日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年長審第83号
    件名
漁船大友丸漁船幸進丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
11年4月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、原清澄
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:大友丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:幸進丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大友丸…左舷船底外板全般にわたる擦過傷、両舷推進器軸の曲損等
幸進丸…船尾部を大破し、のち廃船

    原因
幸進丸…法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
大友丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、幸進丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか見張り不十分で、衝突避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、大友丸が動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月22日01時30分
壱岐水道
2 船舶の要目
船種船名 漁船大友丸 漁船幸進丸
総トン数 16トン 3.07トン
登録長 17.41メートル 9.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 180 50
3 事実の経過
大友丸は、一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、いさきを釣る目的で、船首0.50メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、平成10年5月21日10時00長崎県北松浦郡鹿町町矢岳浦を発し、壱岐水道の二神島西方1.5海里ばかりの漁場に向かった。
11時10分A受審人は、漁場に至り、船首から錨を投入して操業を行い、漁獲物約12キログラムを獲て操業を終え、20時30分揚錨し、航行中の動力船の灯火を表示して漁場を発進し、壱岐島南岸一帯の魚群探索を行いながら帰途についた。
翌22日01時16分A受審人は、加唐島灯台から001度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点で、針路を224度に定め、機関を全速力前進にかけて22.0ノットの速力とし、操舵室右舷側のいすに腰掛けて1人で魚群探索と見張りに当たり、手動操舵で、北右からのうねりを受けて船首を左右に振りながら進行した。
01時26分A受審人は、加唐島灯台から313度3.4海里の地点に達したとき、3海里レンジとしたレーダーで右舷船首3度1.5海里のところに幸進丸の映像を認めるとともに、同船の白灯数個を視認したものの、同船が法定灯火を表示していなかったので、漁ろうに従事中であることが分からなかった。
A受審人は、その後、幸進丸と方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、漫然と同船が前路を左方に通過していくものと思い、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船の方位の変化を確かめるなどの動静監視を十分に行うことなく、同船から目を離し、舵輪の左側に備えた魚群探知機を見ながら続航した。
大友丸は、A受審人が、動静監視を依然十分に行っていなかったので、幸進丸の接近に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま進行中、01時30分わずか前船首至近に迫った幸進丸を認め、急ぎ右舵一杯としたが、効なく01時30分加唐島灯台から289度3.7海里の地点において、船首が230度を向いたとき、原速力のまま、その船首が幸進丸の左舷船尾部に前方から89度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、海上には北方からの高さ約1メートルのうねりがあった。
また、幸進丸は、延縄(はえなわ)漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あらかぶ漁を行う目的で、船首0.50メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同月21日22時00分航行中の動力船の灯火を表示して佐賀県呼子港を発し、壱岐水道中央部付近の漁場に向かった。
23時ごろB受審人は、漁場に至って操業を行うこととしたが、トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶が表示しなければならない紅、白2灯の全周灯の灯火の設備がなかったので、これを表示できないまま、また、周囲に他船が見当たらなかったので、前部マスト頂部に設けた黄色回転灯と舷灯及び船尾灯を消灯し、前部マストにマスト灯1個、操舵室上部の後部マスト頂部に白色全周灯1個、前部甲板上に白色作業灯1個、右舷船首舷側に海面を照らす白色作業灯1個をそれぞれ点灯しただけで操業を開始した。
B受審人は、1鉢と称する、釣針を1.5メートル間隔で120本取り付けた全長約180メートルの延縄を26鉢繰り出すこととして南東に向かって延縄を投入し、7鉢繰り出すごとに反転しては投縄を続けて翌22日00時ごろ投縄を終え、直ちに投縄開始地点に戻って揚縄を始めた。
B受審人は、船首を延縄の投入方向に向け、機関の回転数を毎分200とし、クラッチの嵌脱(かんだつ)を繰り返しながら、約1.3ノットの前進速力で船首方を向いて右舷前部に備えた揚縄機を操作しながら揚縄していたところ、途中で延縄が切れたので投縄終了地点から揚縄することとし、01時05分加唐島灯台から292度4.1海里の地点で、針路を139度に定め、それまでと同様約1.3ノットの速力で船首をわずかに左右に振りながら進行した。
01時26分B受審人は、左舷正横後2度1.5海里のところに、白、白、紅、緑4灯を表示して自船に向けて接近する大友丸を視認でき、その後、同船と方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、接近する他船が操業中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、揚縄に熱中して大友丸に気付かないまま続航した。
幸進丸は、B受審人が、接近する大友丸に依然気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることができないで進行中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大友丸は、左舷船底外板全般にわたる擦過傷、両舷推進器軸の曲損等を生じ、のち修理されたが、幸進丸は、船尾部を大破し、のち廃船とされた。

(航法の適用)
本件は、夜間、壱岐水道において、航行中の大友丸と、法定灯火を表示しないままあらかぶ延縄漁に従事中の幸進丸とがほぼ直角に衝突したものであり、適用される航法について検討する。
幸進丸は、本件時、延縄を揚縄しながら約1.3ノットの速力で進行していたが、前部マストにマスト灯1個、後部マストに白色全周灯1個前部甲板上に白色作業灯1個、右舷船首舷側に白色作業灯1個をそれぞれ点灯しただけで、トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶が表示しなければならない紅、白2灯の全周灯のみならず、舷灯も船尾灯も表示していなかった。そのため、同船は、他船から見て漁ろうに従事している船舶であることが識別できない状況にあり、漁ろうに従事している船舶と認めることができない。
また、両船は、互いに進路を横切る関係にあったものの、幸進丸が舷灯を表示しておらず、他船に自船の進行方向を判断させることができない状況であった。
したがって、本件は、海上衝突予防法第18条に規定する各種船舶間の航法も同法第15条に規定する横切り船の航法も適用できず、船員の常務によって律するのが相当である。

(原因)
本件衝突は、夜間、壱岐水道において、幸進丸が、あらかぶ延縄漁に従事中、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、大友丸が、漁場から帰航中、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、壱岐水道において、あらかぶ延縄漁に従事する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船が操業中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する大友丸に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して衝突を招き、大友丸の左舷側船底外板全般にわたる擦過傷、両舷推進器軸の曲損等を生じさせ、幸進丸の船尾部を大破させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、1人で操船に当たって壱岐氷道を魚群探索を行いながら帰航中、前路にレーダーで幸進丸の映像を認めるとともに同船の白灯数個を視認した場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船の方位の変化を確かめるなどの動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漫然と幸進丸が前路を左方に通過していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION