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1999年(平成11年)

平成9年門審第77号
    件名
漁船第八十七昭徳丸漁船海運丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、吉川進、岩渕三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第八十七昭徳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:海運丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
昭徳丸…船首球状部に擦過傷
海運丸…右舷中央部に破口を伴う亀裂、操舵室が損壊、船首マストが折損

    原因
昭徳丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
海運丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八十七昭徳丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、海運丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月19日10時30分
鹿児県野間岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十七昭徳丸 漁船海運丸
総トン数 340トン 3.6トン
全長 62.80メートル
登録長 9.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
第八十七昭徳丸(以下「昭徳丸」という。)は、長崎県浜串漁港を基地とし、6隻で構成された旋(まき)網漁業船団に所属する運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、平成9年3月15日14時10分長崎港を発し、操業のため宮崎県都井岬沖合に向かった。
昭徳丸は、都井岬沖合の海域で操業中、、網船から転船してきたB指定海難関係人を増員として乗船させ、越えて同月18日13時20分水揚げのため鹿児島県枕崎港に入港し、同日20時50分船首3.6メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、空倉のまま同港を発し、僚船の操業海域に戻ろうとしたところ、船団の漁労長から操業を打ち切って帰港するので待機するように指示があり、21時40分坊ノ岬東南東9海里沖合で仮泊・投錨したのち、翌19日07時船団の動静に合わせて抜錨し、浜串漁港へ向け出発した。
A受審人は、抜錨後も単独で操舵操船にあたり、坊ノ岬沖合で僚船と合流したのち、09時45分薩摩野間岬灯台(以下「野間岬灯台」という。)から283度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点に達したとき、針路を345度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、僚船と横一列に並んでその東端の位置につき、隣の僚船とは350メートルほど隔て、11.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、昼間で視界も良好であったので、転船してきたばかりのB指定海難関係人に初めて単独の船橋当直を行わせることとし、同指定海難関係人を昇橋させ、自船の針路と僚船の船位を示し、網船をレーダーで追尾しながら同船を見失わないよう述べただけで、見張りを十分に行うよう指示しないまま、09時55分降橋した。
B指定海難関係人は、網船乗船中に単独の船橋当直に入って無難にこれをこなしていたが、枕崎港着岸中、A受審人から昭徳丸船橋の航海計器について説明を受けたものの、十分にこれらを理解したわけではなく、少々不安混じりのまま、レーダーの監視にあたって見張りを続けているうち、レーダー画面が不調を起こし、画面に白線が現れ始めたので、その調整にあたっていたところ、10時20分右舷船首2度2.1海里に定速力で南西進している延(はえ)縄投縄中の海運丸を視認できる状況になったが、これに気づかず、レーダーの調整を続けた。
10時25分B指定海難関係人は、海運丸が前路を左方に越えたのち、左舷船首4度1.1海里からその針路を南東に転じ、衝突のおそれがある態勢で接近し始めたが、依然としてレーダーの調整に熱中し、海運丸の速力が極端に遅く、何らかの作業に従事中で通常の航行状態でなく、双眼鏡で確認すれば、速やかに避航動作をとれない状態であることを容易に把握できる状況であったものの、見張り不十分で海運丸の状態に気づかず、大きく右転するなど、海運丸と衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、10時30分野間岬灯台から328度10.5海里の地点で、昭徳丸は、原針路・原速力のまま、海運丸の右舷船首に前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、視界は良好であった。
また、海運丸は、引き網、小型底引き網及び延縄刺網漁業の認可を受けていたほか、専ら夏は鹿児島県日置郡市来町沖合で吾智網漁、秋は甑島周辺でかじき流網漁に従事するFRP製漁船で、C受審人1人が乗り組み、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、延縄漁に出漁するため同日02時30分市来町戸崎漁港を発し、途中同漁港付近で餌の海老(えび)を採取したのち、野間岬沖合の連子鯛(れんこだい)及び甘鯛の漁場に向かった。
C受審人は、06時00分漁場に到着して準備を終えたのち、06時15分から操業にかかり、09時30分に第1回目の操業を終え、09時45分第2回目の操業を開始し、船尾で椅子に腰掛けて投縄作業を始めた。
10時20分C受審人は、野間岬灯台から329度10.8海里の地点で4鉢目の投縄を開始し、針路を225度に定めて自動操舵とし、2.0ノットの投縄速力で進行中、左舷船首58度2.1海里に北上しながら接近していた昭徳丸を視認できたが、作業に熱中して見張りが不十分となり、同船に気づかず、10時25分3鉢半の投縄を終了したところで135度に左転したところ、昭徳丸を右舷船首26度1.1海里に見て、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として投縄作業に熱中してこれに気づかず、右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航中、原針路・原速力のままちょうど4鉢目の投縄を終えたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、昭徳丸は、船首球状部に擦過傷を生じただけで、海運丸は、右舷中央部に破口を伴う亀(き)裂を生じ、操舵室が損壊したほか、船首マストが折損したが、のち僚船によって戸崎漁港まで引きつけられて修理された。

(原因)
本件衝突は、鹿児島県野間岬沖合において、帰港中の昭徳丸と延縄の投縄作業に従事していた海運丸が衝突のおそれがある態勢で互いに接近した際、昭徳丸が、見張り不十分で、前路付近をジクザグに極端な低速力で進行していた海運丸と衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、海運丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
昭徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格船橋当直者に対して見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、同当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、乗船したばかりの無資格の甲板員に船橋当直を行わせる場合、操業中の漁船などを見落とすことのないよう、同甲板員に見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船団の動静に気をとられ、網船の針路に従うように指示しただけで、同甲板員に見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同甲板員が前方から衝突のおそれがある態勢で接近していた海運丸に気づかず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、昭徳丸の船首球状部に擦過傷を、海運丸の右舷中央部に破口を伴う亀裂及び操舵室の損壊ほか、船首マスト折損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、延縄漁の投縄作業に従事する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、投縄作業に熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方から衝突のおそれがある態勢で接近する昭徳丸に気づかないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、単独の船橋当直を任された際、レーダーの調整に熱中して見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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