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1999年(平成11年)

平成11年函審第9号
    件名
漁船第三辰栄丸漁船第二十八宝幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
C 職名:第二十八宝幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
辰栄丸…後部左舷側外板に破口を生じて浸水沈没
宝幸丸…左舷球状船首部に破口などの損傷

    原因
宝幸丸…居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
辰栄丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)、船舶所有者が有資格者を乗り組ませなかった

    主文
本件衝突は、第二十八宝幸丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の第三辰栄丸を避けなかったことによって発生したが、第三辰栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
第三辰栄丸の船舶所有者が有資格者を乗り組ませなかったことは本件発生の原因となる。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月23日09時20分
北海道釧路港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三辰栄丸 漁船第二十八宝幸丸
総トン数 38トン 19トン
全長 17.40メートル
登録長 19.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 130 190
3 事実の経過
第三辰栄丸(以下「辰栄丸」という。)は、さんま棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、A指定海難関係人ほか8人が乗り組み、操業の目的をもって、船首1.0メートル船尾2、8メートルの喫水で、平成10年8月22日10時40分北海道釧路港を発し、23時00分同港南東方沖合50海里ばかりの漁場に至り、夜間操業ののち、翌23日04時00分さんま約13トンを獲て操業を中止したが、当日は日曜日にあたり、同港魚市場が休業で水揚げできないことから二夜続けて操業することとし、04時30分厚岸灯台から137度(真方位、以下同じ。)30.5海里ばかりの地点で航行中の動力船の灯火を表示し、機関を停止して漂泊待機した。
B指定海難関係人は、昭和54年に同船を建造したとき、総トン数が20トン未満であったので一級小型船舶操縦士の海技免状を受有するA指定海難関係人を船長兼漁労長とし、ほか7名を乗り組ませて操業させていたが、平成6年6月の改造により総トン数が38トンに増トンされたため、五級海技士(航海)の免状を受有する船長ほか甲板員6名及び機関員1名を乗り組ませ、A指定海難関係人を機関長兼漁労長として操業を行わせていた。
ところで、B指定海難関係人は、有資格の船長が平成10年7月の休漁期間中から病気で入院し、同年8月12日に岩手県大槌港から辰栄丸を出航させる際、入院が長引いて同船長が退院できず、代わりの船長を手配できなかったので、同船の船長職の経験があるA指定海難関係人に船長職を委ねて辰栄丸を出航させ、その後も有資格の船長を乗り組ませないまま釧路港を基地として操業を行わせていた。
一方、A指定海難関係人は、自分が無資格者であることを知っていたが、辰栄丸で船長職の経験があることから、B指定海難関係人の要請を受入れ、機関長兼漁労長のほか船長職に当たり、同月13日に釧路港に入港したのち、10日間ほど操業を続けていた。
A指定海難関係人は、漁場での操業指揮に引き続き漂泊中も単独で船橋当直を続け、23日06時30分操舵室後部左舷側のGPSや音響測探機を置いている計器台の上で横になり、その後数回立ち上がって周囲を見渡したり、レーダーを一見したりして見張りを行ったが、航行船が来航すれば漂泊中なので航行船が避けてくれるものと思い、08時50分レーダーを一瞥したのち横になったまま休息をとり、見張りを十分に行わなかったので、09時17分135度を向首していたとき、左舷正横前5度820メートルに第二十八宝幸丸(以下「宝幸丸」という。)が、自船に向首して接近するのを認め得る状況であったが、これを認めなかった。
A指定海難関係人は、その後宝幸丸が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近を続けたが、依然休息したまま見張りを厳重に行わなかったのでそのことに気付かず、警告信号を行うことも、機関を始動して前進にかけるなどの衝突を避けるための措置もとらないまま漂泊中、09時20分厚岸灯台から137度30.5海里の地点において、突然衝撃じ、宝幸丸の船首が前方から88度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候はほぼ低潮塒で、衝突地点付近には約0.5ノットの北西に流れる潮流があった。
また、宝幸丸は、さんま棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的をもって、船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水で、平成10年8月22日15時00分北海道花咲港を発し、21時00分納沙布岬南東方沖合27海里ばかりの漁場に至り漂泊して23時00分操業を開始したが、不漁のため厚岸湾南東沖合の漁場に移動することとし、翌23日03時30分納沙布岬灯台から129度23.9海里の地点を発進した。
C受審人は、発進時から単独で船橋当直にあたり、針路を227度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの約0.5ノットの北西流により右方に3度ばかり圧流されながら8.9ノットの対地速力で進行した。
C受審人は、船橋上部に設けた操舵室(以下「上部操舵室」という。)で、左舷側に置いた背もたれのある椅子に腰掛けて見張りにあたり、漁模様について考え込んでいるうち、09時ごろ前日から引き続いた操業指揮と船橋当直による疲れや睡眠不足から眠気を覚えたが、もう少しで漁場に到達するから居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航防止措置を何らとることなく船橋当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
09時17分C受審人は、正船首820メートルのところに漂泊している辰栄丸を認め得る状況となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りに陥ったまま同船を避けずに続航中、同時20分少し前目が覚めて顔を上げると船首至近に同船の集魚灯の笠を認め、あわてて機関を後進にかけたが、効なく、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、辰栄丸は、後部左舷側外板に破口を生じて浸水沈没し、宝幸丸は、左舷球状船首部に破口などの損傷を生じたが、辰栄丸の乗組員は宝幸丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、北海道釧路港南東方沖合において、宝幸丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の辰栄丸を避けなかったことによって発生したが、辰栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
辰栄丸の船舶所有者が、有資格の船長を乗り組ませなかったことは本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
C受審人は、北海道釧路南東方沖合において、単独で航海当直に就いて漁場移動航行中、前日から引き続いた操業指揮と船橋当直による疲れや睡眠不足から眠気を覚えた場合、そのまま航海当直を続けると居眠りに陥いるおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こして2人当直とするなどの居眠り運航防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、もう少しで漁場に到着するので居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航防止措置を何らとらなかった職務上の過失により、辰栄丸との衝突を招き、同船の後部左舷側外板に破口を生じさせて浸水沈没に至らせ、宝幸丸の左舷球状船首部に破口を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判去第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A指定海難関係人が、無資格のまま辰栄丸を操船したばかりか、北海道釧路港南東方沖合において漂泊する際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、勧告しない。
B指定海難関係人が、辰栄丸に釧路港を基地としてさんま棒受網漁業に従事させる際、有資格の船長を乗り組ませなかったため、同船が、十分な見張りを行うことができなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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