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1999年(平成11年)

平成10年横審第113号
    件名
漁船政栄丸漁船第二英幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、勝又三郎、西村敏和
    理事官
岩渕三穂

    受審人
A 職名:政栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:第二英幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
政栄丸…右舷船首部防舷材を折損
英幸丸…右舷後部外板の破損及び船外機の全損を生じ、のち廃船

    原因
政栄丸…無灯火、動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、政栄丸が、無灯火のうえ、動静監視不十分で、ほぼ停留中の第二英幸丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月1日00時30分
愛知県大野漁港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船政栄丸 漁船第二英幸丸
総トン数 4.0トン 1.2トン
登録長 10.86メートル 7.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 35 30
3 事実の経過
政栄丸は、全長が12メートル以上のひき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、小型機船底びき網漁の目的で、船首0.20メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、平成10年4月30日23時50分愛知県常滑港を発し、船灯を点灯しないまま、伊勢湾灯標東方にあたる、同県大野漁港沖合の名古屋港第5区内の漁場に向かった。
ところで、政栄丸は愛知県知事から貝けた網による小型機船底びき網漁業の許可を受け、その操業方法はワイヤロープに接続した片つめ錨を船尾から投入し、ゆっくり前進して船尾ドラムに巻いた同錨のワイヤロープを約100メートル延出したのち、機関を中立とし、船尾ドラムを駆動して同ワイヤロープを巻き込み、後進行き脚がついたところで左舷船首から漁具を投入し、同ワイヤロープを巻き込みながら後進で水流噴射装置を備えたけた網をひくもので、1回の操業時間が約15分であった。この貝けた網漁には操業時間及び同区域に制限があり、夜間の操業は禁止され、名古屋港第5区内の漁場は政栄丸の許可区域外であった。
A受審人は、翌5月1日00時10分漁場に着き、大野港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から329度(真方位、以下同じ。)1,500メートルの地点で船首を南に向け、無灯火のまま、片つめ錨を船尾から投入して操業を開始し、船尾ドラムでワイヤロープを巻き込みながらけた網ひきをしているとき、右舷船尾方1海里ばかりに白、紅2灯を視認し、見守るうち次第に同灯火が白、紅、緑3灯、次いで白、緑2灯に変化したものの、許可区域外での操業であったことから、その灯火の船舶を海上保安庁の巡視艇と思って操業を切り上げ、同時22分ごろ急いで漁具の取り込みにかかった。
00時25分半A受審人は、とりがい約5キログラムを漁獲して漁具の取り込みを終え、直ちに帰航するため前示操業開始地点を発進し、左方の陸岸の明かりを見ながら、針路を181度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で、無灯火のまま手動操舵により進行した。
発進時A受審人は、正船首方1,900メートルのところに、第二英幸丸(以下「英幸丸」という。)の白灯1灯を視認し、あなご籠(かご)はえ縄漁を行っている漁船の作業灯であることを知ったが、漁具の一部がまだ揚収できていなかったので、これを回収しているうちに同船の存在を忘れ、その後許可区域外で操業をしていたことなどから、巡視艇が追い掛けてくるのではないかと思って後方のみを注意し、英幸丸が表示する灯火に対する動静監視を十分に行うことなく、00時28分同船を正船首方860メートルに見るようになり、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かないまま、同船を避けずに進行中、00時30分北防波堤灯台から234度1,000メートルの地点において、政栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が英幸丸の右舷後部外板に前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、英幸丸は、採介藻漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あなご籠はえ縄漁の目的で、船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって、同年4月30日22時00分愛知県鬼崎漁港榎戸地区を発し、左舷船尾部に両色灯を。点灯し、大野漁港南西方沖合の漁場に向かった。
ところで、英幸丸のあなご籠はえ縄魚は、太さ6ミリメートルの合成繊維製ロープに15メートル間隔で50個の籠を取り付けた、長さ約750メートルのはえ縄を1連とし、南北方向に4連を投縄して、しばらく待機したのち、投縄を開始した地点から順にはえ縄を手繰り揚げる漁法で、投縄時間は4連で約1時間、揚縄時間は1連で70分から80分かかっていた。
漁場に着いたB受審人は、22時05分北防波堤灯台から211度1,600メートルの地点で投縄を始め、同地点から北方に向かって2連を投入し、引き続き西方に約100メートル移動した地点から南方に向けて2連を投入したのち、前示投縄開始地点に戻り、23時05分船首を000度に向けて機関を止め、両色灯に加えて右舷船首部に12ボルト30ワットの傘付き作業灯を点灯し、左舷船首部に立って揚縄を開始した。
翌5月1日00時25分B受審人は、北防波堤灯台から233度1,000メートルの地点で1連目の揚縄を終え、引き続き2連目の揚縄を開始し、同時28分前示衝突地点に差し掛かり、ほぼ停留した状態で1個目の籠を取り込んだとき、正船首方860メートルのところに政栄丸が接近し、その機関音が聞こえたので周囲を見渡したが、無灯火であった同船を認めることができなかった。
B受審人は、左舷船首方にはえ縄を出したまま風の影響を受けて351度に向首し、操業を中止して様子を見ていたところ、00時29分半正船首方200メートルのところに政栄丸の船影を認め、同船の確かな針路状況がわからないまま、急ぎ作業灯を持って同船に向け、大声で叫んだが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、政栄丸は、右舷船首部防舷材を折損したがのち修理され、英幸丸は、右舷後部外板の破損及び船外機の全損を生じ、のち廃船となった。

(原因)
本件衝突は、夜間、愛知県大野漁港南西方沖合において、常滑港に帰航のため南下中の政栄丸が、無灯火のうえ、動静監視不十分で、前路でほぼ停留中の英幸丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、愛知県大野漁港西方沖合において、無灯火のまま、操業を切り上げて常滑港に帰航のため南下中、前路に英幸丸の白灯1灯を認め、あなご籠はえ縄漁を行っている漁船の作業灯であることを知った場合、衝突のおそれのあることを判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、許可区域外で操業をしていたことなどから、巡視艇が追い掛けてくるのではないかと思って後方のみを注意し、英幸丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路でほぼ停留中の同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、政栄丸の右舷船首部防舷材に折損を生じさせ、英幸丸の右舷後部外板を破損し、船外機が全損となる損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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