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1999年(平成11年)

平成10年広審第120号
    件名
旅客船さんふらわあこがね押船神佑丸被押バージ神佑号衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:さんふらわあこがね一等航海士 海技免状:一級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
さ号…左舷側前部に擦過傷
神佑丸押船列・神佑号の右舷船首部に損傷

    原因
神佑丸押船列・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
さ号…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、神佑丸被押バージ神佑号が、見張り不十分で、前路を左方に横切るさんふらわあこがねの進路を避けなかったことによって発生したが、さんふらわあこがねが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月6日02時21分
瀬戸内海備後灘東部
2 船舶の要目
船種船名 旅客船さんふらわあこがね
総トン数 9,684トン
全長 150.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 18,535キロワット
船種船名 押船神佑丸 バージ神佑号
総トン数 100トン 1,266トン
全長 23.95メートル 64.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット
3 事実の経過
さんふらわあこがね(以下「さ号」という。)は、2基の主機と2舵2軸の可変ピッチプロペラを装備した大阪、別府間の定期航路に就航する旅客船兼自動車航送船で、船長C、A受審人ほか42人が乗り組み、大阪、神戸両港で旅客271人、車両61台を積載し、船首4.65メートル船尾4.85メートルの喫水をもって、平成10年1月5日21時35分神戸港を発し、航海中の動力船の灯火を表示して松山港経由別府港に向かった。
C船長は、船橋当直を航海士3人による輪番制とし、各直に甲板手2人を配し、自らは出入港操船のほか、備讃瀬戸、来島海峡等の狭水道、視界制限状態における操船指揮を執り行い、他の海域については、各航海士が瀬戸内海の通航に十分慣れていたこともあって、航行に支障の出ることがあれば船長に報告することとして各当直者に任せていた。
A受審人は、翌6日01時備讃瀬戸東航路中央第3号灯浮標付近で前直の二等航海士と交代して当直に就き、当時在橋中であったC船長の指揮により、備讃瀬戸東航路、同北航路を西行し、02時09分二面島灯台から351度(真方位、以下同じ。)1,500メートルの地点において航路を出たとき、C船長から操船指揮を引き継ぎ、針路を海図記載の備後灘推薦航路線に沿う250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、速力をプロペラピッチ29度の19.0ノットとして同推薦航路線に沿って進行し、C船長は自室に戻り休息した。
A受審人は、甲板手2人のうち1人を操舵スタンドに付け、もう1人を操舵室左舷側で見張りに当たらせ、自らは同室中央部船橋前面ガラスのすぐ近くに立ち、右舷船首方を前後して航行する速力の遅い2隻の同航船及び備後灘推薦航路に沿って来航する多数の反航船群の灯火を見ながら続航したところ、02時18分六島灯台から095度1.6海里の地点に至ったとき、左舷船首7度1.2海里に前路を右方に横切る神佑丸被押バージ神佑号(以下「神佑丸押船列という。)の白、白、緑、緑4灯を初めて認め、念のため手動操舵に切り替え、探照灯を1回照射したがいちべつしただけで同押船列は速力が遅いのでその前方を航過できるものと思い、動静監視を十分行うことなく、その後方位がほとんど変わらず衝突のおそれのある態勢で互いに接近する状況となったことに気付かず、警告信号を行わないで進行した。
02時19分半A受審人は、神佑丸押船列の灯火をほぼ同方位1,100メートルに認め、再度探照灯を数回照射して注意を促したものの、依然、右転するなと衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し、同時20分半左舷船首350メートルとなった神佑丸押船列に対し探照灯を照射したとき、その船体が前回照射したときより大分左方を向いているように見えたことから初めて衝突の危険を感じ、右舵一杯を取ろうとしたところ、同航船の船尾が右舷正横200メートルとなっていたことから右舵20度しか取れず、衝突わずか前左舵一杯、プロペラピッチ0度としたが及ばず、02時21分さ号は、六島125度1,500メートルの地点において、ほぼ原速力のまま、270度を向首したその左舷側船首部に神佑号の船首が直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力6の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、衝突地点付近には微弱な北東流及び高さ約2メートルの風浪があった。
