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1999年(平成11年)

平成10年函審第73号
    件名
漁船第7伸栄丸プレジャーボートアミ衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕
    理事官
副理事官 堀川康基

    受審人
A 職名:第7伸栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:アミ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
伸栄丸…船首部に擦過傷
アミ…左舷側中央部に亀裂を生じのち廃船

    原因
伸栄丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
アミ…見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第7伸栄丸が、動静監視不十分で、錨泊中のアミを避けなかったことによって発生したが、アミが、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月20日12時30分
北海道根室市温根沼(おんねとう)
2 船舶の要目
船種船名 漁船第7伸栄丸 プレジャーボートアミ
総トン 1.73トン
全長 5.62メートル
登録長 7.08メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 18キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
第7伸栄丸(以下「伸栄丸」という。)は、刺網漁業、採介藻漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人及び同人の妻が乗り組み、あさり漁をする目的で、船首0.05メートル船尾0.10メートルの喫水をもって、平成10年9月20日06時30分北海道根室市幌茂尻漁港(温根沼地区)を発し、温根沼の北部岸近くの漁場に至り、操業を開始した。
温根沼は、根室半島のほぼ南西端に位置する南北約2.5海里、東西約0.8海里の方形状をした海水湖で、その北西端部が根室湾と接していて同沼への出入口となっており、約500メートル幅で湾曲をなした出入口中間部に温根沼大橋が架けられていた。
12時27分少し前A受審人は、あさり貝約80キログラムを獲たところで操業を終え、幌茂尻港温根沼西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から136度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点で帰途に就くため発進しようとして出入口方向を見たとき、238度580メートルのところにアミを認めたあと、針路を同船に向首する238度に定め、6.0ノットの対地速力で、船尾部に腰掛けて船外機の舵柄を操作しながら進行した。
ところで、伸栄丸は、採取したあさり貝を網袋6個に入れてA受審人のすぐ前側の船尾部に積み、同人の妻が船体中央部に腰掛けていたことと、航行による船首の浮上により、船尾部の操船位置からは正船首から左右10度ばかりの範囲の水平線が見えず、船首方に死角が生じていた。
12時28分少し過ぎA受審人は、西防波堤灯台から159度750メートルの地点に達したとき、アミが正船首300メートルとなり、同船は錨泊していることを表示する形象物を掲げていなかったものの、その向きや船首方の錨索などから錨泊して釣りを行っていることが分かる状況にあったが、漁場発進時に同船を視認した際、同船は出入口の西寄りで、自船の転舵予定地点よりも西側に位置しているものと思い、右舷前方の岸近くで沼に入って釣りをしている釣り人に気を奪われ、船首を左右に振ったり、同人の妻を船首部に配置して見張りに当たらせるなどの船首方の死角を補う見張りを行ってその動静を監視していなかったので、そのことに気付かなかった。そして、A受審人は、その後同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然動静監視を不十分としたまま同船を避けることなく続航中、12時30分西防波堤灯台から180度850メートルの地点において、伸栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首がアミの左舷側中央部に前方から77度の角度で衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、アミは、主として釣りに使用していた和船型のFRP製プレジャーボートで、B受審人が乗り組み、友人2人を乗せ、かれい釣りをする目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同20日06時00分幌茂尻漁港(温根沼地区)を発し、温根沼の中央部付近に至り、釣り場を変えながら釣りを行った。
11時45分B受審人は、前示の衝突地点に至って機関を停止したのち、錨を投入して直径10ミリメートルの化学繊維製ロープを12メートルばかり延出のうえその端部を船首部の桟にとって錨泊し、当該場所は温根沼へ出入りする漁船などの航路筋になっていたが、錨泊していることを表示する形象物を掲げずに釣りを始めた。
12時28分少し過ぎB受審人は、船首を135度に向けたアミの船尾部で左舷側後方を向き腰を下して釣りをしていたとき、左舷船首77度300メートルのところに伸栄丸を視認でき、その後同船は自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で自船を避けずに接近していたが、錨泊船を航行船側が替わしていくものと思い、釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近したが、船外機を始動するなどして衝突を避けるための措置をとらずに釣りを続けた。そして、12時29分半B受審人は、左舷側中央付近で釣りをしていた友人の声で同人の方に顔を向けたとき、左舷方80メートルのところに自船に向首して接近中の伸栄丸を初認したが、同船は本船の存在に気付いており、そのうち避航するものと思い、竿先に目を移して釣りを続け、12時30分少し前再び同人の緊迫した声を聞き、振り返ったところ、至近に迫った相手船を認めたが、どうすることもできないでいるうちに前示のとおり衝突した。
衝突の結果、伸栄丸は船首部に擦過傷を生じ、アミは左舷側中央部に亀裂を生じのち廃船された。

(原因)
本件衝突は、北海道根室市温根沼において、伸栄丸が、動静監視不十分で、錨泊中のアミを避けなかったことによって発生したが、アミが、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道根室市温根沼において、操業を終えて帰港するに当たり、同沼の出入口にアミを認めた場合、航行による船首の浮上などにより、船尾部の操船位置からは正船首から左右10度ばかりの範囲の水平線が見えず、船首方に死角が生じていたのであるから、正船首方で錨泊中のアミとの衝突のおそれの有無を判断できるよう、船首を左右に振ったり、同人の妻を船首部に配置して見張りに当たらせるなどの船首方の死角を補う見張りを行ってその動静を監視すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、同船を初認した際、同船は出入口の西寄りで、自船の転舵予定地点よりも西側に位置しているものと思い、右舷前方の岸近くで沼に入って釣りをしている釣り人に気を奪われ、船首方の死角を補う見張りを行ってその動静を監視しなかった職務上の過失により、アミと衝突のおそれのある態勢で接近していたことに気付かず、同船を避けずに進行して同船との衝突を招き、伸栄丸の船首部に擦過傷及びアミの左舷側中央部に亀裂を生じさせるに至った。
B受審人は、北海道根室市温根沼において、錨泊して釣りをする場合、左舷方から接近する伸栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、錨泊船を航行船側が替わしていくものと思い、釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、伸栄丸が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で自船を避けずに接近していたことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、船外機を始動するなどして衝突を避けるための措置をとらずに釣りを続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

参考図






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