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1999年(平成11年)

平成11年横審第26号
    件名
漁船稲川丸防波堤衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔
    理事官
葉山忠雄

    受審人
A 職名:稲川丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部を損壊

    原因
船位確認不十分

    主文
本件防波堤衝突は、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月23日03時00分
茨城県常陸那珂港港湾区域内
2 船舶の要目
船種船名 漁船稲川丸
総トン数 4.9トン
全長 17.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 264キロワット
3 事実の経過
稲川丸は、ひき網漁業、小型底引き網漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、しらすひき網漁、の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成8年5月23日02時30分茨城県日立港北端に所在する久慈漁港を発し、犬吠埼沖合に向かった。
A受審人は、茨城県に濃霧注意報が発表されていたので、出航後、02時43分日立港東防波堤灯台から215度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で機関を停止し、海上模様を見渡したところ、視界はやや開けていたので、陸岸から1.5海里ばかり隔てて目的地に向かうこととし、同時48分針路を170度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で、そのころ自船の後方300メートルのところにいた僚船の軍司丸とともに、磯埼灯台沖に向けて進行した。
ところで、磯埼灯台北方の阿字ヶ浦海岸には、北関東地区の物流拠点として、常陸那珂港の建設が計画され、平成元年からその整備に着手されているところであるが、距岸2,500メートルのところに計画されている、南北長さ6,000メートルの同港東防波堤(以下「東防波堤」という。)が築造中であった。
A受審人は、自ら手動操舵に当たり、乗組員の1人をレーダー監視に、他の1人を船首見張りにそれぞれ就けて常陸那珂港港湾区域内を南下したところ、02時55分磯埼灯台から003度4.2海里の地点に達したとき、急に霧が濃くなり、視程が100メート川ばかりに制限された状態になり、これまで左舷船首方に視認していた東防波堤の工事現場を示す灯火が視認できなくなったが、同防波堤に近づけは視認できるものと思い、いったん機関を停止するなどして周囲の状況を確認することなく、同防波堤との相対位置関係が不明のまま続航中、03時00分磯埼灯台から010度3.1海里の地点において、稲川丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が、築造中の東防波堤に、後方から10度の角度で突進した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視程は100メートルであった。
衝突の結果、船首部を損壊したが、のち修理された。

(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、しらすひき網漁の目的で、久慈漁港から犬吠埼沖合の漁場に向け、建設中の常陸那珂港港湾区域内を南下中、霧のため視界制限状態となり、東防波堤の工事現場を示す灯火が視認できなくなった際、周囲の状況確認が不十分で、機関を停止する措置をとらずに同防波堤との相対位置関係が不明のまま、これに向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、しらすひき網漁の目的で、久慈漁港から犬吠埼沖合の漁場に向け、建設中の常陸那珂港港湾区域内を南下中、霧のた視界制限状態となり、東防波堤の工事現場を示す灯火が視認できなくなった場合、いったん機関を停止して周囲の状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同防波堤に近づけば視認できるものと思い、機関を停止するなどして周囲を十分に確認しなかった職務上の過失により、同防波堤の相対位置関係が不明のまま、これに向首進行して衝突し、船首部を損壊させるに至った。






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