日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年函審第71号
    件名
漁船第二十一善良丸漁船第八十一永伸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第八十一永伸丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
善良丸…右舷中央部外板に破口、魚倉の床に亀裂などの損傷
永伸丸…球状船首部に擦過傷

    原因
永伸丸…操船・操機(転舵措置)不適切

    主文
本件衝突は、第八十一永伸丸が、転舵措置が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月29日13時55分
北海道稚内港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一善良丸 漁船第八十一永伸丸
総トン数 160トン 124.85トン
全長 38.13メートル 38.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 753キロワット
3 事実の経過
第二十一善良丸(以下「善良丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、船長Bほか18人が乗り組み、操業の目的をもって、平成9年9月28日21時00分稚内港を発航し、同港北方沖合の漁場に至って操業を行ったあと、翌29日11時40分稚内港第1副港の北洋ふとう改良岸壁(以下「改良岸壁」という。)に着岸し、水揚げを終了したのち転岸のため同岸壁を離れ、第1副港岸壁に向かった。
ところで、第1副港は、稚内港の西方に位置し、同副1港西側に南に約600メートル延び、そこからくの字型に折れ曲がって南東方向に360メートル延びる第1副港岸壁があり、同岸壁とほぼ平行に130メートル離れた対岸に、南に約370メートル延び、そこからくの字型に折れ曲がって南東方向に約350メートル延びる改良岸壁があった。
当時、第1副港岸壁には中央寄りに同業船6隻が船首を北に向け、左舷付けの出船状態で係留し、更に北側から4隻目の同業船の右舷側に同業船1隻が在舷付けで接舷していた。
13時30分B船長は、翌30日00時00分の出港まで待機することとし、最北端の同業船から約70メートル南側の3隻目の同業船の右舷側に出船状態で接舷して待機中、29日13時55分稚内港第1副港防波堤灯台(以下「第1副港灯台」という。)から205度(真方位、以下同じ。)335メートルの地点において、船首を000度に向けた善良丸の右舷側中央部に第八十一永伸丸(以下「永伸丸」という。)の船首が直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力3の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、永伸丸は、沖合底びき網漁業に従事する可変ピッチプロペラを備えた船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか、17人が乗り組み、操業の目的をもって、平成9年9月28日21時00分稚内港を発し、利尻島南西方沖合の漁場に至って操業を行い、漁獲物を約20トン獲て操業を終了し、水揚げの目的で、翌29日08時30分漁場を発進して帰航の途に就き、13時00分第1副港灯台から130度200メートルの地点の北洋ふとう北岸壁に着岸した。
13時49分A受審人は、水揚げを終了したので、第1副港岸壁で次の出港まで待機することとし、船首1.20メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、北洋ふとう北岸壁を発し、第1副港岸壁に向かった。
A受審人は、発進時から操舵室左舷側に位置して操船に当たり、漁労長を主機の遠隔操縦装置に就け、自らは遠隔操舵装置により手動で操舵しながら、機関を回転数毎分600にかけ、プロペラ翼角を前進5度として5.0ノットの速力で、第1副港岸壁の最北端に係留中の同業船の右舷側に左舷側を接舷することにして、第1副港内を改良岸壁に寄せて南下した。そしてA受審人は、第1副港岸壁の同業船に接舷していた善良丸を90メートルばかり離して同船の左舷正横付近で右舵杯として右回頭を行いながら、プロペラ翼角を2度に下げて2.0ノットの速力とし、13時53分少し過ぎ船首を338度に向首させ、接舷予定の同業船を正船首110メートルばかりに見て接舷態勢に入り、善良丸を左舷正横30メートルばかり離して通過していたとき、漁労長から係留場所を変更して善良丸の南側約100メートルに係留していた同業船の右舷側に接舷したい旨の申し出を受け、急遽(きょ)係留場所を変更することとした。
A受審人は、改良岸壁に向かって後退したあと左回頭を行って南下することとし、13時53分半第1副港灯台から201度300メートルの地点で、プロペラ翼角を後進10度として後退を始め、その後プロペラ翼角を少しずつ下げて後進行きあしを弱めながら後退し、同時54分半302度を向首した船首が正船首方の善良丸まで60メートルばかりとなったとき、後進行きあしを止め前進するためプロペラ翼角を前進5度とした。そして、同人は、左に小角度の舵角の転舵で善良丸を替わせるものと思い、舵効が十分に得られるよう、後進行きあしが無くなり前進行きあしが発生する直前に左舵を一杯にとるなどして転舵措置を適切にとらずに、左に小角度の舵角をとって4ノットばかりの速力で前進したところ、思ったより舵効がなく、左回頭をほとんどしないまま善良丸に向かって進行したことから、あわてて左舵一杯としたものの効なく、13時55分わずか前船首が善良丸まで20メートルばかりとなったとき、回りきれないと思い、プロペラ翼角を後進15度とし、漁労長が機関を回転数毎分650としたが、及ばず、船首が270度を向いて、1.0ノットの残速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、善良丸は、右舷中央部外板に破口、魚倉の床に亀裂などの損傷を生じたが、のち修理され、永伸丸は、球状船首部に擦過傷を生じたのみであった。

(原因)
本件衝突は、北海道稚内港において、永伸丸が、第1副港岸壁に係留中の同業船に接舷のため接近中、係留場所を変更するため後退して反転するにあたり、後進行きあしを止め左回頭を行う際、転舵措置が不適切で、小角度の舵角の転舵で十分な舵効を得ないまま同業船に接舷中の善良丸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道稚内港において、第1副港岸壁に係留中の同業船に接舷のため接近中、急遽係留場所を変更するため後退して反転するにあたり、機関を後進から前進にかけて後進行きあしを止め左回頭を行う場合、左方近くには同業船の舷側に善良丸が接舷していたのであるから、舵効が十分に得られるよう、前進行きあしが生じる直前に左舵を一杯にとるなどして転舵措置を適切に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左に小角度の転舵でも善良丸を替せるものと思い、転舵措置を適切に行わなかった職務上の過失により、小角度の舵角の転舵で十分な舵効を得ないまま第1副港岸壁に係留中の同業船に接舷していた善良丸に向かって進行して同船との衝突を招き、善良丸の右舷中央部外板に破口、魚倉の床に亀裂などの損傷を生じさせ、永伸丸の球伏船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION