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1999年(平成11年)

平成10年門審第114号
    件名
漁船第八十八昭幸丸漁船日吉丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀
    理事官
副理事官 蓮池力

    受審人
A 職名:第八十八昭幸丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:日吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
昭幸丸…右舷錨に擦過傷
日吉丸…船首外板が圧壊

    原因
昭幸丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
日吉丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八十八昭幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る日吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、日吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこともその一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月16日14時00分
速吸瀬戸南部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十八昭幸丸 漁船日吉丸
総トン数 199トン 4.63トン
登録長 44.21メートル 9.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 80
3 事実の経過
第八十八昭幸丸(以下「昭幸丸という。)は、バウスラスターを備えた船尾船橋型活魚運搬船で、専ら四国及び九州で活魚を積み込んで関西及び関東に運搬する業務に従事し、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、大分県入津漁港で鰤(ぶり)8,500キログラム及び同県津久見港沖合の生け簀(す)ではまち12,700キログラムの活魚をそれぞれ積み込み、船首3.2メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成10年6月16日12時50分同生け簀を発し、兵庫県垂水漁港に向かった。
A受審人は、発航後しばらく航海当直を続けていたが、13時20分ごろB指定海難関係人が早めに昇橋してきたので、同指指定海難関係人に単独の船橋当直を委ねることとし、当時、船舶交通の輻輳する速吸瀬戸を横切って航行する状況にあったが、視界の状態が良好であったことに気を許し、見張りを十分に行い、接近する他船を発見したときは必ず船長に知らせてその指示を仰ぐように指示することなく、単に気をつけて航行するように注意を与えただけで降橋した。
B指定海難関係人は、13時30分沖無垢島142メートル島頂から270度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を007度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.6ノットの対地速力で進行した。
13時55分B指定海難関係人は、右舷船首26度1.5海里に前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する日吉丸を視認できる状況となったが、左舷船首6海里ばかりに速吸瀬戸を南下していた巨大タンカーの動静に気をとられ、右舷前方の見張りが不十分となって日吉丸に気づかず、同船の進路を避けずに続航中、14時00海獺碆(あしかばえ)灯台から160度2.1海里の地点において、日吉丸は、その船首が原針路・原速力のままの昭幸丸の右舷錨に前方から52度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、日吉丸は、専ら速吸瀬戸の高島付近で日帰りの延(はえ)縄漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人と妻の甲板員が2人で乗り組み、船首0.45メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、同日05時00分大分県佐志生漁港を発し、同時45分高島南東方沖合の漁場に至り、2回ほど操業をしたのち、13時45分さめ及びぐちなど60キログラムの漁獲を得たので、佐志生漁港へ帰港の途につくこととした。
C受審人は、妻を船首の上甲板で釣針の作業にあたらせ、自身は舵輪の前の窓枠に右舷側を向いて腰掛け、天井に張っていたオーニングの頭上部分を捲(まく)り、レーダーの電源を入れずにこれを活用しないまま、オーニングの間から頭を出して前方の見張りに従事し、13時51分海獺碆灯台から120度2.4海里の地点に達したとき、針路を佐志生漁港に向首する239度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、遠隔手動操舵にあたって進行した。
13時55分C受審人は、左舷船首26度1.5海里に前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する昭幸丸を視認できる状況となったが、視界が良好であったことに気を許し、折から船首方向からの太陽光線が前方の海面を照らして眩しく、窓枠に腰掛けたままレーダーを活用しなかったので、昭幸丸に気づかず、警告信号を吹鳴しないまま航行しているうち、更に両船が接近して間近に至る状況となったものの、依然として同船に気づかず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、昭幸丸は右舷錨に擦過傷を生じ、日吉丸は船首外板が圧壊したが、自力航行して帰港したのち修理された。

(原因)
本件衝突は、速吸瀬戸において、昭幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していた日吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、日吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
昭幸丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資者の船橋当直者に見張りを十分に行うように指示しなかったことと、船橋当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、速吸瀬戸を横断するときに無資格の甲板員に船橋当直を委ねる場合、同瀬戸を航行する漁船などを見落とすことのないよう、見張りを十分に行うように指示すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、視界が良かったことに気を許し、見張りを十分に行うように指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が見張り不十分で、右舷船首方から接近していた日吉丸に気づかないまま進行して衝突を招き、昭幸丸の右舷錨に擦過傷を、日吉丸の船首外板に圧壊をそれぞれ生じせしめるに至った。
C受審人は、漁場から帰港の途について航行する場合、太陽光線の反射で正面付近の海面が眩しい状況であったから、接近する他船を見落とすことのないよう、レーダーを活用するなどして、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、視界が良好であったことに気を許し、レーダーを活用するなど見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する昭幸丸に気づかず進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
B指定海難関係人が、速吸瀬戸を横断しようとした際、左舷船首方から接近していた巨大タンカーの動静に気をとられ、右舷船首方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因になる。
しかしながら、以上のB指定海難関係人の所為に対しては、本人が深く反省している点に徴し、勧告するまでもない。

参考図






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