1999年（平成１１年）

号	平成10年門審第96号
件名	漁船良栄丸漁船大都丸衝突事件
事件区分	衝突事件
言渡年月日	平成11年7月8日
審判庁区分	地方海難審判庁
	門司地方海難審判庁
	（宮田義憲、西山烝一、平井透）
理事官	今泉豊光
受審人	A　職名：良栄丸船長　海技免状：二級小型船舶操縦士(5トン限定) B　職名：大都丸船長　海技免状：四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
損害	良栄丸…船首部船底外板に擦過傷 大都丸…右舷側後部ブルワークを破損、船長が1箇月の入院となる全身打撲傷
原因	大都丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因) 良栄丸…見張り不十分、音響信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文	本件衝突は、大都丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る良栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、良栄丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 受審人Bを戒告する。 受審人Aを戒告する。
理由
	(事実) 1　事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月30日11時00分 長崎県小茂田港西沖合 2　船舶の要目 船種船名 漁船良栄丸 漁船大都丸 総トン数 4.7トン 1.1トン 登録長 9.98メートル 6.47メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 40 18 3　事実の経過 良栄丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、巻落し漁の目的で、船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成9年11月30日10時50分(以下時刻は24時間制である。)長崎県小茂田港を発し、同港西方沖合2.4海里ばかりの漁場に向かった。 A受審人は、離岸するとともに操舵、操船に当たって港内を進行し、10時52分半小茂田港南防波堤灯台(以下｢南防波堤灯台｣という。)から000度(真方位、以下同じ。)20メートルの地点において、針路を276度に定め、機関を8.0ノットの全速力前進にかけ、操舵室の右舷側から左舷側に差し渡した板の上に座り、舵輪を左手で操舵しながら続航した。 A受審人は、10時55分南防波堤灯台から277度620メートルの地点に達したとき、左舷船首20度1,300メートルのところに前路を右方に横切る大都丸を視認できる状況で、その後同船と方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、左舷側には操業する漁船が滅多にいないこともあって、それ以前から右舷船首方1.0海里ばかりのところで操業している20隻ばかりの漁船群の操業模様に気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま進行した。 A受審人は、10時58分大都丸の方位が変わらず、510メートルに接近したが、漁船群の動きばかりを注視していたので、依然として大都丸の存在に気付かず、接近する同船に対して避航を促す有効な音響信号を行わず、更に接近しても機関を停止するなと衝突を避けるための協力動作をとらないで続航中、11時00分南防波堤灯台から277度1.0海里の地点において、良栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が大都丸の右舷側後部に後方から88度の角度で衝突し、これに乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 また、大都丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、引き縄漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.36メートルの喫水をもって、同日09時00分小茂田港を発し、同港の南西方1.5海里ばかりの漁場に向かい、同地点に至り、長さ120メートルの40号ナイロン製テグスの引き縄に12センチメートル間隔で上から順に1.0、1.5、2.2、2.5及び3.0匁のおもりを合計600匁の重さになるように取り付け、その先端に釣り針2本を付けた引き縄を投入し、操業を開始した。 B受審人は、一旦陸岸に沿って大野埼まで2海里ばかり北上し、同地点から南下して再度北上することとし、10時30分南防波堤灯台から218度1.8海里の地点において、錨を004度に定め、機関を3.0ノットの速力とし、船体後部にある機関室の蓋の上の右舷側に座って舵柄を手にし、引き縄を引きながら進行した。 B受審人は、10時55分南防波堤灯台から263度1.0海里の地点に至ったとき、右舷船首72度1,300メートルのところに前路を左方に横切る良栄丸を視認し得る状況で、その後同船と方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、同時刻ごろ港を出てくる船は滅多に存在しないこともあって、北上し始めたときから左舷船首方1.5海里ばかりのところで操業する漁船群の漁模様に気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、良栄丸の存在に気付かず、同船の進路を避けないまま続航した。 B受審人は、10時58分良栄丸の方位が変わらず、510メートルに接近したが、漁船群の動きばかりを注視していたので、依然として良栄丸の存在に気付かずに進行し11時00分少し前機関音を耳にして右舷側を見たところ右舷正横至近に迫った良栄丸,を初めて認め、機関を全速力前進としたが及ばず、大都丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、良栄丸は船首部船底外板に擦過傷を生じ、大都丸は右舷側後部ブルワークを破損したが、のち大都丸は修理され、B受審人は、1箇月の入院となる全身打撲傷を負った。 (原因) 本件衝突は、小茂田港西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、大都丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る良栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、良栄丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 (受審人の所為) B受審人は、小茂田港南西方沖合から引き縄を引いて北上する場合、右舷側から接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方で操業する漁船群の漁模様に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、良栄丸の存在に気付かず、同船の進路を避けないで進行して同船との衝突を招き、同船の船首部船底外板に擦過傷を生じさせ、大都丸の右舷側後部ブルワークを破損し、自ら全身打撲傷を負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、小茂田港南防波堤灯台を替わして同港西方沖合の漁場に向かう場合、左舷側から接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷船首方で操業する漁船群の操業模様に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大都丸の存在に気付かず、接近する同船に対して避航を促す有効な音響信号を行わず、更に接近しても機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人を負傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 よって主文のとおり裁決する。 参考図