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1999年(平成11年)

平成10年神審第83号
    件名
貨物船第三十五住若丸貨物船盛輝21衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、西林眞
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:第三十五住若丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第三十五住若丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:第三十五住若丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
D 職名:盛輝21船長 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
住若丸…バウチョック右舷側に曲損、右舷前部外板に破口を伴う凹損を生じて浸水
盛輝21…船首部外板及び球状船首に凹損

    原因
住若丸…機関の運転管理不適切、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
盛輝21…船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人D

    主文
本件衝突は、第三十五住若丸が、機関の運転管理が不適切で主機が停止して運転不自由の状態に陥ったばかりか、その後の措置が不適切で、盛輝21に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、盛輝21が、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月12日22時55分
鳴門海峡
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三十五住若丸 貨物船盛輝21
総トン数 499トン 498トン
全長 64.79メートル 75.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第三十五住若丸(以下「住若丸」という。)は、主に徳島県橘港に砂利を運送する船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A、B及びC各受審人のほか3人が乗り組み、海砂1,600トンを載せ、船首4.05メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成9年3月12日14時55分香川県室木島東方の海砂採取場を発し、17時00分同県小豆島の大角鼻灯台から032度(真方位、以下同じ。)1海里の地点に至って錨泊のうえ、待機していたバージから清水の補給を受け、倉内に注水しながら積荷の除塩作業を行ったのち、21時10分同錨泊地を発航して橘港に向かった。
A受審人は、発航時から操船に当たり、播磨灘推薦航路線を横切ったところでB受審人に船橋当直を委ねて自室に戻り、いつものとおり大鳴門橋通過の2海里手前で再び昇橋して橘港入港までの当直に当たるつもりで、目覚まし時計を22時40分に設定して休んだ。
一方、C受審人は、発航前の除塩作業終了時に主機潤滑油油の電動予備潤滑油ポンプ(以下「予備ポンプ」という。)を始動したのち、潤骨油圧力が所定の高さまで上がったのを確かめて主機を始動し、同機直結の潤滑油ポンプによって潤滑油圧力が保たれる状態となったとき、並列運転していた予備ポンプを停止した。
C受審人は、主機回転数が低下するなどして潤滑油圧力が設定値より下がると、主機が自動的に危急停止することになっているので、平素、これを防ぐため潤滑油圧力が下がったとき予備ポンプが自動始動するよう、あらかじめ機関室中段にある同ポンプ始動器の運転切替スイッチを自動待機の位置に設定してから同ポンプを始動することにしていた。ところが、他の作業の途中で同ポンプ横の押しボタンで直接始動したため、いつもと手順が異なっていたが、発航後機関室の見回りを行ったとき、同ポンプの運転切替スイッチを自動待機の位置に設定したかどうか確認することなく、機関室を出て食堂で待機した。
22時42分少し過ぎB受審人は、孫埼灯台から325度1.7海里の地点に達したとき、自船が右方に圧流されていたことから針路を門埼灯台より少し左方に向首する120度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で進行した。
22時47分B受審人は、孫埼灯台から342度1海里のところで、右舷船首26度2.3海里ばかりの大鳴門橋南側に、盛輝21を含む4隻の船の灯火を初めて認め、これらが一団となって鳴門海峡に向けて北上中で、同海峡最狭部付近で出会うことが予測されたが、A受審人が間もなく昇橋してくるだろうと思い、このことを同人に報告しないまま、操舵を手動に切り替え、同時49分ごろから徐々に右転を開始し、同時50分半同灯台から017度1,080メートルの地点に達したとき、針路を鳴門飛島灯台(以下「飛島灯台」という。)の少し左方に向首ける171度とした。
