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1999年(平成11年)

平成10年那審第56号
    件名
旅客船かりゆしおきなわ貨物船フェリー東京衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:かりゆしおきなわ船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:フェリー東京船長 海技免状:一級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
かりゆしおきなわ…船首部を圧壊
フェリー東京…船主部右舷を長さ15メートルにわたって損傷

    原因
かりゆしおきなわ…見張り不十分、港則法の航法(避航動作)不遵守(主因)
フェリー東京…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、かりゆしおきなわが、見張り不十分で、防波堤の外で出航するフェリー東京の進路を避けなかったことによって発生したが、フェリー東京が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月14日21時00分
沖縄県那覇港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船かりゆしおきなわ 貨物船フェリー東京
総トン数 6,613トン 5,968トン
全長 145.78メートル 157.86メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 10,591キロワット 17,652キロワット
3 事実の経過
かりゆしおきなわは、主機1基、プロペラ軸1軸、可変ピッチプロペラ及び船首、船尾のサイドスラスターを備え、船橋が船首部に位置し、航行区域を近海区域(限定)とする旅客船兼自動車渡船で、沖縄那覇港、同県石垣港、同県平良港、福岡県博多港及び鹿児島県鹿児島港の間の定期運航に従事していたものであるが、A受審人ほか27人が乗り組み、旅客20人を乗せ、コンテナ、車両など3,170トンを積載し、船首5.20メートル船尾6.70メートルの喫水をもって、平成10年8月13日18時40分定刻よりも40分遅れで博多港を発し、那覇港に向かった。
翌14日20時30分A受審人は、残波岬灯台から220度(真方位、以下同じ。)5.2海里の地点に達したとき、船橋当直中の三等航海士から針路などを引き継いで操船指揮に当たり、針路を那覇港中央灯浮標(以下、灯浮標の名称については「那覇港」を省略する。)にほぼ向首する187度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で、航行中の動力船が表示する灯火を掲げて続航し、間もなく、那覇ふ頭から離岸して防波堤の外に向かう観光船が予定岸壁の同ふ頭1号岸壁へ自船が着岸するまで待つ旨の連絡を受けた。
ところで、那覇港は港則法に定める特定港であり、同港に出入りするため大小各種、多数の船舶が各防波堤の入口を航行することとなるが港則法の規定において、出航船と入航船とが防波堤の入口または入口付近で出会うおそれがある場合には入航船が防波堤の外で出航船の進路を避けなければならないこととなっていた。なお、同港には港則法上の「航路」は設けられていなかった。
A受審人は、いつものとおり唐口と称する那覇港南部の防波堤の入口(以下「防波堤入口」という。)を経由することとして進行し、20時50分一等航海士を見張りに、三等航海士を見張り及びサイドスラスターの操作に、機関長を主機遠隔操縦に、甲板手を操舵にそれぞれ配置し、そして手動操舵に切り換えさせた。
20時54分A受審人は、那覇港新港第1防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)から320度1.4海里の地点に達したとき、防波堤入口に向かうべく左転し、その後左転を繰り返すとともに、機関用意を指示し、那覇信号所の信号が那覇ふ頭方面への入航が可能となっていることを確かめた。
20時56分A受審人は、南灯台から306度0.8海里の地点に達したとき、針路を第4号灯浮標にほぼ向首する135度に転じ、機関を14.0ノットのスタンバイ全速力前進とし、このとき防波堤内の左舷船首28度1.3海里に出航するフェリー東京を認めうる状況であったが、新港ふ頭を離岸すると聞いていた他船とはすでに出会っていたことから、新港ふ頭方面からの出航船はないと思い、自ら出航船の有無を確かめるなり、在橋の航海士にも双眼鏡あるいはレーダーにより出航船の有無を確かめさせるなどの十分な見張りを行うことなく、操船と那覇信号所方向のみに気を遣い、背後の市街地の明かりによりやや識別しにくかったこともあって、フェリー東京の存在に気付かなかった。
20時57分A受審人は、フェリー東京が1.0海里となり、防波堤入口に向かって出航することが分かる状況で、そのままでは同船と防波堤入口で出会うおそれがあったが、依然同船の存在に気付かず、速やかに行きあしを止めるなどせず、防波堤の外で同船の進路を避けないまま、前示観光船が自船の着岸を待ってから離岸することとなっていたこともあって、運航管理規程の運航基準に基づく入航時の速力を超える速力で進行した。
