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1999年(平成11年)

平成9年広審第126号
    件名
貨物船清安丸貨物船ジェイ・グローリー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、釜谷獎一、上野延之
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:清安丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
清安丸…左舷中央部構造物が損傷
ジ号…右舷船尾外板に破口を伴う凹傷及び擦過傷

    原因
清安丸…動静監視不十分、狭い水道の航法(避航動作)不遵守(主因)
ジ号…狭い水道の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、北流時の来島海峡航路水道北口屈曲部付近において、清安丸が、動静監視不十分で、先航するジェイ・グローリーとの船間距離を十分に保つための措置をとらなかったことによって発生したが、ジェイ・グローリーが、衝突を避けるための適切な措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月25日18時35分
来島海峡西水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船清安丸 貨物船ジェイ・グローリー
総トン数 9,237.26トン 4,879トン
全長 146.5メートル 113.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 6,619キロワット 3,353キロワット
3 事実の経過
清安丸は、セメント輸送に従事する中央船橋型ばら積み船で、A受審人ほか19人が乗り組み、セメント12,570トンを積載し、船首7.66メートル船尾7.75メートルの喫水をもって、平成9年2月25日09時05分福岡県苅田港を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、3直4時間の航海士及び甲板員各1人による当直時間体制より瀬戸内海を東行し、17時50分ごろ安芸灘第4号灯浮標の手前1海里付近で来島海峡通航のため昇橋し、当直航海士から、左舷正横200メートルに自船を追い抜く態勢のジェイ・グローリー(以下「ジ号」という。)と船首方900メートルに自船よりわずかに遅い第三船がいる旨の引き継ぎを受けて直ちに操船の指揮を執ることとし、同人を見張りに、甲板員を手動操舵にそれぞれ就かせ、第三船との距離を離すため速力を減じ、航行中の動力船の灯火を表示して来島海峡航路(以下「航路」という。)西口に向かった。
18時12分A受審人は、航路に入り、同時18分半来島海峡航路第4号灯浮標(以下、来島海峡航路灯浮標の名称については「来島海峡航路」を省略する。)を右舷側200メートルに並航したころ、左舷側を追い抜いていったジ号が徐々に速力を減じ、自船がジ号の右舷側を追い抜く態勢となったことを認め、船首方の第三船も1海里以上離れたことから、同時25分小島東灯標から311度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に達したとき、針路を航路に沿う123度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの1.0ノットの逆潮流に抗し、11.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行したところ、まもなくジ号が再び増速を始め、同時28分同船を左舷船首66度300メートルに認めてからは、逆に同船との距離が徐々に離れる状況で続航した。
ところで、北流時の来島海峡を東行し、西水道に入ろうとする船舶は、同水道北口屈曲部付近に近づくと、急に増勢した北流により船首が左方に振られ、西水道への転針が思うようにできず、また、同水道に沿った針路に転針しても保針が難しいなど、舵効きが悪くなる場合があり、同部付近では、他船と十分な船間距離を保つ必要があった。
18時32分A受審人は、小島東灯標から340度800メートルの地点に達したとき、左舷船首31度400メートルとなったジ号が、西水道に向け右転を開始したのを認め得る状況となり、自船がこのままの速力で予定転針地点まで進み右転を開始すると、前示屈曲部で同船との船間距離が狭まり、舵効きの悪さから衝突の危険が生ずるおそれがあったが、同船が航路中央寄りを自船より速い速力で航行し、屈曲部を大回りするから船間距離が急に狭まることはないものと思い、ジ号に対する動静監視を十分に行っていなかったため、同船の転針開始に気付かず、速力を減ずるなどして同船と十分な船間距離を保つための措置をとることなく進行し、同時33分小農東灯標から000度550メートルの地点に至り、右舵15度として右転を開始した。
18時33分少し過ぎA受審人は、まだ原針路を向首しているとき、左舷船首12度350メートルに転針中のジ号を認め、同船が大回りせず、思ったより早めに転針を開始したことに驚くとともに、自船が北流の影響で舵効きが悪くなり、思うように右転しないままジ号に接近していることに気付き、危険を感じたため汽笛による長1声を発して右舵一杯としたものの、依然、回頭速度が遅く、同時34分少し前微速力前進、純いて機関停止としたが及ばず、18時35分清安丸は、小島東灯標から079度460メートルの地点において、190度を向首して8.0ノットの速力となったその左舷中央部が、ジ号の右舷船尾に後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、衝突地点付近には2.6ノットの北流があった。
また、ジ号は、定期船として大韓民国釜山港と神戸港とを週に一度往復する船尾船橋型貨物船で、船長Bほか23人が乗り組み、コンテナ132個を積載し、船首3.9メートル船尾5.8メートルの喫水をもって、同月24日20時00釜山港を発し、神戸港に向かった。
B船長は、翌25日08時ごろ関門海峡を通過したのち、3直4時間の航海士及び甲板員各1人による当直時間体制により瀬戸内海を東行し、17時30分ごろ安芸灘南航路第3号灯浮標の手前で来島海峡通過のため昇橋し、同時35分ごろ当直中の一等航海士から引き継いで操船の指揮を執ることとし、同人を見張りに、甲板員を手動操舵にそれぞれ就かせ、他の甲板員1人を見張り員として昇橋させ、航行中の動力船の灯火を表示して航路西口に向かった。
17時50分ごろB船長は、清安丸を石舷側に追い抜き、18時00分ごろ来島海峡通航のため機関を港内全速力に減じ、同時10分航路西口に入航してからは前方の第三船との距離を保つため機関を種々用いて速力を減じ、同時17分第4号灯浮標を右舷側500メートばかりに並航したころにはいったん追い抜いた清安丸との距離が接近する状況の下、航路南側鏡界線から400ないし500メートル北側を航路に沿って航行を続けた。
18時26分ごろB船長は、第三船との距離が十分に離れたことから機関を港内全速力前進にかけて徐々に速力を上げ、同時28分小島東灯標から324度1.1海里の地点に達したとき、針路をほぼ航路に沿う125度に定め、折からの1.0ノットの逆潮流に抗して13.3ノットの速力で進行した。
18時32分B船長は、小島東灯標から010度740メートルの地点に至り、西水道に向ける予定転針点に達したとき、清安丸を右舷船尾33度400メートルに認め、自船が予定どおり転針を開始し、清安丸がそのまま進行すると同船との船間距離が狭まり、この付近から増勢する北流の影響による舵効きの悪さから両船が接近して衝突の危険が生ずるおそれがあったが、清安丸もまもなく右転を開始して航路屈曲部内側に沿って転針するから船間距離が狭まることはないものと思い、転針時期を遅らせ、大回りして西水道に入るなど衝突を避けるための適切な措置をとらないまま、右舵5度として西水道への右転を開始した。
18時33分B船長は、清安丸との距離が気になって右舷後方を振り向いたところ、同船の船首が自船の船首に向首しているように見え、右転している様子が認められず、驚いて機関を微速力前進としたが、衝突の危険を感じ、短5声の注意喚起信号を吹鳴して左舵一杯とするとともに、極微速前進、続いて機関停止とし、舵効を増すためいったん機関を半速力前進にかけるなどしたが及ばず、ジ号は、160度を向首し、4.0ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、清安丸は、左舷中央部構造物が損傷し、ジ号は、右舷船尾外板に破口を伴う凹傷及び擦過傷を生じたがのち両船とも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、北流時の来島海峡において、東行する両船が相前後して西水道地口屈曲部付近に差し掛かった際、航路南側境界線に沿って後続する清安丸が、動静監視不十分で、同中央寄りを先航するジ号との船間距離を十分に保つための措置をとらず、同屈曲部において同船に著しく接近したことによって発生したが、ジ号が衝突を避けるための適切な措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、北流時の来島海峡を東行中、西水道北口屈曲部付近に差し掛かった際、自船より速い速力で航路中央寄りを先航するジ号を認めた場合、同船との船間距離を十分に保てるかどうか判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ジ号が屈曲部を大回りするから船間距離が急に狭まることはあるまいと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船の早めの転針開始に気付かず、減速するなどして同船との船間距離を十分に保つための措置をとらなかったので、ジ号に接近して同船との衝突を招き、自船の左舷中央部構造物に損傷を、ジ号の右舷船尾外板に破口を伴う凹傷及び擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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