B受審人は、船体が鳴門海峡の潮流の本流域に入ったことで、約3ノットの逆潮流によって自船の対地速力が急速に減じたので、このままでは反航船群と鳴門海峡最狭部で出会うことになるばかりか、潮流によって船首が振れて保針が困難になるのではないかと不安にかられ、機関を後進にかけて反転することとした。
そして、22時51分B受審人は、大鳴門橋から1,000メートルばかりで、孫埼灯台から020度960メートルの地点に達し、北上する4隻の反航船のうち先頭の盛輝21の白、白、緑3灯を左舷船首9度1,500メートルに視認するようになったとき、主機遠隔操縦装置により機関回転数を下げてクラッチを中立にしたのち全速力後進にかけたところ、潤滑油ポンプの回転が減じるとともに、主機潤滑油圧力が低下したものの、予備ポンプが自動待機伐態に設定されていなかったために始動せず、主機が危急停止した。
B受審人は、警報ブザーが鳴り響くなか、クラッチを中立に戻し、A受審人に知らせるため操舵室後部ドアから居住区に下りようとしたところ、同人が船長室を出て機関室に直接向かうのを認めて操舵室に戻り、船体が徐々に左回頭を始めたとき、そのまま左回頭を続けるつもり左舵一杯をとったが、舵効が十分に現れなかったので再び舵を中央に戻した。その後逆潮流に押されて徐々に速力が低減しながら、4隻の反航船の前路に向かって進んでいる状況であったが、間もなく機関が再起動されるものと思い、運転不自由の灯火を表示することなく、また、これら反航船に対して注意喚起信号を行わず、ただ主機が再起動されるのを待っていた。
食堂で待機していたC受審人は、機関音の変化で機関室に向かったが、予備ポンプの運転切替スイッチを自動待機にしていなかったことを思い出して気が動転し、主機操作盤の前で同ポンプを手動で始動したうえ主機の再起動を繰り返したが、危急停止のリセット操作を行っていなかったため、何度が再起動に失敗するうち時間が経過した。
また、A受審人は、定時に目覚まし時計が鳴ったものの、起床が遅れて自室で服を着替えているとき、主機が停止したことを機関音の変化で知ったが、速やかに昇橋して操船の指揮をとり、船橋当直者に運転不自由船の灯火を表示させ、接近する他船に注意喚起信号を行うよう指示することなく、直接機関室に赴いて同室上段からC受審人等の機関復旧作業を見守っていた。
こうして、住若丸は、盛輝21やその後続船に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせるに至ったが、何らの措置もとられないまま、22時54分半その船首が本流域東側の反流域に入って右回頭を始めた。
そのころ周囲の状況が心配になって機関室から昇橋したA受審人は、右舷船首至近に盛輝21の船首を認めたが、どうすることもできず、22時55分門埼灯台から295度620メートルの地点において、住若丸は、約3ノットの対水速力をもって150度を向いた状態で前進中、その右舷船首部に、盛輝21の船首が後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、鳴門海峡中央部には、3.7ノットの北流があった。
また、盛輝21は、船尾船橋型貨物船で、D受審人ほか4人が乗り組み、スラグ1,503トンを載せ、船首3.67メートル船尾4.56メートルの喫水をもって、同月11日11時50分茨城県鹿島港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
D受審人は、一等航海士と2人で6時間交替の単独船橋当直を行って西行し、翌12日22時20分飛島灯台から138度5.7海里の地点に達したとき、機関用意とし、機関長を船橋での機関操作に当たらせ、針路を320度に定め、機関を10ノットの港内全速力前進とし、折からの潮流に乗じて11.0ノットの対地速力で進行した。
そのころD受審人は、大鳴門橋の北側に鳴門海峡に向けて南下する住若丸とその前方0.5海里を先航する第三船の映像をレーダーで初めて探知し、22時47分飛島灯台から127度1,600メートルの地点に達したとき、右舷船首6度2.3海里に住若丸の白、白、緑3灯及びその前方にすでに大鳴門橋中央部に向かう態勢となった第三船の白、白、紅3灯を認め、間もなく住若丸も右転して紅灯を見せるようになり、これらと同橋北側で左舷を対して無難に航過できるものと思い続航した。
22時48分盛輝21は、鳴門海峡の潮流の本流域に入り、約3ノットの北流に乗じて13.0ノットの対地速力で進行し、D受審人は、同時51分飛島灯台から050度370メートルの地点に達したとき、針路を大鳴門橋橋梁灯中央灯のわずか右方に同首する340度に転じ、同時51分半淡路島側から鳴門海峡中央部に向けて拡延する一ツ碆の浅礁が右舷正横に替わったところで、針路を大鳴門橋橋梁灯中央灯と同右側端灯との間に向首するほぼ000度に向けたところ、住若丸が左舷船首16度1,150メートルのところで左回頭し緑灯を見せていることに気付いた。
D受審人は、柱若丸が潮流に抗して南下していることから、潮流で船首が振られて左転したものと思っていたところ、針路を元に戻す気配が見られず、自船の前路を横切る態勢で接近するので、潮流に抗し切れないまま反転して潮待ちするのかと考え、22時52分船尾方向ほぼ300メートルを後続する3隻の同航船に留意しながら、機関を約8ノットの微速力前進に減じるとともに、淡路島側から拡延する中瀬の浅礁に近寄らないよう、右舵5度をとって徐々に回頭を始めた。
