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1999年(平成11年)

平成10年長審第38号
    件名
漁船大寿丸プレジャーボートシロー1衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:大寿丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:シロー1船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大寿丸…左舷側防舷材が脱落
シロー1…船外機を損傷

    原因
大寿丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、大寿丸が、見張り不十分で、錨泊中のシロー1を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月7日12時40分
佐賀県加唐島西側海域
2 船舶の要目
船種船名 漁船大寿丸 プレジャーボートシロー1
総トン数 4.10トン
登録長 10.94メートル 5.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 244キロワット 66キロワット
3 事実の経過
大寿丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、いかを釣る目的で、船首0.40メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、平成9年4月7日06時00分佐賀県呼子港を発し、同県加唐島周辺の漁場に向かった。
06時18分ごろA受審人は、加唐島南端沖合の漁場に至り、漂泊して操業を始めたが折からの強い潮流のため釣果が獲られなかったので、潮流が弱まるのを待つためと魚群の探索を行うため、08時12分ごろ加唐島北西方800メートルばかり沖合の漁場に移り、潮上りを繰り返しながら探索を続けた。
12時27分ごろA受審人は、潮流がいくぶん弱まったので、この時期、いかがよく釣れていた加唐島西端付近の漁場に移動することにし、加唐島灯台から252度1,500メートルばかりの漁場を発進し、機関を2ノットばかりの極微速力前進にかけ、魚群探索のため蛇行しながらほぼ175度の進路で南下した。
12時37分少し過ぎA受審人は、加唐島灯台から232度1,730メートルばかりの地点に達したとき、機関の回転数を毎分1,100まで上げ、7.9ノットの対地速力として進行したが、魚群探索に気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、ほぼ正船首600メートルばかりのところに、自船に船尾を向けて錨泊し、魚釣り中のシロー1に気付かず、同船を避けることなく続航した。
大寿丸は、A受審人が前路のシロー1に気付かないまま、蛇行しながら魚群探索中、12時40分加唐島灯台から219度2,130メートルの地点において、その船首が233度に向いたとき、左舷船首部がシロー1の船尾に左舷後方から35度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、シロー1は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、たい的りを行う目的で、同日07時30分呼子港を発し、衝突地点付近の釣り場に向かった。
08時50分ごろB受審人は、釣り場に着いて魚群の探索を行ったのち、衝突地点で船首から投錨して直径10ミリメートルの錨索を50メートルばかり繰り出し、錨泊中であることを示す形象物を掲げないまま、自らは操舵室後部の右舷側に、友人は左舷側にそれぞれ船尾方を向いて座り、二人で両舷からそれぞれ太さ約3センチメートル水面上高さ約60センチメートルの浮子を船尾方に約100メートル伸出させ、たい釣りを始めた。
12時39分B受審人は、船首が198度を向き、自分の釣り糸を揚げてえさを付け替えていたとき、右舷船尾10度200メートルのところに、自船に接近する態勢の大寿丸を初認し、動静監視を行っていたところ、その後、同船が左転して友人の浮子に接近し、友人が釣り糸を同船に絡ませないように巻き始めると同船が浮子を避けようと右転するように見えたので、同船は自船に気付いているものと思って錨泊を続けた。
B受審人は、引き続き大寿丸の動静監視を行い、友人が釣り糸を巻き取っていたところ、同船が急に右転し、自船の船尾に異常接近するのを認め、慌てて警笛を鳴らして注意を喚起したが、間に合わず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大寿丸は、左舷側防舷材が脱落し、シロー1は、船外機を損傷したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、佐賀県加唐島西側海域において、魚群探索のために蛇行しながら南下中の大寿丸が、見張り不十分で、前路で錨泊して魚釣り中のシロー1を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、佐賀県加唐島西側海域において、魚群探素のために航行する場合、前路で錨泊して魚釣り中の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚群探索に気をとられ見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊して魚釣りをしているシロー1に気付かないまま進行して衝突を招き、自船の左舷側防舷材の脱落を、シロー1の船外機破損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、佐賀県加唐島西側海域において、投錨して魚釣りを行う際、錨泊中であることを示す標識を掲げていなかったことは遺憾であるが、大寿丸が前路の見張り不十分のまま、蛇行して魚群探索を行いながら接近していた点に徴し、本件発生の原因とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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