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1999年(平成11年)

平成11年仙審第11号
    件名
遊漁船豊貢丸漁船若潮丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、長谷川峯清
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:若潮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
豊貢丸…右舷外板中央部折損
若潮丸…船首部に損傷、船長が胸腹内臓器損傷により死亡、乗組員2人が打撲傷

    原因
豊貢丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
若潮丸…見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、豊貢丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る若潮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、若潮丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月6日05時57分
青森県野辺地港沖
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船豊貢丸 漁船若潮丸
総トン数 4.83トン 3.4トン
全長 13.70メートル 13.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 139キロワット
漁船法馬力数 50
3 事実の経過
豊貢丸は、操舵室が船体中央部に位置するFRP製遊漁船兼漁船で、船長Bが単独で乗り組み、C、D及びEほか3人の釣客を乗せ、遊漁の目的で、約0.3メートルの平均喫水をもって、平成10年6月6日05時50分野辺地港馬門船溜りを発し、青森県上北郡横浜町沖の釣り場に向かった。
ところで、野辺地港沖には、野辺地港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から004度(真方位、以下同じ。)4,000メートル、007度4,000メートル、340度950メートル及び314度2,250メートルの各点を順次結ぶ西区第138号(以下区域名称中、西区の冠称を略する。)並びに005度7,950メートル、020度13,200メートル、034度9,250メートル、025度2,800メートル及び009度5,200メートルの各点を順次結ぶ第140号の両区画漁業権区域が設けられ、ほたて養殖施設が設置されて同区域内を航行することができず、東西に位置する両区域間の幅が最狭部で600メートルあって、旧フェリー航路用としてまた大小の船舶の水路として利用されていた。また、ほかに第140号の陸側には稚貝放流区域が設定されてあるが、小型船の航行には支障なく、地元漁船や遊漁船などが通航していた。そして、西防波堤灯台から025度2,800メートルの地点に第140号区域南端の標識として黄色塗装された点滅式標識灯(以下「標識灯」という。)及び024度2,100メートルの地点に稚貝放流区域の北西端を示す旗竿(以下「ボンデン」という。)がそれぞれ設けられていた。
発航後、B船長は、操舵室後部甲板上に釣客を座らせ、自らは高さ約30センチメートルの箱の上に立ち、自船の操舵室窓枠が構造上高く更に全速力での航行中には船首の浮上に伴う船首部死角を補いながら手動操舵で操船に当たり、機関を半速力前進にかけて西防波堤灯台と第138号の養殖施設南端との中間に向かった。
05時54分B船長は、西防波堤灯台から334度460メートルの地点に至り、旧フェリー桟橋から発して先行する僚船第三勝丸を追尾するように第140号の養殖施設の陸側に向かう051度の針路に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)としたところ、右舷船首49度1,200メートルのところに若潮丸を視認することができ、その後同船が自船の進路を左方に横切りその方位が明確に変わらず、衝突するおそれのある態勢で互いに接近する状況であった。発航時から操舵位置の右側で談じていたC釣客は、これを視認したのち、増速によりしぶきが右前方から舞い上がりまた高い機関音で話もできなくなったので、後部甲板に移動した。
ところが、B船長は、右舷方に対する見張りを十分に行っていなかったので、若潮丸に気付かず、その進路を避けないまま続航中、05時57分わずか前右舷船首至近に迫っ若潮丸に気付いた釣客の「危ない。」の叫び声と、ほぼ同時に機関クラッチを後進に切り換えたが及ばず、05時57分西防波堤灯台から032度1,400メートルの地点において、豊貢丸は、原針路、原速力のまま、その右舷側中央部操舵室付近に、若潮丸の船首が後方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、若潮丸は、音響信号装置が装備されていない、船体中央部に位置する機関室上に操舵室及び船首部に各操舵装置を備えたほたて養殖漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び甲板員Fの夫婦2人が乗り組み、第140号区画漁業権区域内に所有するほたて養殖棚に浮き玉を増設する目的で、船首尾とも0.5メートルの喫水で、同日05時40分野辺地港浜町船揚場を発し、前示標識灯の北方約800メートルのところにあたる同養殖棚入口に向かった。
発航後、A受審人は、妻に操舵室内でトラブル続きの機関の監視に当たらせ、自らは船首部で手動操舵で操船に当たり、前示ボンデンに向けて航行中、05時54分西防波堤灯台から077度1,100メートルの地点に至り、船首少し右標識灯付近に第七宝丸が出荷のために自船の右舷船尾方になる野辺地漁港に向かっているのを認め、針路を341度に定めてこれを避け、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力としたところ、左舷船首61度1,200メートルのところに豊貢丸を視認することができ、その後同船が自船の進路を右方に横切りその方位が明確に変わらず、衝突するおそれのある態勢で互いに接近する状況であった。
しかし、A受審人は、野辺地港地区の漁船の大半が係留している同港馬門船溜りからの出漁時刻もすでに過ぎ、また普段前方のボンデン付近で操業しているけた網船も見かけなかったので、前示漁港に向かう出荷船以外に付近には他船がいないものと思い、馬門方面にあたる左舷方に対する見張りを十分に行わなかったので、豊貢丸が避航動作をとらないまま接近することに気付かず、間近に接近した際に転舵または行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作を取らないまま進行中、05時57分わずか前左舷船首至近に迫った豊貢丸を初めて認め、急いで機関を後進に切り換えたが及ばず、若潮丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、豊貢丸は右舷外板中央部折損及び若朝丸は船首部に損傷を生じた。更にB船長(昭和5年3月13日生、四級小型船舶操縦士免状受有)は胸腹内臓器損傷により死亡し、若潮丸乗組員2人が打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、野辺地港沖において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行中の豊貢丸が、見張りが不十分で、前路を左方に横切る若潮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の若潮丸が、見張りが不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、野辺地港沖において、単独で操舵操船してほたて養殖施設区域間の水域を航行する場合、同水域は多くの漁船や遊漁船が行き交うところであるから、左舷方にあたる同港馬門船溜りから釣り場に向けて前路を右方に横切る態勢で接近する豊貢丸を見落とすことのないよう、左舷方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、大方の漁船の出漁時刻も過ぎ普段同水域の中央付近にあたる前路のボンデン付近で操業しているけた網船も見かけなかったので、漁港に向かう出荷船以外に付近には他船がないものと思い、左舷方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、豊貢丸の接近に気付かず、間近に接近した際に衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して、同船との衝突を招き、豊貢丸の右舷外板中央部に折損を、また若潮丸の船首部に損傷を生じさせ、更にB船長が胸腹内臓器損傷による死亡及び若潮丸乗組員2人が打撲傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図(その1)

参考図(その2)






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