|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月7日07時30分 山口県高山岬北方沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第八鋼運丸
漁船義丸 総トン数 498トン 6.2トン 全長 76.43メートル 登録長
12.69メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 735キロワット 漁船法馬力数 80 3 事実の経過 第八鋼運丸(以下「鋼運丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み、舶用機器を積み、船首2.00メートル船尾3.84メートルの喫水をもって、平成10年2月6日11時35分京都府舞鶴港を発し、長崎港に向かった。 翌7日04時00分大岬灯台から295度(真方位、以下同じ。)9.2海里の地点において、A受審人は、単独の船橋当直に就き、前直者から引き継いだまま針路を234度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。 07時13分少し前A受審人は、高山岬灯台から011度14.8海里の地点に達したとき、左舷船首12度3.0海里に漂泊中の義丸を初めて視認し、双眼鏡で観察するうち、同時16分同船が発進し、その右舷船尾部から延縄を繰り出しながら、同時22分半わずか前自船の前路1.1海里のところを左方から右方に替わるのを認めた。 07時25分A受審人は、義丸が右舷船首25度1,160メートルのところで徐々に左回頭を始め、同時28分少し前右舷船首31度820メートルに接近して回頭を終え、再び自船の前路に向首したのを認めたが、義丸の速力が遅いことから同船の前路を航過することができるものと思い、動静監視を十分に行わなかったので、新たな衝突のおそれが生じたことに気付かず、警告信号を行うことも、直ちに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることもなく続航した。 07時30分少し前A受審人は、義丸が右舷船首至近に迫ったのを見てようやく衝突の危険を感じ、機関を半速力前進とし、汽笛により短音1回を吹鳴するとともに、手動操舵に切り換えて左航一杯をとり、更に機関を停止したものの効なく、07時30分高山岬灯台から001度12.7海里の地点において、鋼運丸は、231度を向いて10.0ノットの速力となったとき、その右舷側前部に義丸の船首が後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。 また、義丸は、船体の後部に操舵室を有するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あまだい底延縄漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月7日04時00分山口県江崎漁港を発し、06時30分高山岬北方沖合の漁場に至り、漂泊して操業の準備を行った。 07時16分B受審人は、高山岬灯台から003度12.4海里の地点を発進して針路を330度に定め、機関を半速力前進にかけて6.0ノットの速力とするとともに、投縄を開始して右舷船尾部から延縄を繰り出し、幹縄に6メートル間隔で取り付けられた枝縄とその先端のえさを掛けた釣針をほぼ2秒ごとに海中に投入するほか、8針ごとにおもりと更に6分程の間隔で浮きを投入しながら、操舵室外の右舷側後部に設置された遠隔操舵装置を手動で操作して進行した。 07時22分半わずか前B受審人は、右舷正横の少し前方1.1海里のところに、船首を見せて西行中の鋼運丸を視認することができる状況であったものの、これを見落としたまま同船の前路を左方から右方に替わったのち、同時23分針路を307度に転じ、次いで同時25分高山岬灯台から001度13.0海里の地点に達したとき、発進地点付近に戻って投縄を終えるつもりで左舵をとり、徐々に左回頭しつつ続航した。 07時28分少し前B受審人は、高山岬灯台から000度13.0海里の地点に至ったとき、針路を151度とし、回頭を終えて直進することとしたが、釣針やおもりなどを次々と投入する作業に気を奪われ、投縄を中断して周囲の見張りを十分に行わなかったので、左舷船首66度820メートルにあって無難に航過する態勢の鋼運丸を依然見落とし、同針路を保持したところ、同船の前路に向首して新たな衝突のおそれを生じさせたものの、このことに気付かず、直ちに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。 07時30分少し前B受審人は、鋼運丸の吹鳴した汽笛を聞き、船首至近に同船の右舷側を視認し、同時30分わずか前機関を半速力後進に操作したものの効なく、義丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、鋼運丸は、右舷側前部及び同中央部外板に擦過傷を生じ、義丸は、左舷船首部舷縁を圧壊し、シーアンカー索の案内金具を破損したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、高山岬北方沖合において、義丸が鋼運丸の前路を左方から右方に替わったのち左回頭した際、見張り不十分で、無難に航過する態勢の同船に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、鋼運丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、高山岬北方沖合の漁場で投縄しながら進行中、左回頭を終えて直進する場合、投縄を中断して周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、釣針やおもりなどを次々と投入する作業に気を奪われ、投縄を中断して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左回頭を始める前に鋼運丸の前路を左方から右方に替わして無難に航過する態勢の同船を見落とし、その前路に向首して新たな衝突のおそれを生じさせ、鋼運丸との衝突を招き、同船に右舷側前部及び同中央部外板の擦過傷を、義丸に左舷船首部舷縁の圧壊とシーアンカー索の案内金具の破損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、高山岬北方沖合を西行中、投縄しながら自船の前路を左方から右方に替わった義丸が左回頭して再び自船の前路に向首したのを認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、義丸の速力が遅いことから同船の前路を航過することができるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、新たな衝突のおそれが生じたことに気付かず、警告信号を行うことも、直ちに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|