日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年長審第10号
    件名
漁船勝漁丸漁船大和丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、坂爪靖
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:勝漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:大和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
勝漁丸…キール、推進器、舵板などに損傷
大和丸…左舷中央部付近を大破、浸水して機関にも損傷

    原因
勝漁丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    二審請求者
理事官畑中美秀

    主文
本件衝突は、勝漁丸が、動静監視不十分で、漂泊中の大和丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月8日07時00分
長崎県福江島東方センバイ瀬北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船勝漁丸 漁船大和丸
総トン数 5.9トン 4.8トン
登録長 11.65メートル 11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 213キロワット 176キロワット
3 事実の経過
勝漁丸は、一本釣り漁業に従事し、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が息子と2人で乗り組み、たちうお漁の目的で、船首0.42メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成10年10月8日06時00分操業の拠点とする長崎県福江港を発し、同港東方センバイ瀬北方沖合の漁場に向かった。
ところで、長崎県のたちうお漁は、日出から日没までの間に場所を移動しながら行い、50本ばかりの針を等間隔に取り付けたナイロン製の長さ200メートルないし300メートルの枝縄を、長さ100メートルないし200メートルのワイヤ製幹縄に連結して船尾から投じ、1ノットないし2ノットの速力で30分ばかり引いたのち、漂泊しながら揚縄して漁獲するということを繰り返すものであり、折からセンバイ瀬北方沖合が同漁の好漁場となっていたことから、各地から同漁に従事する漁船が多数集まっており、狭い範囲の海域で互いに50メートルないし数百メートルの距離を隔てて操業していた。このような状況下、たちうお漁に従事する各漁船は、操業中、特に操縦性能を制限されるものでないと自覚していたので、漁ろうに従事していることを示す形象物を特に掲げず、地区ごとの識別を表わす旗のみを掲げ、風上に向かって同じ方向に引き縄を行うこととし、互いに接近する際は、引き縄中や揚縄中の他船の船尾側近くを航過しないように注意して操業を行っていた。
A受審人は、06時23分崎山港北防波堤灯台(以下「北灯台」という。)から084度(真方位、以下同じ。)2.5海里ばかりの地点に至って投縄し、039度の方向に約1.5ノットの速力で1,300メートルばかり引き縄を行ったのち、漂泊しながら揚縄してたちうお約40キログラムを獲たところで、南東方に移動して再投縄することとし、漂泊中に船首が北西方に向首したので、同時58分半発進し、その場で機関を増速しながら左回頭を始めた。
回頭を始めて間もなくA受審人は、速力を増すと船首が浮上して左右各舷10度ばかりの範囲が船首部に遮られて死角を生じることから、平素は天窓から顔を出して船首死角を補う見張りを行うようにしていたが、自船の僚船から無線電話がかかってきたので、船首方が見通せない状態で左手に舵輪を、右手に受話器を持ち、回頭を続けた。
回頭を終える少し前A受審人は、左舷前方500メートルばかりのところに大和丸を視認し、間もなく同船が船首死角に入って見えなくなったまま同船に向首する態勢となったが、その周囲にいた同船の僚船数隻が、いずれも左方に向け引き縄中であったことから、大和丸も引き縄中でそのうち前路を左方に替わるものと思い、天窓から顔を出して同船の態勢を確かめるなど、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、06時59分少し前北灯台から075度3海里の地点で、針路を129度に定め、機関を全速力前進にかけて14.5ノットの対地速力として進行し、その後衝突のおそれがある態勢で漂泊して揚縄に従事していた大和丸に向首接近する状況となったことに気付かないまま、依然右舷船首前方を先行する自船の僚船と漁摸様についての交信をしながら続航した。
こうして、勝漁丸は、漂泊中の大和丸を避けないで進行中、07時00分北灯台から079度3.2海里の地点において、その船首が、同一の針路、速力のまま、大和丸の左舷中央部にほぼ90度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、大和丸は、勝漁丸とほぼ同型の一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が妻と2人で乗り組み、たちうお漁の目的で、船首0.35メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日06時15分操業の拠点とする長崎県崎山漁港を発し、センバイ瀬北方沖合の漁場に向かった。
06時30分B受審人は、北灯台から090度2.6海里の漁場に至って投縄し、北東方に引き縄を行ったのち、同時58分前示衝突地点に達したとき、機関を中立運転として漂泊し、その後北東方に向首したまま、船尾甲板上で揚縄作業を行っていた。
06時59分少し前B受審人は、揚縄しながら周囲を見渡したところ左舷側500メートルばかりのところに勝漁丸を認めたが、同船は漁場移動を開始した同業船なので、いずれ自船を替わして行くものと思って揚縄を続けた。
07時00分わずか前B受審人は、039度に向首した態勢で漂泊していたとき、異音に気付き左舷側を見ると、勝漁丸が自船を避けずに迫ってくるのを認め、危険を感じて船尾甲板上の操舵室右舷側後方でえさ付けなどの作業をしていた妻の身をかばって同甲板上に伏せた直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、勝漁丸の船体が大和丸の船体に乗り上がり、勝漁丸は、キール、推進器、舵板などに損傷を生じ、大和丸は、左舷中央部付近を大破したばかりか、浸水して機関にも損傷が及んだが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、長崎県福江島東方センバイ瀬北方沖合の狭い海域において、たちうお引き縄漁を行う漁船が多数集まって操業中、漁場移動中の勝漁丸が、動静監視不十分で、漂泊して揚縄中の大和丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県福江島東方センバイ瀬北方沖合のたちうお引き縄漁を行う漁船が多数集まって操業中の狭い海域において、漁場移動のために発進し、回頭して次の投縄地点に向かう場合、回頭中に認めた大和丸が船首死角に入って見えなくなっていたのであるから、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、天窓から顔を出して同船の態勢を確かめるなどの同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、大和丸の周囲にいた同船の僚船が左方に引き縄中であったことから、大和丸も引き縄中でいずれ前路を左方に替わって行くものと思い、自船の僚船と無線電話で交信していて大和丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊して揚縄中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船に推進器、舵などの損傷を、大和丸に左舷中央部付近大破、機関損傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為は対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION