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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月21日08時20分 北海道室蘭港 2 船舶の要目 船種船名 貨物船勝和丸
引船摩周丸 総トン数 499トン 196トン 全長 75.15メートル 登録長
29.97メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 勝和丸は、主として鋼材の運搬に従事するバウスラスタを装備した船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材積込みのため空倉のまま、船首1.7メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成10年1月20日18時00分苫小牧港を発し、室蘭港に向かった。 22時30分A受審人は、室蘭港第2区の室蘭港南防波堤灯台(以下、航路標識及び港湾施設の名称については「室蘭港」の冠称を省略する。)から136度(真方位、以下同じ。)620メートルの地点に至り、錨泊のうえ待機したのち、同月23日に予定されていた新日鉄ふとうでの鋼材の積込み前に食料品を仕入れるため中央ふ頭に接岸して待機することとし、同21日07時50分抜錨して同ふ頭に向かった。 ところで、勝和丸の操舵室には主機遠隔操縦装置が装備され、主機関の前後進の切り換え、始動、停止及び速度の調整を1本の操縦ハンドルで操作が可能であり、主機が故障等により過速度となった時、過速度危急停止が作動して主機が自動的に停止するとともにディスプレイ装置に過速度危急停止の警報が表示され、その解除は機側の燃料ハンドルを停止位置に戻すことにより行うようになっていた。 A受審人は、操舵室で操舵操船に当たり、一等航海士と一等機関士を船首及び機関長を船尾に配置のうえ、抜錨後機関を極微速力前進にかけ、北東進して航路に入り、その後機関を4.5ノットの微逮力前進にかけて航路沿いに南東進し、第4号灯浮標を右舷側近くに見て通過して間もなく、ゆっくりと右転を開始して航路を出たあと、08時08分新日本製鉄ふとう灯台(以下「ふとう灯台」という。)から239度560メートルの地点で、中央ふ頭西側北寄りの4号岸壁に係留していた摩周丸の南側の5号岸壁に入船状態に左舷付けをすることとして、針路を同ふ頭北西角をわずか左方に見る188度に定めて手動操舵により南下した。 08時17分半A受審人は、中央ふ頭北西角を左舷船首5度260メートルに見る、船首が同角から200メートルとなる地点に達したが、速力に対して配慮することなく、同角にもう少し接近してから減速しても間に合うものと思い、速やかに減速する措置をとらずに微速力前進としたまま同一針路で進行した。 08時18分半A受審人は、船首が中央ふ頭北西角から40メートルとなったとき、ようやく機関を半速力後進にかけ、減速しながら前進し、同時19分半船橋が同角に20メートルばかり離れて並航したころ、急速に操縦ハンドルを後進一杯に引いたことの影響によるものか突然主機関遠隔操縦装置の過速度危急停止が作動して主機が自動停止し、やや左転しながら前方に係留中の摩周丸に向かって前進を続けたが、速やかに錨を下して行きあしを止める措置をとらないでいるうちに、08時20分勝和丸は、同角から90メートル南寄りの、ふとう灯台から201度1,980メートルの地点において、175度を向首し、約1ノットの残存速力で、その船首が摩周丸の船尾右舷寄りに後方から15度の角度をもって衝突した。 当時、天候は雪で風力3の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。 また、摩周丸は、鋼製の引船兼交通船で、船長Bほか3人が乗り組み、同20日23時45分カーフェリーの離岸援助作業を終え、船首2.27メートル船尾3.47メートルの喫水をもって、前示衝突地点に係留索3本で左舷付けしたのち、乗組員全員が下船して無人としたまま係留中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、勝和丸の球状船首に擦過傷並びに摩周丸の船尾外板及び防舷材に凹損を生じ、同船の係留索1本が切断した。
(原因) 本件衝突は、北海道室蘭港において、勝和丸が、岸壁に接岸するに当たり、速力に対する配慮が不十分で、行きあし過大のまま岸壁に接近した際、主機が過速度危急停止し、岸壁係留中の摩周丸に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、自ら操船のもとに北海道室蘭港の中央ふ頭の岸壁に接岸のため接近する場合、行きあし過大とならないよう、速力に対して十分に配慮すべき注意義務があった。しかし、同人は、岸壁にもう少し接近してから減速しても間に合うものと思い、速力に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、行きあし過大のまま岸壁に接近した際、主機が過速度危急停止し、岸壁係留中の摩周丸に向かって進行して同船との衝突を招き、勝和丸の球状船首に擦過傷並びに摩周丸の船尾外板及び防舷材に凹損を生じさせ、同船の係留索1本を切断させるに至った。
参考図
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