20時58分A受審人は、機関を12.0ノットの半速力前進に減じ、そのころ一等航海士の報告により左舷船首22度0.6海里のところにフェリー東京を初めて認め、一等航海士が指向性の携帯用発光信号灯により同船に対して点滅光を発したのち、三等航海士に指示してVHFにより左舷を対して航過したい旨を伝えたところ、同船から右舷を対して航過したい旨応答され、再度左舷を対して航過したい旨を伝えたが、応答が得られず、同時58分半南灯台から280度400メートルの地点で、針路を143度に転じるとともに、危険を感じて機関停止に続いて全速力後進とし、行きあしが次第に減じるなか、21時00分少し前左舵一杯としたが、21時00分南灯台から210度280メートルの地点において、かりゆしおきなわの船首が、140度を向いてわずかに前進行きあしの残った状態で、フェリー東京の船首部右舷側に前方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、フェリー東京は、主機2基、プロペラ軸2軸び船首サイドスラスターを備え、船橋が船体中央部よりもやや船首寄りに位置し、航行区域を近海区域(限定)とする貨物船兼自動車渡船で、東京港、那覇港、静岡県清水港、鹿児島県志布志港の間の定期運航に従事していたものであるが、B受審人ほか11人が乗り組み、貨物、車両等を積載せず、船首4.60メートル船尾5.60メートルの喫水をもって、同日20時35分那覇港新港ふ頭7号岸壁を発し、株式会社Rにおける入渠(きょ)のため、愛媛県越智郡吉海町に向かった。
B受審人は、左舷着岸のところ、三等航海士を見張りに、二等機関士を主機遠隔操縦に、甲板手を操舵にそれぞれ配置して離岸時から操船に当たり、右回頭ののち、20時46分南灯台から075度1.4海里の地点で、機関を9.0ノットの微速力前進にかけ、以後使用していつものとおり防波堤入口に向かい、航行中の動力船が表示する灯火を掲げて進行した。
20時48分B受審人は、南灯台から077度1.1海里の地点で、250度に向首しているとき、防波堤の外から防波堤入口にさしかかる199トン型貨物船を待つため機関を停止し、そのころ沖合の右舷正横よりも少し前方3.4海里に南下するかりゆしおきなわを初めて認め、S株式会社の入航船と判断し、自船の存在を示すため、汽笛を約3秒の長さで1回吹鳴するとともに、VHFにより自船の船名、防波堤入口から出航する旨を発信し、船名を聞くため応答を求めたが、応答が得られなかった。
20時54分B受審人は、南灯台から078度0.9海里の地点で、前示貨物船が左方にかわる状況となったので、針路を南灯台にほぼ向首する260度に定め、機関を10.5ノットの半速力前進にかけて進行した。20時56分B受審人は、南灯台から080度0.6海里の地点に達したとき、針路を第4号灯浮標をほぼ正船首に見る230度に転じ、更に機関を12.0ノットのスタンバイ全速力前進にかけ、そのころかりゆしおきなわが右舷船首57度1.3海里となり、防波堤入口に向けていたところ、再び汽笛を約3秒の長さで1回吹鳴するとともに、VHFによりかりゆしおきなわを呼んだが、応答が得られなかった。
20時57分B受審人は、かりゆしおきなわが1.0海里となったとき、入航船としてはかなり高速力であること、停止する様子もないこと、そのままでは防波堤入口で出会うおそれがあることなどを容易に判断できる状況であったが、同船が防波堤の外で自船の進路を避けるものと思い、動静監視を十分に行うことなく続航し、警告信号を行わなかったばかりか、行きあしを停止するなりの衝突を避けるため措置をとらなかった。
20時58分B受審人は、南灯台から115度600メートルの地点で、なおも出航しようと270度に転じ、その後間もなくかりゆしおきなわが発した点滅光を認め、続いてVHFにより左舷を対して航過したいと伝えられ、右舷を対して航過したいと自ら応答したところ、次いで更に左舷を対して航過したいと伝えられたが、互いに急速に接近するので応答する余裕がなく、同時59分機関を10.5ノットの半速力前進に減じ、21時00分少し前機関停止に続いて全速力後進とし、右舵一杯としたが、フェリー東京は、舵効が現れないうち、約10ノットの前進行きあしの状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、かりゆしおきなわは、船首部を圧壊し、フェリー東京は、船首部右舷を長さ15メートルにわたって損傷し、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、沖縄県那覇港において、かりゆしおきなわが、防波堤入口に向けて入航中、見張り不十分で、防波堤の外で出航するフェリー東京の進路を避けなかったことによって発生したが、フェリー東京が、かりゆしおきなわと防波堤入口で出会うおそれがあったとき、同船に対する動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、那覇港において、防波堤入口に向けて入航する場合、自らはもとより在橋の航海士に出航船があるかどうか確認させるなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同港の新港ふ頭を離岸すると聞いていた他船とすでに出会っていたことから、新港ふ頭からの出航船はないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新港ふ頭から防波堤入口に向かって出航中のフェリー東京に気付かず、防波堤の外で同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、かりゆしおきなわ船首部に損傷を、フェリー東京船首部右舷に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。B受審人は、夜間、那覇港において、新港ふ頭から防波堤入口に向けて出航中、入航するかりゆしおきなわを認めていた場合、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、かりゆしおきなわが防波堤の外で自船の進路を避けるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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