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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月26日13時05分 宮城県松島湾 2 船舶の要目 船種船名 遊覧船しぶき遊
漁船ふじしま 全長 10.11メートル 登録長 9.20メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 132キロワット
128キロワット 3 事実の経過 しぶきは、船体前部に客室及び中央部に操舵室を有するFRP製遊覧船で、A受審人が1人で乗り組み、観光客9人を乗せ、松島湾遊覧の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年7月26日12時48分松島湾第5号観光桟橋を発し、湾内の観光コースの周航を開始した。 A受審人は、立った姿勢で見張りと手動操舵にあたり、機関を全速力前進の10.0ノットにかけて遊覧航路に沿って松島湾西部を南下し、12時57分半わずか前地蔵島灯台から342度(真方位、以下同じ。)1.36海里の地点で、針路を119度に定めて進行した。 12時58分わずか前A受審人は、景色の良いところに至り、半速力前進の7.2ノットに減速して乗客への案内を始め、13時01分わずか過ぎ地蔵島灯台から000度1海里の地点で、針路を馬放島と兎島との間に向く165度に転じて続航した。 13時02分A受審人は、正船首方670メートルに停留を開始したふじしまを認めることができ、その後衝突するおそれがある態勢で接近する状況であったが左舷方を向いて左手に持ったマイクで景色の説明をすることに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、同船を避けないまま進行中、13時05分地蔵島灯台から010度1,200メートルの地点において、しぶきの船首部が原針路、原速力のまま、ふじしまの右舷前部にほほ直角に衝突した。 当時、天候は曇で風力2の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 また、ふじしまは、船体中央部のキャビン及び船尾甲板に操縦席を有するFRP製の遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、遊漁客5人を乗せ、遊漁の目的で0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日05時30分宮城県浜田漁港を発し、塩釜港南東方沖合の釣り場に向かった。 B受審人は、06時30分釣り場に至り、付近を移動しながら魚釣りをさせたのち、12時30分花淵灯台から123度4.5海里の地点を発して帰途に就いた。 B受審人は、12時50分花淵灯台から058度1.8海里の地点で、針路を298度に定めて塩釜港の航路に入り、機関を半速力前進にかけ12.6ノットの速力で進行した。 12時55分B受審人は、地蔵島灯台から100度1.3海里の地点で、塩釜港第1号灯浮標を左舷側50メートルに並航して針路を290度に転じ、間もなく船尾甲板のマストにスパンカを展張したままであることに気付き、適当なところで停留して収納するつもりで続航し、同時59分半地蔵島灯台から084度900メートルの地点で、針路を,馬放島の北方水域に向く327度に転じた。 13時02分B受審人は、前示衝突地点に至って機関を中立運転とし、船首が255度を向いた状態で停留を始めたとき、右舷正横670メートルのところにしぶきを認めることができ、その後衝突するおそれがある態勢で接近する状況であったが、スパンカを収納することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、警告信号を行うことなく、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま作業を始めた。同時05分少し前右舷正横至近にしぶきの船首を初認し、衝突の危険を感じて船尾甲板上の操縦席で後進をかけたものの及ばず、船首が255度を向いたまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、しぶきは船首部に擦過傷を、ふじしまは右舷前部外板に破口を生じてのち修理された。
(原因) 本件衝突は、松島湾南西水域において、湾内観光遊覧中のしぶきが、見張り不十分で、前路で停留中のふじしまを避けなかったことによって発生したが、停留中のふじしまが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、松島湾南西水域において、観光客を乗せて湾内の観光遊覧を行う場合、遊覧水路内で停留中のふじしまを見落とすことがないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操縦をしながら左舷方を向いてマイクで景色の説明をすることに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ふじしまに衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、ふじしまの右舷前部外板に破口を、しぶきの船首部に擦過傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、停留してスパンカ収納作業をする場合、衝突するおそれがある態勢で接近するしぶきを見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし同人は、スパンカを収納することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続け、しぶきとの衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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