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1999年(平成11年)

平成10年広審第18号
    件名
貨物船清竜丸貨物船日章丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:清竜丸一等航海士 海技免状:四級海技士
B 職名:日章丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
清竜丸…船首部を圧壊
日章丸…左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損

    原因
清竜丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
日章丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、清竜丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る日章丸の進路を避けなかったことによって発生したが、日章丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月7日17時20分
広島港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船清竜丸 貨物船日章丸
総トン数 692トン 419トン
全長 70.31メートル 72.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 735キロワット
3 事実の経過
清竜丸は、専ら産業廃棄物を阪神地方及び呉の諸港で積み、福山、福岡県苅田及び関門各港で揚げる船尾舟橋型貨物船で、船長C及びA受審人ほか4人が乗り組み、写真廃液756トンを積載し、船首2.3メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成8年11月7日16時10分呉港を発し、苅田港に向かった。
C船長は、船橋当直(以下「当直」という。)を同人、A受審人及び二等航海士による単独の4時間交替制とし、出入港及び狭水道で自ら操船し、狭視界になったとき、操業漁船が多いとき、船舶が輻湊するとき及び不安を感じたときには報告するように平素から指示するとともに、船橋に見張り、保針及び船位の確認を行うよう注意事項を掲示していた。
C船長は、発航したとき、航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、発航操船後当直に就き、16時36分食事交替に昇橋してきた二等航海士に当直を引き継いで降橋し、その直後A受審人が、昇橋して同航海士から当直を引き継いだ。
17時07分A受審人は、伝太郎鼻灯台から297度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を245度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
17時13分少し過ぎA受審人は、伝太郎鼻灯台から271度2.3海里の地点に達したとき、右舷船首35度2.0海里に存在した日章丸が航行中の動力船が表示する灯火を点灯していなかったものの、日没後まもない薄明時であったから、前路を左方に横切る態勢の同船の船体を視認することができ、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況にあったが、一瞥して前路に他船はいないと思い、レーダーと操舵装置の間に立って同装置に肘をついて寄りかかり、見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま続航した。
17時16分半A受審人は、伝太郎鼻灯台から266度2.9海里の地点で、日章丸の方位が変わらず1海里に接近したが、依然見張りを十分に行ってなかったので、これに気付かず、大きく右転するなり、機関を停止するなりして日章丸の進路を避けないで進行中、同時20分わずか前右舷船首至近に日章丸を認め、左舵一杯、機関を極微速力前進としたが及ばず、17時20分伝太良鼻灯台から262度3.5海里の地点において、清竜丸は、198度に向首したとき、10.0ノットの対地速力で、その船首が日章丸の左舷中央に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、日没は17時12分であった。
C船長は、衝撃で直ちに昇橋して衝突を知り、事後の処置に当たった。
また、日章丸は、船尾船橋型貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.15メートル船尾3.10メートルの喫水をもって、同月7日16時15分広島県大竹港を発し、東播磨港に向かった。
B受審人は、発航操船後、単独で当直に就き、16時54分半伝太郎鼻灯台から294度7.1海里の地点で、針路を138度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.4ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
B受審人は、定針したのち日没になったが周囲も比較的明るかったので航行中の動力船が表示する灯火を点灯しないで続航し、17時10分伝太郎鼻灯台から280度4.7海里の地点にさしかかったとき、左舷船首遠方に清竜丸を初めて認め、同時13分少し過ぎ伝太郎灯台から275度42海里の地点に達したとき、左舷船首38度2.0海里となった清竜丸が、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが左舷方の船は避航すると思い、動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、その後警告信号を行わず、間近に接近したが、行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないで進行中、同時20分わずか前左舷船首至近に迫った清竜丸を認め、右舵一杯にとったが及ばず、日章丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、清竜丸は船首部を圧壊し、日章丸は左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、日没後の薄明時、広島湾において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、清竜丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る日章丸の進路を避けなかったことによって発生したが、日章丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、日没後の薄明時、広島湾を西行する場合、日章丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一警して前路に他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、日章丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して日章丸との衝突を招き、自船船首に圧壊及び日章丸左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、日没後の薄明時、広島湾を南下中、左舷船首方に清竜丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷の船は避航すると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況にあったことに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近しても、行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないで清竜丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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