22時52分半D受審人は、大鳴門橋を通過したところで、住若丸が反転する様子がないまま接近するので機関を停止し、引き続き右舵5度をとった状態のまま、警告信号を行って様子を見ていた。
22時53分D受審人は、住若丸が左舷前方450メートルにまで接近し、依然明確に方位が変わらず衝突のおそれがある状況であったが、相手船がなお反転するものと思い、機関を後進にかけて行き脚を止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく続航中、同時54分相手船が左舷前方220メートルに接近したときようやく機関を全速力後進にかけたが及ばず、船首をほぼ070度に向けた状態で、約3.5ノットの対水速力をもって前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住若丸はバウチョック右舷側に曲損、右舷前部外板に破口を伴う凹損を生じて浸水し、盛輝21は船首部外板及び球状船首に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が鳴門海峡最狭部付近において、互いに航過する態勢で航行中、南下する住若丸が、機関の運転管理が不適切で、主機が危急停止して運転不自由の状態に陥ったばかりか、その後の措置が不十分で、北上する盛輝21に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、盛輝21が、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。
住若丸が運転不自由の状態に陥ったのちの措置が適切でなかったのは、船長が主機停止を知った際、速やかに昇橋し、船橋当直者に対して運転不自由船の灯火を表示し、かつ、接近する他船に対して注意喚起信号を行うようになどの指示をしなかったことと、船橋当直者が、運転不自由船の灯火を表示せず、接近する他船に対して注意喚起信号を行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鳴門海峡最狭部に向けて南下中、主機が停止したことを自室で知った場合、速やかに昇橋し、船橋当直者に対して運転不自由船の灯火を表示し、かつ、接近する他船に対して注意喚起信号を行うようになどの指示をすべき注意義務があった。しかるに、同人は、昇橋せず、機関室に赴いて主機再起動の状況を見守っていただけで、船橋当直者に対して運転不自由船の灯火を表示するようになどの指示をしなかった職務上の過失により、来航する盛輝21に事態を知らせず同船との衝突を招き、自船の船首付近外板等に破口を伴う損傷を、盛輝21の船首部及び球状船首に損傷をそれぞれ生じさせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、鳴門海峡最狭部北側を南下中、数隻の一団となった反航船を認め、これらと同海峡最狭部付近において出会うことを回避するため機関を後進にかけた際、主機が危急停止して運転不自由の状態に陥った場合、速やかに運転不自由船の灯火を表示するなどの措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、間もなく主機が再起動されるものと思い、運転不自由船の灯火を表示するなどの措置をとらなかった職務上の過失により、盛輝21に事態を知らせず同船との衝突を招き、両船に前示のとおり損傷を生じさせた。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、鳴門海峡を経て徳島県橘港に向け航行する場合、潤滑油圧力が低下して主機が危急停止することのないよう、発航後予備ポンプが自動待機状態となっているかどうか確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、発航後ポンプが自動待機状態となっているかどうか確認を行わなかった職務上の過失により、潤滑油圧力低下で主機が危急停止して運転不自由の状態に陥らせ、盛輝21との衝突を招き、両船に前示のとおり損傷を生じさせた。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D受審人は、夜間、鳴門海峡最狭部付近を北上中、左舷を対して無難に航過できる態勢にあった住若丸が自船の前路に向け左回頭するのを認め、これを避けて主機を停止し、淡路島則から拡延する中瀬の浅礁に留意しながら徐々に右転を続けても依然相手船の方位か明確に変わらず接近し、衝突のおそれがある場合、遅滞なく機関を後進にかけて行き脚を止めるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。
しかるに、同人は、やがて相手船が反転するものと思い、機関を使用して行き脚を止めるなど、衝突を避けるための措置が遅れた職務上の過失により、住若丸との衝突を招き、両船に前示のとおり損傷を生じさせた。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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