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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年5月24日23時30分 福岡県博多港沖合 2 船舶の要目 船種船名 第八阿蘇丸
漁船めぐみ丸 総トン数 268トン 7.3トン 金長 40.1メートル 12メートル超 登録長
35.99メートル 11.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 1,398キロワット
250キロワット 3 事実の経過 第八阿蘇丸(以下「阿蘇丸」という。)は、甲板上3層目に船橋を配置した平甲板型鋼製引船で、A受審人ほか4人が乗り組み、曳(えい)航作業を終えて待機の目的で、船首3.50メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成8年5月24日07時20分香川県多度津港を発し、独航のまま長崎港に向かった。 A受審人は、船橋当直を一等航海士と6時間交替で行い、食事なとで船橋を離れる際には、甲板員を昇橋させて見張りに当たらせることとして進行中、18時ごろ周防灘の姫島付近において、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、その後日没となったので法定の灯火を表示し、関門海峡を経て続航した。 A受審人は、響灘に入ってから、いか一本つり漁に従事している漁船が点灯する明るい集魚灯を周囲に多数認めるようになり、レーダーの方位、距離分解能があまり良くなく各漁船を個別に識別しにくかったので、レーダーを監視せず肉眼で各漁船との方位、距離などを見計らい、自動操舵と手動操舵とを適宜切り替え、漁船を避けながら進行中、尿意を覚えるようになったが漁船が多かったのでこれを我慢して玄界灘に入り、22時33分筑前大島灯台から000度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点に達したとき、針路を229度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力として続航し、その後も依然として周囲に多数の集魚灯を見ながら進行した。 23時25分A受審人は、栗ノ上礁灯標から350度3.6海里の地点に達し、船首方1海里のところにめぐみ丸が集魚灯を点灯して錨泊していることを知り得る状況となったとき、こらえていた尿意を我慢できなくなり、小用を足すために2層下の便所に行くこととしたが、いちべつして前方の漁船群との距離はまだあるので大丈夫と思い、他の乗組員を呼んで見張りに当たらせたり、間もなく交替することとなる次直の一等航海士と早めに船橋当直を交替したりするなどの見張りを行える措置をとることなく、同一針路のまま自動操舵として降橋した。 こうして阿蘇丸は、船橋が無人状態となり、衝突のおそれがある態勢でめぐみ丸に向首接近したものの、同船を避けることができないまま続航中、A受審人が船橋に戻って前路至近に同船を認め、右舵一杯としたが、及ばず、23時30分栗ノ上礁灯標から336度3.2海里の地点において、原針路、原速力のまま、阿蘇丸の船首が、めぐみ丸の操舵室前方右舷側に後方から86度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好であった。 また、めぐみ丸は、一本釣り漁業や遊漁に従事し、船体中央よりやや後方に操舵室を設け、船首部から船尾部に渡した支索に、2キロワットと3キロワットの集魚灯多数をとり交ぜて串り下げたFRP製漁船で、船長Bほか1人が乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、同日16時00分博多港内の係留地を発し、同港沖合10海里ばかりの漁場に向かった。 17時30分B船長は、水深約50メートルの前示衝突地点に至って投錨し、船首から錨索を60メートルばかり延出して錨泊中、日没となったので、操舵室上のマスト頂部に停泊灯及その下方に黄色点滅回転灯を表示し、3キロワットの集魚灯のみ9個ばかり点灯し、操舵室前方の甲板上に出て2人で操業を始め、集魚灯の明かりで遠方を見通すことができないので、いかがかかっていないときを見計らっては操舵室に赴き、時折レーダーで周囲を監視しながら操業を続けた。 こうしてめぐみ丸は、錨泊して操業中、23時29分半ごろ折からの風で船首が315度に向いていたとき、B船長が、右舷船尾86度150メートルばかりのところに自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する阿蘇丸の白、紅、緑3灯に気付き、操舵室に赴いてモーターホーンを鳴らし、同船に対して注意を喚起したものの、同船が自船に迫ってくるので、2人とも船尾端に逃れた直後、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、阿蘇丸は、ほとんど損傷がなかったが、めぐみ丸は、操舵室から船首にかけての右舷外板及び属具などを圧壊し、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、いか一本釣り漁に従事する多数の漁船が操業していた玄界灘において、阿蘇丸が、見張り不十分で、錨泊中のめぐみ丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独船橋当直に当たって玄界灘を西行中、前路にいか一本釣り漁に従事する漁船の明るい集魚灯を多数認める状況において、尿意を我慢できなくなって降橋する場合、船橋を無人とすれば他船に向首したまま接近することがあり得るから、見張りが途切れないよう、一等航海士と早めに船橋当直を交替するなどの見張りを行える措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、いちべつし前方の漁船群との距離はまだあるので大丈夫と思い、船橋を無人状態として見張りを行える措置をとらなかった職務上の過失により、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、めぐみ丸の操舵室から船首にかけての右舷外板及び属具などに圧壊を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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