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1999年(平成11年)

平成10年横審第31号
    件名
旅客船シンフォニー作業船祥容丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、勝又三郎、西村敏和
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:シンフォニー船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:シンフォニー等航海士 海技免状:一級海技士(航海)
D 職名:祥容丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
シ号…船首部に擦過傷
祥容丸…右舷側中央部に凹損及び操舵室に破損、のち沈没、廃船

    原因
祥容丸…動静監視不十分、港則法の航法(雑種船)不遵守(主因)
シ号…見張り不十分、警告信号不履行、港則法の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、雑種船である祥容丸が、動静監視不十分で、小型船及び雑種船以外の船舶であるシンフォニーの進路を避けなかったことによって発生したが、シンフォニーが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Dの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月2日19時10分
京浜港東京第2区
2 船舶の要目
船種船名 旅客船シンフォニー 作業船祥容丸
総トン数 1,089トン
全長 70.00メートル 10.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 55キロワット
3 事実の経過
シンフォニー(以下「シ号」という。)は、専ら京浜港東京区及び同区周辺海域の遊覧航海に従事する鋼製旅客船で、A、B両受審人及びC指定海難関係人のほか運航要員4人並びに船客部員9人が乗り組み、乗客23人を乗せ、ディナークルーズと称する遊覧航海の目的で、船首1.98メートル船尾2.90メートルの喫水をもって、平成9年12月2日19時00分航行中の動力船の灯火を表示して同港東京第2区日の出桟橋M岸壁を発し、同港東京第3区から東京東航路を経て東京灯標沖を周遊し、東京西航路を通って日の出桟橋に戻る約2時間30分の同航海を開始した。
ところで、京浜港東京第2区は、同港東京区の北部港奥に位置し、隅田川の右岸から南方に竹芝桟橋、日の出桟橋、芝浦岸壁及び品川ふ頭が並び、そして同ふ頭の対岸は水路を隔てて第6台場、その南側に13号地が続き、一方、同川の左岸から南東方に水産ふ頭、晴海ふ頭及び豊洲ふ頭が並び、晴海ふ頭の南東端に晴海信号所があり、豊洲ふ頭南東岸と対岸の貯木場との間の東雲運河は雑種船などの水路となっていて、芝浦岸壁南端から対岸の13号地を挟んで、東西方向にレインボーブリッジが架かり、同ブリッジ下の水域は、東京西航路に至る主要通航路となっていた。
離岸時A受審人は、部署配置を令し、船首部に次席一等航海士とC指定海難関係人を、船尾部に一等機関士と他の甲板員を、機関室に機関長をそれぞれ配置し、船橋ではB受審人に手動操舵及び機関の遠隔操作に就かせ、自ら操船指揮を執り、離岸して同部署を開いたあと、船首尾部署についていた甲板部乗組員を船橋に上げることとし、昇橋してきた次席一等航海士を操舵等に、B受審人を操船補佐に、C指定海難関係人と他の甲板員を見張りにそれぞれ当たらせ、岸壁前面の水域でゆっくり後進しながら左回頭し、19時05分晴海信号所から289度(真方位、以下同じ。)1,060メートルの地点で、針路をレインボーブリッジのほぼ中央に向首する172度に定め、微速力前進にかけたところで、周囲に航行の支障となる他船が見当らなかったので、慣例となっている乗客に対する船長挨拶の放送を行うため、操船指揮をB受審人に委ねて降橋した。
B受審人は、船橋前面の右舷側で操船指揮に当たり、同一針路で徐々に全速力前進まで増速し、19時08分半晴海信号所から233度1,080メートルの地点で、対地速力が10.5ノットになったとき、針路を181度に転じ、このころ左舷船首35度400メートルのところに東雲運河から出てきた祥容丸の白、緑2灯を視認でき、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、これまでの経験で豊洲ふ頭方向から接近する船が少なかったことから左舷側から接近する他船はいないものと思い、C指定海難関係人に指示して行わせていた懐中電灯の電池交換作業を一時やめさせ、他の甲板員とともに周囲の見張りを十分に行うよう指示せず、自らも左舷側の見張りを行うことなく、このことに気付かないで警告信号を行わず、同時09分少し過ぎ同船が左舷船首間近に迫ったことに気付かず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらなかった。
19時09分半A受審人は、船内放送を終えて再度昇橋し、B受審人から接近する他船がある旨の報告が得られないまま、同人から操船指揮を引き継いだものの祥容丸の接近に気付かなかった。
