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1999年(平成11年)

平成11年長審第18号
    件名
プレジャーボート喜進丸プレジャーボート第2重丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:喜進丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:第2重丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
喜進丸…左舷船底外板に擦過傷
重丸…右舷外板を大破、のち廃船

    原因
喜進丸…見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

    主文
本件衝突は、喜進丸が、見張り不十分で、第2重丸の前路に進出したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月25日14時30分
福岡県三池港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート喜進丸 プレジャーボート第2重丸
登録長 5.90メートル 5.10メートル
機関の種類 電気点火機関 ディーゼル機関
出力 44キロワット 5キロワット
3 事実の経過
喜進丸は、航行区域を限定沿海区域とし、船体前部右舷側に操縦席を備え、主機関のほか出力5キロワットの予備電気点火機関を有するFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人ら2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、平成10年10月25日09時30分福岡県大牟田港を発し、同時50分三池港港奥から西南西方に延びる北防砂堤突端に設けられた三池港北防砂堤灯台(以下「北防砂堤灯台」という。)から174度(真方位、以下同じ。)1.7海里ばかりの釣り場に至り、漂泊していいだこ釣りを行ったのち、14時24分同釣り場を発進して帰途についた。
発進したとき、A受審人は、北方からの風波の影響を和らげるつもりで、針路を北防砂堤灯台の少し東方に向く357度に定め、機関を全速力前進にかけて17.0ノットの速力とし、陸岸沿いを手動操舵で進行した。
ところで、A受審人は、操縦席に腰掛けて操船すると前方に取り付けた風防の下部窓枠によって船首方向に死角を生じることから、平素は操縦席から立って操船に当たるなどの船首死角を補う見張りを行っており、発進後も、立ったまま手動操舵と肉眼による見張りに当たって続航したところ、前方に他船が見当たらなかったので、14時27分ごろから同席に腰掛け、上体を右に傾けて首を伸ばし、右舷船首方のみならず、できるだけ左舷船首方も見るようにしながら進行した。
14時28分A受審人は、北防砂堤灯台から168度1,070メートルの地点に達したとき、左舷船首21度1,070メートルのところに、北防砂堤突端付近に向けて東行する第2重丸(以下「重丸」という。)を視認できる状況であったが、発進して立って操船していたとき、前方に他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、操縦席から立って操船に当たるなどの船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、同席に腰掛けたままで重丸に気付かず、前方の同防砂堤突端寸近を見ながら続航した。
14時29分半わずか過ぎA受審人は、北防砂堤まで260メートルに接近したとき、重丸に気付かないまま、同防砂堤突端を替わすために左転して針路を324度とし、同船の前路を約40メートル隔てて航過する態勢となって進行した。
14時30分わずか前A受審人は、依然重丸に気付かず、北防砂堤まで100メートルに接近したとき、同防砂堤突端を50メートルばかり離して航過するつもりで、更に左転して針路を292度としたため、同船の前路に進出してしまい、14時30分北防砂堤灯台から147度70メートルの地点において、原針路、原速力のまま、喜進丸の船首が重丸の右舷前部にほほ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視界は良好であった。
また、重丸は、航行区域を平水区域とする木製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日09時00分三池港港奥の係留地を発し、同時50分北防砂堤灯台から294度3.8海里ばかりの釣り場に至り、錨泊してふぐの一本釣りを行ったのち、13時50分同釣り場を発進して帰途についた。
発進後、B受審人は、機関を全速力前進にかけて6.0ノットの速力とし、船尾甲板上に座って右手で舵柄を握り、肉眼による見張りに当たって進行し、14時19分北防砂堤灯台から268度1.0海里の地点で、針路を北防砂堤突端付近に向く090度に定め、同一速力で続航した。
14時26分B受審人は、北防砂堤灯台から264度580メートルの地点に達したとき、右舷船首67度1.2海里のところに、北防砂堤突端付近に向けて北上する喜進丸を初認し、その後、同船の動向を見守ったところ、同船は自船より速力が速く、その方位が徐々に左方に変わっていくので、自船より先に三池港港奥に入航するものと考えて進行した。
14時28分B受審人は、北防砂堤灯台から252度220メートルの地点に達し、喜進丸を右舷船首66度1,070メートルに見るようになったとき、北防砂堤突端付近で同船と著しく接近する状況となるのを避けるため、速力を4.0ノットに減じて続航し、同時29分半わずか過ぎ同船が右舷船首37度240メートルのところで針路を左に転じたように見えたものの、同船のそれまでの動向から、すぐに右転して三池港港奥に入航するものと思い、同船を見守りながら進行中、14時30分わずか前喜進丸が更に左転して前路に進出してくるのを認め、とっさに左舵30度を取ったが、重丸の船首が022度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、喜進丸は、左舷船底外板に擦過傷を生じ、重丸は、右舷外板を大破し、のち廃船とされた。

(原因)
本件衝突は、福岡県三池港の北防砂堤突端寸近において、同県大牟田港に向けて北上中の喜進丸が、見張り不十分で、三池港港奥に向けて東行中の重丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、福岡県三池港において、同港南方沖合の釣り場から同県大牟田港に向けて帰航中、北方からの風波の影響を和らげるため北防砂堤灯台を目標にして陸岸沿いを北上する場合、船首方向に死角を生じて見通しが妨げられる状況であったから、前路の他船を見落とさないよう、操縦席から立って操船に当たるなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣り場を発進して立って操船していたとき、前方に他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、同席から立って操船に当たるなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、三池港港奥に向けて東行中の重丸の前路に進出して衝突を招き、喜進丸の左舷船底外板に擦過傷を生じさせ、重丸の右舷外板を大破して同船を廃船とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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