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1999年(平成11年)

平成9年広審第119号
    件名
作業船第二松信丸漁船一真丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一、黒岩貢、中谷啓二
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第二松信丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:一真丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
松信丸…推進器軸及び進翼翼を曲損
一真丸…船体を切断、のち廃船、船長が頭部挫創

    原因
松信丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
一真丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、小島北方の来島海峡航路南側海域において、第二松信丸が見張り不十分で、前路に漂泊して一本釣りに従事する一真丸を避けなかったことによって発生したが、一真丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月14日13時50分
来島海峡
2 船舶の要目
船種船名 作業船第二松信丸 漁船一真丸
総トン数 6.2トン 1.1トン
登録長 11.62メートル 5.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 323キロワット
漁船法馬力数 25
3 事実の経過
第二松信丸(以下「松信丸という。)は、船体のほぼ中央部に操舵室を有するFRP製の作業船で、A受審人及びB指定海難関係人が乗り組み、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって平成9年2月14日08時50分神戸港を発し、長崎県南高来郡有明町にある同船の係留地に向かった。
A受審人は、同船が建造された平成8年8月以来船長として乗り組み、同年9月には、神戸港の埋立工事に伴う潜水作業に従事することとなり、その後、同港での作業終了をもって係留地に帰港することになったものであるが、来島海峡航路の通航経験は今回が2度目であったことから帰港に当たっては、あらかじめ設定されたビデオプロッタの表示する進路線に従って航行することとしていた。
A受審人は、発航後明石海峡航路、備讃瀬戸東東航路及び同瀬戸地航路を西行し、13時40分ごろ来島海峡東口に差し掛かったが、この間、広い海域ではB指定海難関係人に操舵操船を行わせ、自らは操舵室後部にある長いすで休息をとるなどして、船橋当直に従事していた。
13時47分少し過ぎ、A受審人は、小島東灯標(以下「東灯標」という。)から175度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点に達し、西水道を北上しているとき、針路を010度に定めて手動操舵とし、機関を24.0ノットの全速力前進にかけ、折からの4ノットの南流に抗して20.0ノットの対地速力となって進行したが、同船の高速力前進時の前方の見通しは、船首浮上により左右各舷約1点半にわたり、死角を生じる状況となっていた。
このころA受審人は、燃料油の計測を行うため、操舵室の下の機関室に行くこととしてB指定海難関係人に、一時、操舵を行わすことにしたが、同船は間もなく西水道の北口に差し掛かって東灯標に並行した後は、北西方に転針することとなり、小島の同灯標北側の同島背後にあたる海域には、漁船が点在して釣りを行うことの多い場所であったから、見張りを十分に行って航行することが要求される海域であったものの、前方を見渡したところ支障となる他船を認めなかったので、短時間なら無資格者に操舵を行わせてもよいと思い、ビデオプロッタの表示する進路線に従って操船を行うよう告げただけで、自ら操舵操船に当たることなく、操舵室を離れた。
こうしてB指定海難関係人は、13時49分少し前東灯標から150度600メートルの地点に達したとき、左舷船首33度880メートルのところに、小島北東端の陰から現れた一真丸を視認し得る状況となったが、A受審人の指示に従ってビデオプロッタの映像を見ながら操船に当たっていたので、このことに気付かなかった。
13時49分少し過ぎB指定海難関係人は、東灯標から111度400メートルの地点に達したときビデオプロッタの表示に従って、小島北側に向首する312度に転じることとなったが、このとき左舷船首58度540メートルのところに漂泊して釣りを行っている一真丸を視認し得る状況となったものの、ビデオプロッタの表示にのみ気を奪われ、転針方の見張りを十分に行うことなく転針し、南流によって左方に4度圧流されながら308度の進路となって23.0ノットの対地速力で同船と衝突のおそれのある態勢となって接近した。
13時49分半B指定海難関係人は、一真丸をほぼ正船首350メートルに認め得る状況となったが、船首方の死角で同船を認めないまま、同船を避けずに続航中、同時50分少し前一真丸の船尾に設けられた竹ざおに掲げられた白旗を船首至近に初認したが、どう対処することもできず、13時50分東灯標から353度160メートルの地点で、原針路、原速力のままの松信丸の左舷船首部が、一真丸の、左舷中央部に前方から41度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候はほぼ満潮時で、衝突地点付近には約3ノットの南流があった。
A受審人は、衝撃を受けて操舵室にもどり事後の措置にあたった。
また、一真丸は、有効な音響設備をもたないFRP製の漁船で、一本釣りを行う目的で、C受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日06時50分愛媛県今治市大浜町の係留地を発し、東灯標の北西方の釣り場に向かった。
C受審人は、釣り場に到着後、適宜、潮のぼりを繰り返しながら釣りを行い、13時45分東灯標から354度620メートルの地点において、機関を適宜使用して船首方向を調整し、折からの南流により3ノットの対地速力で173度の方向に圧流されながら右舷後方甲板上に腰かけ船尾方を向いた姿勢となり、釣り糸を流していた。
ところで同海域は、来島海峡西水道を北上する小型の船舶が、小島の陰から現れて、同海峡航路の南側水域を北西進して航行することがあったから、付近北区域で釣りを行うときは、同方向の見張りを十分に行うことが要求される場所であった。
13時49分少し前C受審人は、東灯標から353度290メートルの地点に達し、船首が173度を向首していたとき、左舷船首10度880メートルのところに、小島東端の陰から現れた松信丸を視認し得る状況となったがこのことに気付かずに釣りを行っていた。
13時49分少し過ぎC受審人は、東灯標から353度210メートルの地点に達したとき、松信丸が左舷船首41度540メートルのところで自船に向け転針し、衝突のおそれのある態勢となって接近したが、釣りに専念して周囲の見張りを行うことなく、このことに気付かず、その後機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらずに漂泊していたところ、突然船首方に他船の機関音を聞いて同方向を振り返ったところ、至近に迫った松信丸を初めて視認したが、どう対処することもできず、173度を向首しているとき前示のとおり衝突した。
衝突の結果、松信丸は推進器軸及び推進翼を曲損し、のち修理されたが、一真丸は船体を切断し、のち廃船となり、C受審人は頭部挫創を負った。

(原因)
本件衝突は、小島北方の来島海峡航路南側海域において、北西方に向け転針しようとした松信丸が、転針方向の見張りが不十分で、前路に漂泊して釣りを行っている一真丸を避けなかったことによって発生したが、一真丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
松信丸の運航が適切でなかったのは、船長自らが操舵操船に当たらなかったことと、無資格者が操舵操船に当たり、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、小島北方の来島海峡航路南側海域に向け北上中、間もなく西水道の北口に差し掛かり、北西方に向け転針することとなった場合、転針方向にあたる小島北側の陰の海域は漁船が点在して釣りを行うことの多い場所であったから、自ら操舵操船を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前方を見渡したところ支障となる他船は見当たらなかったことから、短時間なら無資格者に操舵操船を行わせてもよいと思い、自ら操舵操船を行わなかった職務上の過失により、一真丸との衝突を招き、松信丸の推進器軸及び推進翼に曲損を、一真丸の船体を切断し、C受審人に頭部挫創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
C受審人は、小島北方の来島海峡航路南側海域で、漂泊して一本釣りを行う場合、自船に向首して接近する松信丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、釣りに専念して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、松信丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに、衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も頭部挫創を負うに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、来島海峡の西水道北側海域を航行する際、見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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