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1999年(平成11年)

平成10年横審第42号
    件名
漁船第二海栄丸漁船第3松丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西村敏和、猪俣貞稔、勝又三郎
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:第二海栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第3松丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
海栄丸…船首部に擦過傷
松丸…右舷船首部を大破

    原因
海栄丸…船員の常務(衝突回避措置)不遵守
松丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、両船が互いに同方向に転針して衝突するおそれのある態勢となった際、第二海栄丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、第3松丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月20日05時30分
千葉県銚子漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二海栄丸 漁船第3松丸
総トン数 79トン 9.92トン
全長 35.06メートル
登録長 29.40メートル 13.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 595キロワット
漁船法馬力数 40
3 事実の経過
第二海栄丸(以下「海栄丸」という。)は、可変ピッチプロペラと船首にサイドスラスター(以下「バウスラスター」という。)を装備した、大中型まき網船団付属の鋼製魚群探索船で、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成8年5月19日22時00分僚船3隻とともに千葉県銚子漁港第2漁船だまりを発し、同県九十九里浜沖合の漁場に向かい、犬吠埼沖合から太東埼沖合にかけて南西方向に移動しながらあじ、いわしの探索を行ったが、魚群の発見に至らず、操業を断念して翌20日02時30分太東埼灯台から091度(真方位、以下同じ。)11.6海里の地点を発進し、機関回転数毎分350及び翼角前進17.5度とし、11.8ノットの対地速力で、僚船とともに銚子漁港に向げ帰途に就いた。
ところで、銚子漁港は、利根川の右岸河口に位置し、防波堤と導流堤などによって囲まれ、外海に面した同漁港北側には、東西両防波堤及び一の島防波堤などがあって、その間の開口部が同漁港への主たる出入口(以下「北口」という。)となっており、一の島防波堤南端から上流に向けて右岸沿いに長さ1,720メートルの右岸導流堤が築造され、その河岸側は、可航幅が40ないし80メートルの水路(以下「導流堤水路」という。)で、その中央部にある第1漁船だまり及び同漁港西奥にある第2漁船だまりに出入りする漁船の通航路となっていた。
また、第2漁船だまりは、右岸導流堤の更に上流に築造された長さ1,000メートルの護岸導流堤と河岸とによって囲まれた、奥行き900メートルの東西方向に細長い三角形をした漁船だまりで、比較的水深の深い南側岸壁には、魚市場や砕氷施設などが整備されてまき網船団などが係留し、水深の浅い西奥の岸壁には、小型漁船が係留しており、同漁船だまりからは、導流堤水路を経由して北口から外海に出るか、又は、護岸導流堤東端と右岸導流堤西端との間の可航幅70メートルの開口部(以下「開口部」という。)から利根川を経由して外海に出ることができ、同漁船だまりの北東側にあたる出入口付近での可航幅は、150メートルとなっていた。
05時00分ごろA受審人は、東防波堤の北端を航過して北口に向かい、同時05分銚子港東防波堤川口灯台から244度100メートルの北口に達したところで入港配置を令し、自らは操舵室右舷側にある操舵装置の後方に立って手動操舵に就き、船首部に甲板員2人を配置して前路の見張りと着岸準備作業に当たらせ、適宜の針路で、速力を徐々に減じながら先航する僚船に続いて進行し、同時10分同灯台から197度560メートルの導流堤水路東口に入ったところで、機関回転数毎分250及び翼角前進5度として3.5ノットの対地速力に減じ、導流堤水路の右側をこれに沿って続航した。
05時27分少し前A受審人は、銚子港第2漁船だまり河堤灯台(以下「河堤灯台」という。)から079度170メートルの導流水路西口付近に達し、針路を第2漁船だまりに向かう241度に定めたとき、前方に同漁船だまりから続々と出航する多数の小型底びき網漁船(以下「漁船群」という。)を認めたので、3.0ノットの対地速力に減じ、その動静を監視しながら進行したところ、それらは自船の船首方を右方に横切って開口部から利根川に出ており、いずれも漁船群の方で自船を替わしていくのを見ながら、開口部付近での潮流により左方に圧流されないよう針路保持に努めて続航した。
05時28分半A受審人は、河堤灯台から162度55メートルの地点において、開口部を航過して圧流のおそれがなくなったことから、2.0ノットの対地速力に減じたとき、右舷船首14度350メートルのところに、前路を左方に横切る態勢で漁船群の最後尾を出航中の第3松丸(以下「松丸」という。)を初めて認めたが、自船は減速しているのでそのまま自船と左舷を対するなり、自船の船首方向を無難に替わすなりしていくものと思い、いつものように北側岸壁の手前で右転して同岸壁に寄せ、その後大回りの左転をして着岸予定の南側岸壁に向かうこととした。
こうして、A受審人は、05時29分半河堤灯台から205度90メートルの地点に達したところで、バウスラスターを右にかけて右転を始めたとき、ほぼ同時に正船首110メートルのところの松丸が左転を始め、間もなく自船の船首が北側岸壁線に沿う257度に向いたころ、左転して自船の前路に向いた松丸を認め、両船が同時に同方向に転針したことにより、衝突するおそれが生じたことを知ったが、直ちに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく、自船は減速しており、転舵による避航措置が期待できない状況であったことから、汽笛の押ボタンを押して警告信号を発しようとしたものの、整備不良のため汽笛が吹鳴されず、船首配置の甲板員がタオルを振って松丸に避航を促したものの、同船にその気配がないまま更に接近するに至って、急ぎバウスラスターを右一杯にかけ、翼角0度としたが、及ばず、05時30分河堤灯台から222度105メートルの地点において、海栄丸は、ほとんど行きあしがなくなり、276度を向いたその船首部と松丸の右舷船首部が、前方から48度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮侯は下げ潮の初期であった。
また、松丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾 1.3メートルの喫水をもって、同月20日05時26分第2漁船だまり西奥の定係地を発し、九十九里浜沖の漁場に向かった。
B受審人は、自ら手動操舵で操船に当たり、発航間もなく河堤灯台から258度800メートルの地点において、針路を087度に定め、機関回転数毎分1,200にかけ、6.0ノットの対地速力で、同漁船だまりから出航する漁船群の最後尾に付けて進行し、導流堤水路を経由して北口に向かうことにしていたところ、05時29分少し過ぎ河堤灯台から232度220メートルの地点において、左舷船首20度160メートルのところに、自船の前路を右方に横切る態勢の低速で入航する海栄丸を初めて認めた。
B受審人は、海栄丸より先に南側岸壁に着岸した他のまき網漁船と同様に、同船が間もなく左転して同岸壁に向けるものと思い、先航した漁船群に追尾して、海栄丸の左舷前方の水域を開けるつもりで、同船と右舷を対して通過したのち開口音防ら利根川に出ることにし、05時29分半河堤灯台から225度190メートルの地点において、同船が注舷船首26度110メートルのところに接近したとき、左転を始め、同船と右舷を対して約20メートル隔てて通過できるよう、048度の針路に転じたところ、ほぼ同時に海栄丸が右転を始めたことから衝突するおそれのある態勢となったが、右舷を対して無難に通過できるものと思い、その動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、B受審人は、海栄丸と衝突するおそれのある態勢のまま聞近に接近したが、依然としてこのことに気付かず、行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく続航中、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海栄丸は、船首部に擦過傷を生じ、松丸は、右舷船首部を大破するなどの損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、千葉県銚子漁港第2漁船だまりにおいて、入航中の海栄丸と出航中の松丸が、互いに同方向に転針して衝突するおそれのある態勢となった際、海栄丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、松丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、千葉県銚子漁港第2漁船だまりにおいて、同漁船だまり南側岸壁に向けて入航中、同漁船だまり西奥から出航中の松丸が、自船の右転とほぼ同時に左転し、互いに同方向に転針して衝突するおそれのある態勢で間近に接近したのを認めた場合、直ちに行きあしを止めるなと衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。
しかしながら、同人は、自船は灘しているので無難に替わしていくものと思い、直ちに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、松丸との衝突を避けることができずに進行して衝突を招き、海栄丸の船首部に擦過傷を生じ、松丸の右舷船首部を大破するなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、千葉県銚子漁港第2漁船だまり西奥の定係地から漁場に向け出航中、左舷船首に入航中の海栄丸を認め、同船に進路を譲るつもりで左転した場合、同船と接近することのないよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、海栄丸は間もなく左転し南側岸壁に向けるので、右舷を対して無難に通過できるものと思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、海栄丸が自船の左転とほぼ同時に右転し、互いに同方向に転針して衝突するおそれのある態勢となったことに気付かず、行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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