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1999年(平成11年)

平成10年広審第93号
    件名
旅客船隆星漁船仁良丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、黒岩貢、織戸孝治
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:隆星船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:仁良丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
隆星…右舷船首部水中翼に擦過傷
仁良丸…右舷前部外板に亀裂、舵板に欠損及び推進軸引上げ悼に曲損

    原因
隆星…法定形象物不表示、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
仁良丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、隆星が、漁労に従事している船舶の形象物を表示しないまま投網中の仁良丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、仁良丸が見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aに対しては懲戒を免除する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月7日15時35分
広島県尾道糸崎港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船隆星 漁船仁良丸
総トン数 56.75トン 3.56トン
全長 20.75メートル 9.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 809キロワット 25キロワット
3 事実の経過
隆星は、松山と尾道糸崎両港間の定期航路に就航する、船首部に前翼船尾部に後翼の水中翼を有し、高速力になると海面を浮上して翼走する旅客定員69人の軽合金製旅客船で、A受審人ほか3人が乗り組み、旅客10人を乗せ、船首2.76メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、平成10年6月7日15時30分尾道糸崎港の尾道駅前の桟橋を発し、松山港に向かった。
ところで、尾道糸崎港は、尾道水道及び三原湾を含む東西方向に細長い港で、第1から第6までの港区にわかれ、第1から第3までの航路が設けられており、第5区の第3航路出入口付近に当たる航路(以下「西部航路」という。)は、尾道水道の西側に存在し、三原市陸岸と岩子島及び大鯨島に挟まれる最狭可航幅約300メートルの海域の中央に幅約100メートルの航路として形成されていたが、同航路には、浮標等の設置はなく、その右側を航行することの判断が容易ではない状態であり、また、この水域は広島県の漁業許可を受けて航路内で刺し網を敷設する漁船が操業しているが、刺し網は潮流に沿って敷設されるので航路に沿うことになり、特に船舶交通の妨げとはなっていなかった。
隆星の運航については、R株式会社が作成した運航基準で水中翼船の運航を尾道糸崎港第3区で微速とし、同第4区で減速するよう定めて同第5区では特に定めていなかったが、各港桟橋付近及び狭水道で適宜減速するよう定めていた。
A受審人は、定期航路水中翼船の船長経験も長く、尾道糸崎港で1本釣り及び刺し網漁の漁船多数が操業することを知っており、水中翼船が高速翼走している際には、双眼鏡の使用が難しく、漁船などを遠方から認めても近距離に接近するまで状況が把握できないことから、前方に漁船などを認めたときは、速やかに減速するなどの措置を要する状況であった。
A受審人は、出航後機関長を右舷側の座席に配し、機関操作と見張りを行わせ、自らは中央の座席で操舵操船に当たりながら翼走を始めて西部航路を西行し、15時33分尾道糸崎港吉和西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から156度(真方位、以下同じ。)130メートルの地点に達したとき、左舷船首方約2,000メートルのところに仁良丸を初めて認めたが、そのまま翼走を続け、同時33分半西防波堤灯台から238度450メートルの地点で、針路を254度に定め、機関を回転数毎分1,200の半速力前進にかけ、31.1ノットの対地速力で翼走した。
15時34分A受審人は、西防波堤灯台から246度940メートルの地点に達し、針路を250度転じたとき、漁労に従事している船舶の形象物(以下「法定形象物」という。)を表示しないまま投網中の仁良丸と衝突のおそれがある態勢でほぼ正船首1,020メートルに接近したものの、極めて遅い速力で航行している様子などから同船が何らかの理由でもって作業中で、通常の航行中の動力船とは異なり、操縦性能が制限された状態の船舶であると認め得る状況であったが、これらの状況に留意せず、更に接近してから避航すれば大丈夫と思い、速やかに減速するなど衝突を避けるための措置をとらないまま翼走を続けた。
15時35分少し前西防波堤灯台から248度1,640メートルの地点に達し、仁良丸と260メートルに接近したとき、同船を避航するため左舵とし、そのわずか後、正船首少し左方150メートルの海面上に直径約30センチメートルの発泡スチロール製の浮標を認め、右舵15度にしたが直ちに舵効が得られず、更に船首至近に迫った仁良丸を認め、左舵15度、機関停止及び全速力後進としたが及ばず、15時35分西防波堤灯台から248度1,900メートルの地点において、隆星は270度に向いたとき、ほとんど残速力のない状態で、その右舷船首部の水中翼が仁良丸の右舷前部に前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、衝突地点付近には微弱な西流があった。
また、仁良丸は、専ら尾道糸崎港を操業区域とし、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.24メートルの等喫水をもって、同日06時00分尾道市尾崎本町の係留地を発し、同港第6区の漁場に向かった。
B受審人は、漁場に至って操業を始め、昼過ぎに尾道糸崎港第5区の大鯨島東方沖合に移動したのち投錨して休息し、15時30分抜錨して法定形象物を表示しないまま操業を開始した。
15時33分B受審人は、西防波堤灯台から248度2,020メートルの地点で、針路を070度に定め、機関を微速力前進にかけ、2.0ノットの対地速力で、船体中央部右舷側で約4メートルの舵柄を持って操舵しながら投網を始めて進行した。
15時34分B受審人は、西防波堤灯台から248度1,960メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首1,020メートルのところに翼走中の隆星が存在し、その後衝突のおそれがある態勢で向首接近するのを認め得る状況であったが、自船が投網中で速力も極めて遅く、大きく衝突回避の動作がとれない状態で、十分余裕のある時期に衝突を避けるための措置をとらなければならないこと、かつ、法定形象物を表示していないので遠方の他船が自船を漁労に従事しているとば認めない可能性があることを留意せず、投網に気を奪われ、前方の見張りを十分に行うことなく、これに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま投網を続けて続航中、同時35分わずか前正船首少し右至近に迫った隆星を初めて認あ、どうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、隆星の右舷船首部水中翼に擦過傷を生じ、仁良丸の右舷前部外板に亀裂、舵板に欠損及び推進軸引上げ棹に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、尾道糸崎港において、隆星が、法定形象物を表示しないまま投網中の仁良丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、仁良丸が見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、尾道糸崎港において、刺し網漁に従事する場合、隆星を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、投網に気を奪われ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、隆星に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま投網を続けて同船との衝突を招き、同船の右舷船首部水中翼に擦過傷並びに仁良丸の右舷前部外板に亀裂、舵坂に欠損及び推進軸引上げ棹に曲損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。A受審人は、尾道糸崎港を翼走中、前方に極めて遅い速力で航行中の仁良丸を認めた場合、同船が何らかの理由でもって作業中で、通常の航行中の動力船とは異なり、操縦性能が制限された状態の船舶であると認め得る状況であったことから同船との衝突を避けるよう、速やかに減速するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、更に接近してから避航すれば大丈夫と思い、速力を減ずるなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、仁良丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が多年にわたり船員として職務に精励し海運の発展に寄与した功績により、平成9年7月20日運輸大臣に表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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