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1999年(平成11年)

平成9年門審第121号
    件名
漁船第八十二川添丸プレジャーボートみき衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、岩渕三穂、吉川進
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第八十二川添丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:みき船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
川添丸…左舷船底に擦過傷
みき…船首を大破、のち廃棄処分、船長が46日間の通院加療を要する左第6肋骨骨折、同乗者1人が、内臓切破による失血等で死亡、同1人が、1年間を越える入院及び通院加療を要する左股関節脱臼骨折等

    原因
川添丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
みき…見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八十二川添丸が、見張り不十分で、錨泊中のみきを避けなかったことによって発生したが、みきが、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月7日07時40分
鹿児島湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十二川添丸 プレジャーボートみき
総トン数 19トン
登録長 16.35メートル 5.18メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 17キロワット
漁船法馬力数 120
3事実の経過
第八十二川添丸(以下「川添丸」という。)は、養殖業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、養殖場のいけす整備の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成9年4月7日07時00分鹿児島県桜島東岸宇土湾内の係留地を発し、同島西岸野尻沖合の養殖場に向かった。
A受審人は、桜島を左舷方に見ながら、同島島岸に沿って反時計回りに進行し、07時33分御岳(1,117メートル頂)から320度(真方位、以下同じ。)4,450メートルの地点に達したとき、針路を北寅埼の北西方に向く227度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
ところで、川添丸は、主に桜島沿岸に設けられた4箇所のぶり及びかんぱちの養殖場に、冷凍のさば、いわしなどの餌を運搬して各いけすに投入する作業船で、操舵室前方の甲板上に長さ約2.5メートル幅約1.2メートル高さ約1.5メートルの、餌の魚を砕く造粒機が設置され、同機の前部には、餌を移動するための、直径30センチメートルで甲板上2.5メートルの高さに立ち上がる、筒状のらせん式コンベアが取り付けられ、また、船首部に油圧式のクレーンが設置されていたことから、操舵室の舵輪の後方に立って見張りに当たると、これらの構造物により、船首方の見通しが妨げられる状況であったので、平素、A受審人は、前方の見通しの良い、操舵室左舷側に設置された床からの高さ1メートの椅子に腰を掛けるか又はコード付きのコントローラー式遠隔操縦装置を持って二層式操舵室の上部に上がって見張りを行っていた。
A受審人は、07時37分御岳から302度4,600メートルの地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに、錨泊して釣りをしているみきを視認できる状況であったが、普段、養殖場の往復時に付近海域では船舶を見掛けなかったことから、前路に錨泊船はいないものと思い、前方の見通しの良い左舷側の椅子に腰を掛けるなどして前路の見張りを十分に行わず、舵輪の後方に立って右手で舵輪を持ちながら、左側後方を向いて左手で操舵室内に散乱していた雑誌等の整理をしていたので、みきに気付かなかった。
A受審人は、その後、みきに向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、操舵室内の整理に気を取られ、依然、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、07時40分御岳から291度4,950メートルの地点において、川添丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首がみきの船首に前方から2度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の衝撃でみきと衝突したことを知り、みきに接舷して移乗し、みきの同乗者を救助するなど、事後の措置に当たった。
また、みきは、船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日06時30分鹿児島県鹿児島港新港の係留地を発し、桜島西方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は、06時50分前示衝突地点に至り、機関を停止し、重さ約4キログラムの錨に直径12ミリメートル長さ200メートルの合成繊維索を錨索として取り付け、これを船首から水深約50メートルの海中に投じ、同錨索を80メートル延ばしたところで船首部のビットに止め、備えていた黒色球形形象物を表示しないまま、船首を045度に向けて錨泊し、前部甲板の左舷船首部と右舷中央部に同乗者を配し、自らは後部甲板の左舷側に腰を掛け、それぞれ長さ約2メートルの釣り竿を舷側から出して釣りを始めた。
07時37分B受審人は、正船首1,000メートルのところに自船に向けて接近する川添丸を視認し得る状況であったが、釣りに熱中し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので同船に気付かず、その後、川添丸の方位が変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で接近してきたものの、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることもしないまま、釣りを続けた。
B受審人は、07時40分少し前、前部甲板の右舷中央部で釣りをしていた同乗者の知らせで船首方の至近に迫った川添丸を認め、大声で叫んだものの効なく、みきは、船首を045度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、川添丸は、左舷船底に擦過傷を生じ、みきは、船首を大破し、のち廃棄処分された。また、B受審人は、46日間の通院加療を要する左第6肋骨骨折を負い、海中に投げ出されたみきの同乗者2人は、同船に収容されたが、同乗者C(大正10年2月3日生)は、内臓切破による失血等で死亡し、同Dは、1年間を越える入院及び通院加療を要する左股関節脱臼骨折等を負った。

(原因)
本件衝突は、鹿児島湾桜島西方沖合において、川添丸が、養殖場に向けて西行中、見張り不十分で、前路で錨泊中のみきを避けなかったことによって発生したが、みきが、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独で操船に当たり、鹿児島湾桜島西方沖合において、養殖場に向けて西行する場合、前路で錨泊する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、普段、養殖場の往復時に付近海域で船舶を見掛けなかったことから前路に錨泊する他船はいないものと思い、操舵室内の整理に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のみきに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、川添丸の左舷船底に擦過傷を生じさせ、みきの船首を大破させ、B受審人に46日間の通院加療を要する左第6肋骨骨折を負わせ、C同乗者を内臓切破による失血等で死亡させ、D同乗者に1年間を越える入院及び通院加療を要する左股関節脱臼骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、鹿児島湾桜島西方沖合において、錨泊して魚釣りをする場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、釣りに熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首方から接近する川添丸に気付力ず、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることもしないまま、釣りを続けて同船との衝突を招き、前示の損傷並びに同乗者の死亡及び負傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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