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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月13日01時50分 北海道花咲港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第5宝星丸 総トン数 124.42トン 登録長 31.82メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 698キロワット 3 事実の経過 第5宝星丸(以下「宝星丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、平成9年3月10日09時00分北海道釧路港を発し、翌11日06時ごろ択捉(えとろふ)島の箪冠(ひとかっぷ)湾沖合の漁場に至って操業を開始し、たら、かれいなど約30トンを漁獲して操業を終え、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、翌12日14時00分同漁場を発進し、北海道花咲港に向かった。 22時30分ごろA受審人は、納沙布(のさっぷ)岬灯台から133度(真方位、以下同じ。)26海里ばかりの地点にいたロシア連邦の漁業監視船の検査を受けるため同地点に向けて航行中、その手前2海里ばかりの地点で昇橋のうえ通信長と交代して甲板員2人と共に船橋当直に就き、同船の監督官と無線で交信したところ、検査を受けずにそのまま目的地に向け航行して差し支えない旨の許可を受け、同時42分同灯台から135度26海里の地点で、GPSプロッターを見て針路を花咲港東南東方沖合の巽ノ瀬のやや南側に向く290度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で自動操舵により花咲港に向けて進行した。 ところで、花咲港の入口は、同港東側の花咲岬から199度方向に990メートル延びる東外防波堤と同防波堤南南西端から285度430メートルのところを東端として267度方向に410メートル延びる西外防波堤とで形成され、東外防波堤南南西端近くに赤光灯及び西外防波堤東端近くに単閃緑光の花咲港西外防波堤東仮設灯台(以下「仮設灯台」という。)がそれぞれ設置されていた。 翌13日01時07分A受審人は、花咲灯台から127度5.1海里の地点に達し、巽ノ瀬を右舷側1.3海里に通過したとき、針路を花咲港の西外防波堤東端付近に向首する298度に転じたのち、同時25分入港用意を令し、昇橋してきた通信長を右舷側で見張りに当たらせ、甲板員2人を降橋させたあと、機関を半速力前進として5.0ノットの対地速力とし、操舵を手動に切り換え操舵室前方中央部の舵輪後方に位置して自らが操舵のうえ、やや右方に見る東外防波堤の赤火及びほぼ正船首方に見る仮設灯台の緑灯を目標にしながら、防波堤入口に向かった。 01時46分少し前A受審人は、東外防波堤の赤灯を右舷船首30度220メートルに見る、向首していた西外防波堤まで630メートルとなる地点に達したころ、操舵室左舷側後方の出入口のところに来た甲板長から「上甲板下のコンパニオンから下りたところの通路に水が溜まる。どこかに亀裂でもあるのではないか。」との報告を受けた。 その後A受審人は、甲板長との話に気を奪われ、西外防波堤に接近する前に転舵できるよう、船位確認のため前方の見張りを厳重に行うことなく、舵輪を持ったまま左後方を向いて甲板長と話をしながら、時折前方の仮設灯台の緑灯を見ているうちに、同灯台の緑灯を見失い、転舵地点を通り過ぎていることに気付かずに続航中、01時50分わずか前通信長の叫び声で前方を見たとき、至近に迫った西外防波堤を認め、あわてて機関を全速力後進としたが、効なく、01時50分宝星丸は、花咲灯台から220度1,340メートルのところの西外防波堤東端付近に、その右舷船首が原針路、原速力のまま衝突した。 当時、天侯は晴で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 衝突の結果、宝星丸は船首右舷側ブルワークを凹損したが、のち修理された。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、花咲港に入港するにあたり、見張りが不十分で、目標としていた灯光を見失い、防波堤に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、花咲港に入港する場合、向首していた西外防波堤に接近する前に転舵できるよう、船位確認のため前方の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、報告に来た甲板長との話に気を奪われ、前方の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、目標としていた西外防波堤の緑灯を見失い、転舵地点を通り過ぎていることに気付かずに進行して同防波堤と衝突を招き、宝星丸の船首右舷側ブルワークに凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |