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1999年(平成11年)

平成10年横審第107号
    件名
貨物船大福丸漁船利作丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、長浜義昭、河本和夫
    理事官
岩渕三穂

    受審人
A 職名:大福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:利作丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大福丸…損傷なし
利作丸…左舷側を圧壊して転覆、のち沈没

    原因
大福丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
利作丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、大福丸が、見張り不十分で、停留中の利作丸を避けなかったことによって発生したが、利作丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月11日05時45分
伊勢湾神島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船大福丸 漁船利作丸
総トン数 279トン 2.2トン
全長 44.47メートル
登録長 8.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 40
3 事実の経過
大福丸は、船首部にジブクレーンを装備した砂利採取運搬船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.7メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、平成10年6月11日03時55分愛知県東幡豆港州崎地区を発し、三重県菅島南西側の砕石積場に向かった。
A受審人は、発航後一人で操舵操船に当たっで渥美湾を南下し、04時59分尾張野島灯台から125度(真方位、以下同じ。)0.3海里の地点において、針路を215度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、折からの北東流に抗して9.2ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
05時26分A受審人は、伊勢湾第3号灯浮標の北西方0.6海里にあたる、神島港北防波堤灯台から346度2.8海里の地点に達したとき、3海里レンジとしたレーダーで前路3海里に多数の漁船の映像を探知し、レーダーで監視していたところ、これら漁船がほぼ一団となって少しずつ左舷船首方に替わっていくのを認めたが、この一団以外に漁船はいないものと思い、肉眼による周囲の見張りも併せて十分に行わなかったので、右舷船首方に1隻離れて魚群探索に従事していた利作丸を認めないまま、三重県答志島北東の小築海島に近寄ってから菅島水道に向かうつもりで続航した。
05時43分A受審人は、小築海島の手前0.6海里に至ったとき、正船首わずか右0.3海里のところに、ほぼ停留状態で魚群探索中の利作丸を認め得る状況にあったが、依然肉眼による周囲の見張りを行わず、左舷側の漁船群に気をとられていたこともあって利作丸に気付かず、これを避けずに進行中、同時45分少し前小築海島の手前0.35海里に接近し、菅島水道に至るための転針地点に達したとき、船首至近に迫った利作丸を初めて認め、急いで左舵をとったが、及ばず、05時45分神島港北防波堤灯台から277度2.4海里の地点において、大福丸は、ほほ原針路、原速力のまま、その船首が、利作丸の左舷側中央部に、後方から18度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、衝突地点付近には弱い北東流があった。
また、利作丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか一人が乗り組み、操業の目的で、同日05時00分三重県答志漁港を発し、途中、同漁港オードーシ地区で生き餌を積み込んだ後、大築海島西側を経て、05時30分小築海島北方0.4海里の地点に至って魚群探索を始めた。
B受審人は、船首部で前方の見張り及び海面状況の監視に当たり、05時42分小築海島北北東方0.4海里のところで船首を197度に向け、操舵を甲板員に行わせて機関回転数を毎分400とし、折からの北東流に抗して1ノット弱の行きあしを保ちながらほぼ停留状態で、魚群探素を続けていたところ、同時43分前示衝突地点付近において、左舷船尾18度0.3海里のところから大福丸が衝突のおそれがある態勢で接近していたが、船首左方に見えていた漁船群に気を奪われ、後方の見張りが不十分になり、これに気付かなかった。
こうして、B受審人は、機関の回転を上げて大福丸の船首方向から遠ざかるなど衝突を避けるための措置をとらずに続航中、05時45分わずか前左舷船尾至近に迫った大福丸を初めて認めたが、どうすることもできず、船首を197度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大福丸に撮傷はなく、利作丸は左舷側を圧壊して転覆し、大福丸が引き上げ作業中に沈没し、B受審人及び甲板員は海中に放り出されたが、大福丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、伊勢湾内において、大福丸が、小築海島北東方を航行中、見張り不十分で、前路でほぼ停留した状態の利作丸を避けなかったことによって発生したが、利作丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、伊勢湾内において、小築海島北東方を航行中、前路に多数の漁船をレーダーで探知し、それらの映像がほぼ一団となって左舷船首方に替わっていくのを認めた場合、単独で操業している他船を見落とさないよう、肉眼による周囲の見張りも併せて十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、レーダーで認めていた漁船群以外に他船はいないものと思い、肉眼による周囲の見張りも併せて十分に行わなかった職務上の過失により、前路でほぼ停留状態の利作丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、利作丸の左舷側を圧壊し、転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条2項の規定より、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、小築海島北東方で1ノット程度の行きあしはあるもののほぼ停留状態で漁群探索を行う場合、自船に接近する他船に対して衝突を避けるための措置がとれるよう、周囲の見張りを適宜行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、左舷船首方に見えていた漁船群に気を奪われて、後方を含む周囲の見張りを適宜行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で左舷後方から接近する大福丸に気付かず、機関の回転を上げて同船の船首方向から遠ざかるなど衝突を避けるための措置をとらないまま魚群探索を続けて同船と衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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