C船長は、衝撃により衝突に気付き、事後の措置に当たった。
また、神佑丸は、2基の主機と2舵2軸を装備した鋼製押船で、船長D、B指定海難関係人ほか2人が乗り組み、山土1,400立方メートルを積載して船首2.0メートル船尾2.0メートルの喫水となった鋼製バージ神佑号の船尾凹部に船首部を嵌合し、ワイヤロープ2本及び化繊のホーサー2本により固定して全長約84メートルの押船列を形成し、船首1.8メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、同月5日21時40分愛媛県波方港を発し、航行中の押船列の灯火を表示して岡山県玉島港に向かった。
D船長は、平素、波方港から玉島港に至る航路では、船橋当直をB指定海難関係人と2人による単独交代制とし、自らは出港から高井神島付近まで当直に就いてその後B指定海難関係人に当直を行わせて休息し、六島付近の転針手前で再び当直に就き、備後灘推薦航路線を横切って玉島港に至るまでを担当することとしていた。
D船長は、いつものとおり、出港操船に引き続き当直に就き、翌6日00時10分ごろ高井神島灯台の北方でB指定海難関係人に当直を引き継いだが、その際、漁船に注意すること、不安があったら起こすこと、六島の転針点少し手前で起こすことなどを指示し、操舵室後部の長椅子で休息した。
当直に就いたB指定海難関係人は、備後灘推薦航路線の右側500メートルばかりをこれに沿って東行し、02時06分六島灯台から192度1.6海里の地点に達したとき、まもなく同灯台と並航する予定転針点に近づいたことを知ったが、D船長がよく寝ていたため起こすのを躊躇(ためら)い、同人の指示事項を遵守せず、このまま当直を続け、自ら転針して同推薦航路線を横切ることとし、少し早めではあったが、針路を左方に転じて044度に定め、機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で手動操舵として進行した。
B指定海難関係人は、操舵スタンド後方に立って02時13分に推薦航路線を北に横切り、同時18分六島灯台から144度1,550メートルの地点に達したとき、右舷船首20度1.2海里に、前路を左方に横切るさ号の白、白、紅3灯を視認でき、その後方位がほとんど変わらず衝突のおそれのある態勢で互いに援近する状況となったがそのころ船首方を左方に横切る西行船2隻を気にして右舷方の見張りを十分に行っていなかったので、さ号に気付かず、D船長への報告ができなかったことから、神佑丸押船列はさ号の進路を避けないまま続航した。
02時20分B指定海難関係人は、ほぼ同方位700メートルに接近したさ号の灯火及び船体を初めて認めて驚き、左舷灯に加えて右舷灯も見たような気がして直ちに左舵一杯とし、そのころ物音で目を覚ましたD船長もさ号に気付き、機関を全速力後進としたが及ばず、神佑丸押船列は、000度を向首したとき、2.0ノットの対地速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、さ号は、左舷側前部に擦過傷を、神佑丸押船列は、神佑号の右舷船首部に損傷をそれぞれ生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、備後灘東部において、神佑丸押船列が見張り不十分で、前路を左方に横切るさ号の進路を避けなかったことによって発生したがさ号が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
神祐丸押船列の運航が適切でなかったのは、無資格の当直者が船長の指示事項を遵守せず、指示された地点で船長を起こさなかったため、船舶が輻輳する海域において船長が操船できなかったことと、同当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、備後灘東部を航行中、前路を右方に横切る態勢で接近する神佑丸押船列の灯火を認めた場合、同押船列との衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで、同押船列は速力が遅いのでその前方を航過することができるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行うことも、更に接近して衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航して神佑丸が押す神佑号との衝突を招き、自船の左舷船首部に亀裂を、同号の右舷船首部に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、備後灘東部を航行する際、船長の指示事項を遵守しなかったばかりか、見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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