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1999年(平成11年)

平成10年仙審第52号
    件名
漁船第三十一大勝丸漁船第五十一福栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、供田仁男、今泉豊光
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第三十一大勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五十一福栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大勝丸…船首部に擦過傷
福栄丸…船尾部外板等に亀裂

    原因
大勝丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
福栄丸…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十一大勝丸が、動静監視不十分で、前路で停留した第五十一福栄丸を避けなかったことによって発生したが、第五十一福栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月21日13時00分
岩手県大船渡港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一大勝丸 漁船第五十一福栄丸
総トン数 19.35トン 9.7トン
登録長 16.95メートル 14.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 120
3 事実の経過
第三十一大勝丸(以下「大勝丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、大船渡港茶屋前物揚げ場岸壁に出船右舷着けに、その左舷側に第五十一福栄丸(以下「福栄丸」という。)及び僚船2隻がそれぞれ出船横列状態に係留していたところ、操業の目的で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首1.1メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、岸壁沖側から係留していた僚船及び福栄丸の発進に続いて、平成8年10月21日12時45分同岸壁を発し、三陸沖合の漁場に向かった。
12時48分A受審人は、離岸から単独で操舵操船にあたり、弁天山63メートル頂から320度(真方位、以下同じ。)1,190メートルの地点で、針路を183度に定めたとき、正船首100メートルのところを福栄丸が先航中であり、機関を微速力前進にかけて5.0ノットの速力で、わずかに速力の速い同船に追従する態勢で右舷方の公共岸壁に沿い、珊琥島西側を南下するつもりで手動操舵により港内を進行した。
やがて、12時58分半少し過ぎA受審人は、前路200メートルのところを先航中の福栄丸が大船渡漁港魚市場南側の製氷工場付近で停留を始めたころ、たまたま僚船からの無線電話が鳴り出したが、福栄丸が同じ態勢のまま漁場に向かうものと思い、操舵位置後方の天井から吊り下げられた電話マイクを取り船首方を背にしながら応答して同船の動静を監視しなかったので、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かず、同船を避けないまま続航した。間もなく、電話の応答を終えて船首方を振り返ると前路至近に迫った福栄丸を認め、衝突の危険を感じて急いで機関停止続いて後進としたが及ばず、13時00分大船渡港珊琥北灯台から345度730メートルの地点において、大勝丸は、原針路、原速力のままその船首が福栄丸の船尾部に真後ろからほぼ平行した角度で衝突した。
当時、天候は晴で風がほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
また、福栄丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日12時43分大勝丸の舷側を発し、三陸沖合の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、出漁に先立ち、途中で大船渡漁港魚市場南側の製氷工場前の岸壁に接舷して氷を積み込む予定であった。
こうして、12時47分半B受審人は、弁天山63メートル頂から320度1,190メートルの地点で、針路を183度に定め、機関を半速力前進にかけて6.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
同時58分半少し過ぎB受審人は、製氷工場岸壁沖合の前示衝突地点付近に達したところで、氷積み込み中の先船の離岸を待つために停留して後方を見張ったとき、正船尾200メートルのところに後続中の大勝丸を認めたが、たまたま同船の右舷寄りの船首部を見たことから、同船が自船の左舷側を替わしてゆくものと思い、その後大勝丸の動静を監視しなかったので、同船が衝突のおそれがある態勢のまま接近することに気付かず、自船を避けないまま接近する大勝丸に対して避航を促すよう警告信号を行わず、更に機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続け、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大勝丸は船首部に擦過傷を生じ、福栄丸は船尾部外板等に亀裂を伴う損傷を生じた。

(原因)
本件衝突は、大船渡港内において、両船が港奥から港外に向けて相次いで出航中、後続する大勝丸が、動静監視不十分で、前路で停留した福栄丸を避けなかったことによって発生したが、停留した福栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず機関を使用して衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、大船渡港内において、福栄丸に後続して港奥から漁場に向かう場合、先航する同船に追突することのないよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、福栄丸が同じ態勢のまま漁場に向かうものと思い、たまたま僚船からの無線電話に後ろ向きの姿勢で応答し、福栄丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が砕氷積込みのために港内製氷工場岸壁沖合に達して前路で停留を始めたことに気付かず、同船を避けないまま進行して、福栄丸との衝突を招き、大勝丸の船首部外板に擦過傷及び福栄丸の船尾部外板等に亀裂を伴う損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、大船渡港内において、砕氷積込みのために製氷工場岸壁沖合で停留を始めた際、近距離に後続中の大勝丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたま大勝丸の右舷寄りの船首部を認めたので、同船が自船の左舷側を替わしてゆくものと思い、大勝丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続けて、大勝丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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