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1999年(平成11年)

平成11年函審第44号
    件名
漁船第38俊洋丸漁船第11高栄丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗
    理事官
副理事官 堀川康基

    受審人
A 職名:第38俊洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
俊洋丸…左舷船尾角に擦過傷
高栄丸…右舷船首部外板に亀裂

    原因
俊洋丸…操船・操機不適切(ポータブル式主機遠隔操縦装置の主機操縦場所の切り替え状態の確認不十分)

    主文
本件衝突は、第38俊洋丸が、ポータブル式主機遠隔操縦装置により、離岸操船を行うにあたり、主機操縦場所の切り替え状態の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
事件発生の年月日時刻及び場所
1 平成10年8月18日00時00分
北海道松前港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第38俊洋丸 漁船第11高栄丸
総トン数 127トン 9.24トン
全長 38.20メートル
登録長 13.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット
漁船法馬力数 50
3 事実の経過
第38俊洋丸(以下「俊洋丸」という。)は、かにかご漁業に従事する鋼製漁船で、船橋が上部操舵室および下部操舵室の2段となっており、上部操舵室の床の中央にハッチが設けられ、梯子で昇降するようになっていた。
また、機関の発動及び停止は、機関室にある主機操縦場所切り替えスイッチを機側操縦側にして機関室において行われ、機関長が主機発動後に同スイッチを操舵室操縦側に入れると下部操舵室主機遠隔操縦台の青ランプが点灯して操縦場所が操縦台に切り替わり、同台に接続したポータブル式主機遠隔操縦装置により上部操舵室で遠隔操縦ができるようになっていた。
俊洋丸は、平成10年8月11日08時北海道松前港西物揚場岸壁の中央から突出する小防波堤の基部から約20メートル南方に左舷付けし、右舷正横約65度後方に錨鎖5節を延出して右舷錨を投じ、船首に係留索5本、船尾に係留索3本をそれぞれ取って係留し、漁獲物を水場げ後休漁していたところ、同月17日深夜、A受審人ほか10人が乗組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、松前小島北方沖合の漁場に向け出漁することとなった。
ところで、松前港西物揚場岸壁は、同港奥部の船だまりの南側に東西に延びる長さ280メートルの岸壁で、その中央部から北方に突出する小防波堤により2分されており、船だまりは、長さが約150メートルのほぼ正方形で、その出入口は、西物揚場岸壁の東端から北方に延びる船揚場と船だまり北側の東物揚場岸壁の東端から南方に突出する小防波堤により約30メートルに狭められていた。
17日23時45分A受審人は、上部操舵室に昇り、出港準備を令し、乗組員を船首に2人、船尾に2人、機関室に1人、チェーンロッカーに1人、岸壁には、船首に1人、船尾に2人をそれぞれ配置し、ポータブル式主機遠隔操縦装置により離岸操船を開始したが、機関長がいつも主機発動と同時に主機操縦場所を操舵室操縦側に切り替えていたことから、既に主機操縦場所が操舵室操縦側に切り替わっているものと思い、主機操縦場所の切り替え状態を確認することなく、岸壁に取っていた船首係留索5本のうち3本と船尾係留索3本のうち2本を外させ、同時58分機関が始動したので残りの係留索を全て外させ、右舷正横約55度後方に5節延出していた右舷錨を巻き揚げ始めさせた。
23時59分半A受審人は、錨鎖を1節ばかり巻き揚げて船首が岸壁から25度ばかり開いたところでポータブル式主機遠隔操縦装置のダイヤルを前進に操作したところ、まだ主機操縦場所が操舵室操縦側に切り替わっておらず、船体が前進しなかったので、同ダイヤルを中立に戻したつもりでいたが中立位置より少し後進側に止まり、翌18日00時00分少し前主機操縦場所がどうなっているか見ようとし、同操舵室の床のハッチから下部操舵室の主機遠隔操縦台をのぞいたちょうどそのとき、機関長が主機操縦場所を操舵室操縦側に切り替え、同室の主機遠隔操縦台の青ランプが点灯すると同時に機関が後進にかかって船体が後退したので、急ぎポータブル式主機遠隔操縦装置のダイヤルを前進としたが、間に合わず、00時00分松前港外防波堤灯台から258度(真方位、以下同じ。)560メートルの西物揚場岸壁において、310度を向いた俊洋丸の左舷船尾角が船尾方約10メートルに係留していた第11高栄丸(以下「高栄丸」という。)の右舷船首部に前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西北西風が吹き、潮候は上げ朝の中央期であった。
また、高栄丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、8月12日から休漁のため西物揚場岸壁に係留索4本を取り、俊洋丸の船尾方に約10メートル隔てて左舷付けで無人のまま係留していたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、俊洋丸は左舷船尾角に擦過傷を生じ、高栄丸は右舷船首部外板に亀裂を生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、北海道松前港西物揚場岸壁において、俊洋丸がポータブル式主機遠隔操縦装置を下部操舵室の主機遠隔操縦台に接続し、上部操舵室において離岸操船するにあたり、主機操縦場所の切り替え状態の確認が不十分で、主機操縦場所が操舵室操縦側に切り替えられないまま、ポータブル式主機遠隔操縦装置のダイヤルを操作中、主機操縦場所が突然操舵室操縦側に切り替わり、たまたまポータブル式主機遠隔操縦装置のダイヤルが中立位置より少し後進側となっていたため、主機が後進にかけられ、船尾方至近に係留中の高栄丸に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道松前港西物揚場岸壁において、ポータブル式主機遠隔操縦装置を下部操舵室の主機遠隔操縦台に接続し、上部操舵室において離岸操船する場合、主機操縦場所が操舵室操縦側に切り替わると下部操舵室の主機遠隔操縦台の青ランプが点灯するのであるから、主機操縦場所の切り替え状態を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関長がいつも主機発動と同時に主機操縦場所を操舵室操縦側に切り替えていたことから、既に主機操縦場所が操舵室操縦側に切り替わっているものと思い、主機操縦場所の切り替え状態を確認しなかった職務上の過失により、ポータブル式主機遠隔操縦装置のダイヤルを前進に操作したところ、まだ主機操縦場所が操舵室操縦側に切り替わっていなかったため機関が前進にかからなかったので、同ダイヤルを中立に戻したつもりでいたが少し後進側に止まり、主機操縦場所がどうなっているか見ようとし、上部操舵室の床にあるハッチから下部操舵室の主機遠隔操縦台をのぞいたちょうどそのとき、機関長が注機操縦場所を操舵室操縦側に切り替え、下部操舵室の主機遠隔操縦台の青ランプが点灯すると同時に機関が後進にかかって船体後退し、後方付近に係留していた高栄丸との衝突を招き、俊洋丸の左舷船尾角に擦過傷及び高栄丸の右舷船首部外板に損傷を生じさせるに至った。

参考図






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