日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年長審第23号
    件名
漁船漁福丸ケーソン衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:漁福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部に破口を生じで浸水、船長と甲板員が頭部打撲傷等

    原因
見張り不十分

    主文
本件ケーソン衝突は、見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月9日22時10分
鹿児島県阿久根漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船漁福丸
総トン数 9.7トン
登録長 13,29メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
漁福丸は、船体中央部に操舵室を備えた一層甲板型のFRP製漁船で、A受審人と同人の息子の甲板員のほか2人が乗り組み、氷積込みの目的で、船首0,30メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、平成9年2月9日22時05分鹿児島県阿久根港内の阿久根漁港倉津地区を発し、同地区北東方1,100メートルばかりの同漁港本港地区に向かった。
これより先、指定海難関係人R社(以下「R社」という。)は、阿久根漁港修築工事に伴って阿久根港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)の北西方100メートルばかりのところに設置することとなった、戸柱沖防波堤の築造工事を鹿児島県知事から受注し、工期は平成8年12月2日から翌9年3月14日までの間、工事作業時間は日出から日没までの間、工事中は作業区域内を標示するため赤旗と点滅式灯浮標を設置すること等と定め、工事に着手する前に阿久根市漁業協同組合の同意を得るとともに、串木野海上保安部の許可を得て、同組合からは当該地区の有線放送により、同海上保安部からは十管区水路通報第50号として工事の内容を周知してもらい、平成8年12月2日から工事に着手した。
R社は、予定どおり同年12月2日からケーソンの製作にかかり、同月10日作業区域に赤旗を設置するとともに、日出から日没までの間付近海域に警戒船を配置して基礎工事を開始し、翌9年1月17日同区域に赤旗に加えて点滅式灯浮標を設け、翌2月8日西防波堤灯台から293度(真方位、以下同じ。)87メートルの地点を基点とし、これから015度方向へ30メートルにわたり、長さ15メートル幅13.1メートル高さ92メートルのケーソンを2基据え付けたのち、赤旗及び点滅式灯浮標が付近海域で網を使用して操業をする漁船の障害となるので、これらを撤去し、ケーソン上の南北両端中央部に、高さ85センチメートル光達距離1.2キロメートルで太陽電池を電源とした3秒に1閃のコマライトKL-IBと称する点滅式黄色簡易標識灯をそれぞれ1箇設置していた。
ところで、A受審人は、阿久根漁港倉津地区を基地として平成8年9月から同年12月末までえび底引き網漁業に従事し、同漁港本港地区で水揚げを行っていたことから、作業区域に設置された旗竿を認めていたものの、これが何を意味するものかよく分からないまま、翌9年1月から同年3月末まではいわし棒受げ網漁を行うつもりでいたところ、海上がしけ模様で同年2月8日まで出漁できず、約40日ぶりに前示のとおり出航した。
発航後、A受審人は、1人で操舵操船に当たり、22時07分西防波堤灯台から231度810メートルの地点で、ケーソンが据え付けられていたことを知らないまま、針路をこれに向首する045度に定め、機関を半速力前進にかげて8,2ノットの速力とし、船首部で甲板員2人を入港準備作業に、前部甲板で伸治甲板員を氷積みの準備作業にそれぞ就かせ、自ら操舵室中央に備えた舵輪の後方に立ち、左手で舵輪を握り、前方を確認するつもりで右手で探照灯を操作して前方を照らしながら手動操舵で進行した。
22時08分半A受審人は、西防波堤灯台から238.5度430メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首380メートルのところに、ケーソン上の点滅式黄色簡易標識灯2箇の灯火を視認し得る状況となったが、右舷前方の西防波堤灯台の灯火に気をとられ、前路の見張りを十分に行うことなく、同標識灯の灯火に気付かずに続航中、22時10分西防波堤灯台から294度100メートルの地点において、原針路、原逮力のまま、漁福丸の船首がケーソンの西側面に南方から30度の角度で衝突した。
当時、天侯は晴で風力2の東南東風が吹き、潮侯はほぼ高潮時で、ケーソンの水面上の高さは約1.9メートルであった。
衝突の結果、ケーソンに損傷はなかったが、漁福丸は、船首部に破口を生じて浸水し、のち修理された。また、衝突の衝撃でA受審人とC甲板員が頭部打撲傷等を負った。

(原因)
本件ケーソン衝突は、夜間、鹿児島県阿久根漁港倉津地区から同漁港本港地区に向けて航行する際、見張り不十分で、防波堤築造のため据え付けられたケーソンに向首進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、単独で操舵操船に当たり、鹿児島県阿久根漁港倉津地区から同漁港本港地区に向けて航行する場合、西防波堤灯台北西方沖合の防波堤築造のため据え付けられたケーソン上の点滅式黄色簡易標識灯の灯火を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷前方の同灯台の灯火に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同標識灯の灯火に気付かないまま進行してケーソンとの衝突を招き、船首部に破口を生じて浸水させ、自らと乗組員1人に頭部打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
R社の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION