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1999年(平成11年)

平成9年広審第122号
    件名
漁船寳山丸岸壁衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、杉崎忠志、上野延之
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:寳山丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
寳山丸は、船首部に亀裂を伴う凹損、係留されていた僚船の船尾鳥居型マストに亀裂

    原因
操船・操機(機関操縦系統切替手順の確認不十分)不適切

    主文
本件は、機関操縦系統切替手順の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月11日07時10分
鳥取県網代港
2 船舶の要目
船種船名 漁船寳山丸
総トン数 59.96トン
登録長 25.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 485キロワット
3 事実の経過
寳山丸は、沖合底びき網漁業に従事し、可変ピッチプロペラを装備する鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首2.8メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成9年2月9日22時00分鳥取県岩美郡網代港を発し、同県気高郡長尾鼻沖合いの日本海の漁場に向かい、翌10日00時30分ごろから操業を開始して、蟹(かに)鰈(かれい)等を約5.5トン採捕したところで荒天模様になったため操業を中止し、翌11日05時00分前示漁場を発進して帰航の途に就いた。
ところで、寳山丸は、持ち運び式遠隔操舵装置(以下「操舵コントローラ」という。)並びに推進クラッチの嵌合・離脱及び推進プロペラの翼角制御ができる持ち運び式遠隔機関操縦装置(以下「機関操縦コントローラ」という。)を装備しており、これらは共に離着岸操船に使用されていた。
また、両装置は、船橋内中央に設置している操舵スタンド及び同スタンド左舷側に設置されている遠隔機関縦スタンド(以下「機関操縦スタンド」という。)のそれぞれの切替スイッチを持ち運び式遠隔側に切り替えて使用するようになっていた。
こうしてA受審人は、発進後、機関を機関操縦スタンドで機関回転数毎分(以下「回転数」という。)840、翼角14度の全速力前進にかけ、自動操舵により1人で操舵操船に当たり、07時06分半わずか過ぎ網代港第2防波堤(以下「防波堤灯台」という。)から257度(真方位、以下同じ。)265メートルの網代港防波堤外に達し、速力を回転数780、翼角10度の半速力前進に減速して、6.5ノットの対地速力とすると共に自動操舵から手動操舵に切り替え、以後持ち運び式遠隔装置を使用して入港着岸操船に当たることとし、左手に操舵コントローラを、右手に機関操縦コントローラをそれぞれ保持して、操舵室の右舷側に立って操舵操船を行うこととした。
ところが、このときA受審人は、操舵スタンドの切替スイッチを持ち運び式遠隔操舵側に切り替えたものの、機関操縦スタンドの切替スイッチを持ち運び式遠隔機関操縦側に切り替えることを失念し、機関操縦系統の切替手順の確認が不十分で、機関操縦系統が機関操縦スタンド側のままになっていることに気付かなかった。
その後A受審人は、半速力前進のまま防波堤を付け回して操舵を行い、07時09分わずか前防波堤灯台から111度70メートルの地点で、針路を着岸予定岸壁に向く210度に定めて続航中、同時09分半わずか過ぎ同岸壁まで80メートルとなり、機関操縦系統が持ち運び式遠隔機関操縦側に切り替わっているものと思い込み、機関操縦コントローラの翼角操作スイッチを後進翼角に操作したが、前示のとおり機関操縦系統が機関操縦スタンド側のままになっていたため、寳山丸は減速されることなく進行した。
A受審人は、自身の減速操作にもかかわらず寳山丸が減速しないので、異常を感じて機器を点検するうち、機関操縦スタンドの切替スイッチが特ち運び式遠隔機関操縦側に切り替わっておらず、機関操縦スタンド側になっていることに気付いて、直ちに持ち運び式遠隔機関操縦側に切り替えるも及ばず、寳山丸は、07時10分防波堤灯台から191度220メートルの岸壁に、ほとんど原速力のまま船首部がほぼ直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力6の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
岸壁衝突の結果、賓山丸は、船首部に亀裂を伴う凹損を生じ、岸壁衝突の反動により、船首が左方に振られそのまま進行し、無人のまま南東側隣接岸壁に右舷付け係留されていた僚船魁丸の船尾部に、寳山丸の船首部が衝突し、魁丸の船尾鳥居型マストに亀裂などを生じたか、のちいずれも修理された。

(原因)
本件岸壁衝突は、機関操縦スタンドから機関操縦コントローラに、機関操縦系統を切り替えて入港着岸操船を行うに際し、同系統切替順の確認が不十分で、同系統の切替スイッチが持ち運び式遠隔機関操縦側に切り替えられることなく、機関操縦コントローラによる行きあしの制御ができず、着岸予定岸壁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関操縦スタンドから機関操縦コントローラに機関操縦系統を切り替えて入港着岸操船を行う場合、同系統の切替手順の確認を行うべき注意義務があった。
しかるに同人は、機関操縦コントローラ頻繁に使用していたことから、機関操縦系統切替スイッチを持ち運び式遠隔機関操縦側に切り替える操作を失念し、同系統の切替手順の確認を行わなかった職務上の過失により、機関操縦系統が機関操縦コントローラに切り替わっているものと思い込み、同コントローラで行きあしの制御ができないことに気付かず、着岸予定岸壁に向首進行して、同岸壁との衝突を招き、寳山丸の船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせると共に、その反動により隣接岸壁に係留中の魁丸に衝突して同船の船尾鳥居型マストに亀裂などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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