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1999年(平成11年)

平成9年門審第53号
    件名
プレジャーボートレインボー漁船福神丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、清水正男、岩渕三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:レインボー船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
レインボー…左舷船首及び船底部に擦過傷
福神丸…右舷側ブルワークなどに破損、船長が溺水により死亡

    原因
福神丸…灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
レインボー…速力不適切(一因)

    主文
本件衝突は、福神丸が、航行中であることを示す灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、レインボーが安全な速力としなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月20日21時25分
鹿児島県志布志湾波見港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートレインボー 漁船福神丸
主たる根拠地 鹿児島県肝属郡東串良町町
総トン数 0.71トン
全長 9.75メートル
登録長 6.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 191キロワット
漁船法馬力数 60
3 事実の経過
レインボーは、レーダーを装備しないFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人4人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成8年8月20日18時00分鹿児島県肝属郡東串良町波見港柏原地区の船だまりを発し、志布志石油備蓄基地(以下「備蓄基地」という。)北東方の釣り場に向かった。
柏原地区の船だまりから備蓄基地北東方の釣り場に至るには、備蓄基地西岸と柏原海岸との間の水路を北上する方法と、備蓄基地南岸とその対岸の硯石地区との間を東行する方法とがあり、備蓄基地西岸と柏原海岸間の水路は可航幅約240メートル長さ約1,500メートルで、同水路南側の柏原地区船だまり入り口から約150メートル北側に両岸を結ぶ長さ約300メートルの柏原大橋が架けられ、同大橋の中央部付近に橋梁標識として左側端灯、中央灯である志布志石油備蓄基地柏原大橋橋梁灯(C1灯)(以下「C1灯」という。)及び右側端灯が設置され、夜間に同水路を航行する船舶の目標となっていた。また、道路灯として、柏原大橋に13基及び備蓄基地西岸道路に18基の高圧ナトリウムランプが45ないし83メートルの間隔で1基ずつ設置され、その明かりは同水路の海面にも届いて同水路中央付近は少し明るかったものの、無灯火の釣り船等が多数見掛けられることから、夜間、航行船舶は、十分な見張りが可能な安全な速力として航行していた。
18時15分A受審人は、釣り場に着いて魚釣りを始め、あじ、かんぱちなどを釣ったところで帰ることとし、21時16分釣り場を発進し、備蓄基地西端を左舷方100メートルに替わして備蓄基地西岸と柏原海岸間の水路に入り、21時22分半C1灯から003度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点において、針路をC1灯に向首する183度に定め、機関を回転数毎分2,300の半速力前進にかけ、9.4ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、操舵スタンド後方に立って機関を回転数毎分2,300で航行すると船首が浮き上がり、操舵スタンド前方に置いてある発電機の高さが目線よりも高くなって左舷船首15度から30度の範囲に船首死角が生じ、左舷方の見張りが妨げられることから、友人1人を操舵スタンド左舷側に立たせて前方の見張りを行わせたものの、法定灯火に加えて船首端に黄色全周灯、操縦席中央に船首方用投光器船尾に船尾方用投光器及び右舷方用ハロゲン投光器の各灯火を点灯して自船の周囲30メートルの海面を照射していたので、前方の見通しが更に悪い状態となって航行した。
定針したときA受審人は、左舷船首12度290メートルのところに無灯火の福神丸が先航し、同船と衝突するおそれがある態勢で接近する状況であったが、急いで帰航することに気を奪われ、無灯火の釣り船等を多数見掛ける水路内を、十分な見張りが可能な安全な速力として航行することなく、過大な速力で同船を視認しないまま進行し、その後同船が左舷船首方の死角に入って全くこれに気付かずに続航中、21時25分C1灯から003度170メートルの地点において、レインボーは、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、福神丸の右舷船尾に後方から7度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、福神丸は、船外機2基を備えた一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長Bが1人で乗り組み、あじ釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日18時30分柏原地区船だまりを発し、備蓄基地北東方の釣り場に向かった。
ところで、福神丸は、航海灯の設備がなく、B船長は、夜間に他船が接近したときには懐中電灯を照らして自船の位置を知らせるようにしていた。
18時50分B船長は、目的の釣り場に至り、あじ数匹を釣ったところで帰ることとし、21時05分釣り場を発進し、柏原地区船だまりに向け帰航の途につき、備蓄基地北西端を左舷方50メートルに替わして備蓄基地西岸と柏原海岸間の水路に入り、21時21分C1灯から009度900メートルの地点に至り、針路をC1灯の少し右方で柏原地区船だまり入り口中央に向首する190度とし、右舷側の船外機を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で進行した。
B船長は、21時22分半C1灯から008度630メートルの地点に達したとき、右舷船尾19度290メートルのところに、衝突のおそれがある態勢で接近するレインボーを認めることができたが船尾方の見張りを十分に行っていなかったので同船に気付かず、衝突を避けるため措置をとることなく続航中、福神丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、レインボーは、左舷船首及び船底部に擦過傷を、福神丸は、右舷側ブルワークなどに破損をそれぞれ生じ、B船長(大正11年3月25日生、四級小型船舶操縦士免状受有)が衝突の衝撃で海中に転落し、レインボーに救助されて病院に運ばれたが溺水により死亡した。

(原因)
本件衝突は、夜間、鹿児島県肝属郡東串良町波見港において、両船が備蓄基地西岸と柏原海岸との間の水路を南下中、福神丸が、航行中であることを示す灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、レインボーが、十分な見張りが可能な安全な速力としなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鹿児島県肝属郡東串良町波見港において、備蓄基地西岸と柏原海岸との間の水路を柏原地区の船だまりに向けて南下する場合、過大な速力で航行すると自船の左舷船首15度から30度の範囲に船首死角が生じて十分な見張りができなかったばかりか、同水路付近には多数の無灯火の釣り船等を見掛けていたのであるから、これらの釣り船等を見落とすことのないよう、十分な見張りが可能な安全な速力として航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、急いで帰航することに気を奪われ、十分な見張りが可能な安全な速力として航行しなかった職務上の過失により、前路を無灯火で航行する福神丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、レインボーの左舷船首及び船底部に擦過傷を、福神丸の右舷側ブルワークなどに破損をそれぞれ生じさせ、B船長を海中に転落させて溺死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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