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1999年(平成11年)

平成10年門審第125号
    件名
漁船広進丸プレジャーボート共和丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲、供田仁男、清水正男
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:広進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:共和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
広進丸…船首部外板の塗料を剥離
共和丸…船尾部外板を圧壊して船橋左舷側を損壊、船長が3箇月の入院加療となる右肩鎖関節脱臼骨折及び頭部打撲傷

    原因
広進丸…見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
共和丸…見張り不十分、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、共和丸を追い越す広進丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、共和丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月20日09時10分
長崎県勝本港
2 船舶の要目
船種船名 漁船広進丸 プレジャーボート共和丸
総トン数 4.2トン
登録長 10.65メートル 7.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 38キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
広進丸は、一層甲板の一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、よこわ漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年11月20日05時30分長崎県勝本港を発し、同港北西方沖合11.0海里ばかりの漁場に向かい、06時10分ごろ到着して同漁場付近において操業の後、漁獲のないまま操業を打ち切り、08時30分勝本港西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から295度(真方位、以下同じ。)10.9海里の地点を発進し、同港向け帰航の途に就いた。
ところで、広進丸の船橋からの前方の見通し状況は、16.0ノットを超えると船首が浮き上がり、更に前部甲板上中央部に設置された集魚灯の電球と両舷側に設置されたいか釣り機械とで死角を生じ、船首尾線から左右各舷15度から60度の範囲を除いて見えなくなり、船首を左右に振って死角を補って航行する必要があった。
A受審人は、発進とともに、針路を116度に定めて自動操舵とし、機関を17.0ノットの全速力前進にかけて進行した後、09時05分ごろ勝本港辰ノ島防波堤の西方1.0海里ばかりの地点で、入港に備えて操舵を手動操舵に切り替え、同時08分防波堤灯台から277度1,480メートルの地点に達し、針路を090度に転じたとき、左舷船首8度630メートルのところに、同港防波堤の入口に向かう共和丸を視認し得る状況で、その後同船を追い越す態勢で接近したが、前路を一瞥(べつ)して他船を認めなかったところから、他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うことなく、共和丸に気付かないまま、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けずに続航中、09時10分防波堤灯台から294度460メートルの地点において、衝撃を感じ、広進丸は、原針路、原速力のまま、その船首が共和丸の船尾に右舷後方から13度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、共和丸は、一層甲板のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日07時00分勝本港を発し、同時15分同港化西方の辰ノ島南西岸沖合の釣り場に到着して、遊漁を行い、ひらまさ3匹を獲て08時55分機関を2.0ノットの速力として釣りを続けながら帰航の途に就いた。
B受審人は、09時05分勝本港辰ノ島防波堤の東側に回り込んで、釣りを止め、釣り道具を収納した後、同時07分同港防波堤の入口に向けて発進し、防波堤灯台から286.5度1,290メートルの地点において、針路を102度に定め、機関を7.0ノットの速力として手動操舵で進行した。
B受審人は、09時08分防波堤灯台から288.5度880メートルの地点に達したとき、右舷船尾20度630メートルのところに広進丸を視認し得る状況となり、その後同船が自船を追い越す態勢で接近したが、後方を一瞥して他船を見かけなかったところから、接近する他船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行うことなく、これに気付かないまま続航した。
B受審人は、09時09分半少し前防波堤灯台から292度610メートルの地点に達して、左舷船首方350メートルばかりのところに引き船を認め、これを安全に替わすため針路を103度に転じて進行し、やがて広進丸が間近に接近したものの、依然として後方の見張りが不十分で、これに気付かず、左転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、同時10分少し前広進丸の機関音を聞き、後方を振り返ったところ自船の後方30メートルばかりに接近した広進丸を初めて認め、操舵室から甲板上に脱出した直後、共和丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、広進丸は船首部外仮の塗料を剥(はく)離し、共和丸は船尾部外板を圧壊して船橋左舷側を損壊し、のち修理されたが、衝突の衝撃でB受審人は海中に転落し、付近を航行中の僚船に救助され、病院に搬送されたものの、3箇月の入院加療となる右肩鎖関節脱臼骨折及び頭部打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県勝本港内において、共和丸を追い越す広進丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、共和丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県勝本港北西方の漁場から同港防波堤入口に向かって航行する場合、前部甲板上中央部に設置された集魚灯の電球と両舷側に設置されたいか釣り機械で死角を生じていたから、先航する他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥して他船を認めなかったところから、他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する共和丸に気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、広進丸の船首部外仮の塗料を剥離し、共和丸の船尾部外板を圧壊して船橋左舷側を損壊させ、B受審人に右肩鎖関節脱臼骨折及び頭部打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、勝本港外から同港防波堤入口に向かって航行する場合、後方から接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方を一瞥して他船を見かけなかったところから、自船に接近する他船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から接近する広進丸に気付かず、間近に接近したとき左転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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