また、このころ電池交換作業を終えたC指定海難関係人は、19時10分少し前ふと船橋左舷側を見たところ、左舷前方至近に祥容丸の緑灯及び船影を初めて認めて大声をあげた。
A受審人は、C指定海難関係人の大声で左舷前方至近に迫った祥容丸を初めて認め、機関を停止して汽笛を吹鳴し、続いて機関を全速力後進としたが及ばず、19時10分晴海信号所から218度1,430メートルの地点において、シ号は、原針路、原速力のまま、その船首が祥容丸の右舷側中央部に後方から58度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は低潮時であった。
また、祥容丸は、専ら京浜港及び千葉港の港内で行われる土木工事現場への作業員の送迎や、同工事現場周辺水域の警戒業務に従事する、最大搭載人員13人の鋼製交通船兼作業船で、港則法第3条第1項に規定する雑種船に該当し、D受審人が1人で乗り組み、千葉県浦安市舞浜付近で行われている南葛西地盤改良工事現場付近での警戒業務を終え、船首0.40メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同日18時15分航行中の動力船の灯火を表示して同工事現場を発し、東京都港区芝浦4丁目にある夕凪(ゆうなぎ)矯北側の定係地に向かった。
発航後D受審人は、船体中央部の操舵室で手動操舵に当たり、東京都江戸川区葛西臨毎公園とその南側にある三枚洲間の水路から砂町運河及び東雲東運河を経由して東雲運河を通航し、19時02分晴海信号所から146度1,050メートルの地点で、針路をレインボーブリッジの西側橋脚に向首する267度に定め、機関を毎分回転数1,300にかけて6.2ノットの対地速力で西行し、折からの西寄りの風による波が船首前面に吊るしたタイヤ製防舷物にあたって飛沫(まつ)が操舵室前面のガラスにかかり、前方の見通しがやや悪くなった状況で進行中、19時07分半晴海信号所から207度1,040メートルの地点で、右舷船首56度750メートルのところに白、白、紅3灯及び船室内の種々の照明を点灯して南下するシ号を初めて認めたが、同船との距離が十分にあり前路を無難に航過できると思い、同時08分晴海信号所から210度1,080メートルの地点に達したとき、針路を品川ふ頭北西端付近の顕著な灯火に向首する239度に転じた。
転針後D受審人は、右舷側からも飛沫がかかる状況となり、19時08分半シ号を右舷ほぼ正横400メートルに見るようになったとき、同船が右転し、その後その方位に変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが依然同船との距離が十分にあり前路を航過できると思い、右舷船首方から紅灯を見せて接近する第3船に気を奪われ、シ号に対する十分な動静監視を行うことなく、このことに気付かず、雑種船以外の船舶であるシ号の進路を避けないまま続航中、同時10分少し前同船の吹鳴する汽笛を聞いて右舷方見たとき、至近に迫った同船の白い船首部を認め、機関を全速力前進にかけたが及ばず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、シ号は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、祥容丸は右舷側中央部に凹損及び操舵室に破損をそれぞれ生じ、衝突の衝撃で転覆して沈没し、のち引き上げられたが廃船とされ、D受審人は船内に閉じ込められたが、沈没前に逃れて付近航行中の船舶に救助された。

(原因)
本件衝突は、夜間、京浜港東京第2区において、東雲運河から芝浦岸壁の後背にある定係地に向けて西行中の雑種船である祥容丸が、動静監視不十分で、遊覧航海のためにレインボーブリッジ下を南下中のシ号の進路を避けなかったことによって発生したが、シ号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
D受審人は、夜間、京浜港東京第2区を雑種船である祥容丸を運航して定係地に向けて西行中、南下する小型船及び雑種船以外の船舶であるシ号を認めた場合、同船の前路を航過できるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷船首方から紅灯を見せて接近する第3船に気を奪われ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、シ号の船首部に擦過傷を生じさせ、祥容丸の右舷側中央部及び操舵室を破損して同船を転覆沈没させるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、京浜港東京第2区を遊覧航海のために南下する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。
しかし、同人は、これまでの経験で豊洲ふ頭方向から接近する船が少なかったことから左舷側から接近する他船はいないものと思い、左舷側の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する祥容丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもしないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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