首右舷に亀裂を伴う凹損及び船体に歪みを生じさせ、C同乗者ほか5人を負傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |