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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月21日03時32分 長崎県対馬南東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第一あけぼの丸
漁船俊漁丸 総トン数 75トン 19.33トン 全長 34.15メートル 登録長
16.15メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 617キロワット 漁船法馬力数 120 3 事実の経過 第一あけぼの丸(以下「あけぼの丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成10年1月17日17時00分僚船とともに山口県下関漁港を発し、対馬豆酘(つつ)埼南西方19海里沖合の漁場に向かった。 A受審人は、翌18日03時ごろ同漁場に到着して操業を行ったが漁獲量が思わしくなかったので操業を打ち切り、沖ノ島北方7海里沖合の漁場に移動することにし、同月21日01時40分神埼灯台から215度(真方位、以下同じ。)18.6海里の地点において、針路を060度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、法定の灯火を掲げて進行した。 ところで、あけぼの丸は、僚船と対になって2艘曳きで操業を行い、1隻が投網してから2隻で2時間ばかり曳網したのち、1隻が揚網して漁獲物の整理を行い、その間に他の1隻が投網し、これらの漁労作業を繰り返し行っており、投網から揚網まで約3時間かかり、1日に8回の操業が行われていた。 A受審人は、航海中の船橋当直を自らとB指定海難関係人ほか2人の甲板員の計4人による、単独2時間交替の輪番制とし、操業中の昼間については、専ら船橋にいて単独で操船に当たり、夜間は休息していた。また、B指定海難関係人とほかの甲板員は、昼間は漁労作業のみ行っていたが、夜間は同作業のほか、同受審人に代わり、交替で単独の船橋当直にも就いて操船に従事していたことから、休息が断続的になり疲労気味であった。 A受審人は、漁場を発進後も引き続き船橋当直に就き、02時40分神埼灯台から187度9.7海里の地点に達したとき、B指定海難関係人に当直を委ねることとしたが、引き継ぐにあたり、同指定海難関係人が操業期間中に休息を十分にとれなかったことから眠気を催すおそれがあったものの、まさか眠り込んでしまうようなことはあるまいと思い、同指定海難関係人に対し、眠気を催した際には眠気を払拭するように努め、それでも眠気がとれないときには報告するよう居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うことなく、針路等を伝えて船橋後部の自室で休息した。 B指定海難関係人は、漁労作業のあと、そのまま引き続いて航海当直に就き、操舵スタンドにもたれた姿勢で見張りに当たっていたところ、休息が十分とれなかったことから、03時過ぎから眠気を催すようになったが、外気にあたるなどして眠気を払拭することもA受審人に報告することもなく、当直を続けているうち、いつしか立ったまま居眠りに陥った。 こうして、B指定海難関係人は、03時26分正船首方1.1海里のところに漂泊している俊漁丸の集魚灯の灯火を視認することができ、同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況にあったが、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、A受審人に報告できず、同船を避ける措置がとられないまま続航し、同時31分半わずか過ぎふと目を覚ましたとき、ほぼ正船首至近に俊漁丸の灯火を視認し、衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて左舵30度をとったが及ばず、03時32分神埼灯台から125度8.5海里の地点において、あけぼの丸は、船首が350度を向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部が俊漁丸の左舷船首部に後方から35度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。 B指定海難関係人は、衝突後、機関を停止して俊漁丸の様子を見たところ、異常がないようなので航行を再開したものの、08時船体の右舷側を点検したとき、ハンドレールに損傷を認めてA受審人に衝突の報告を行った。 就寝していたA受審人は、B指定海難関係人から報告を受け、直ちに海上保安部に連絡するとともに事後の措置に当たった。 また、俊漁丸は、いか一本つり漁業に従事する木造漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同月20日16時00分長崎県厳原港を発し、神埼南東方9海里沖合の漁場に向かった。 C受審人は、17時30分同漁場に着き、機関を中立回転とし、パラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を投入してそのロープを50メートル延出して船首のたつにとり、56個の集魚灯を点灯したものの法定の灯火を表示しないまま、漂泊していかつり漁を開始し、翌21日03時25分操業を終え、船首部と船尾部併せて8個の集魚灯を点灯したまま他は消灯し、いかつり用具の格納作業を始めた。 03時26分C受審人は、前示衝突地点で船首が風に立ち315度に向いていたとき、左舷船首75度1.1海里のところにあけぼの丸のマスト灯及び両舷灯を視認でき、その後同船が自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、集魚灯を点灯して漂泊しているから、航行する船舶が自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、シーアンカーのロープを放って機関を使用するなどの衝突を避けるための措置もとらないまま、格納作業に専念しているうち、俊漁丸は、船首が315度に向いたまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、あけぼの丸は、右舷船首部ハンドレールに凹損を生じ、俊漁丸は、シーアンカーを流失し、左舷船首部外板を破損したが、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県対馬南東方沖合において、漁場に向け東行中のあけぼの丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の俊漁丸を避けなかったことによって発生したが、漂泊中の俊漁丸が、法定の灯火を表示しなかったばかりか、周囲の見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 あけぼの丸の運航が適切でなかったのは、船長が当直者に対して居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかったことと、当直者が居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、長崎県対馬南東方沖合を漁場に向け東行中、当直者に単独の船橋当直を委ねる場合、操業期間中に十分な休息がとれなかったのであるから、居眠り運航とならないよう、当直者に対し、眠気を催した際は眠気を払拭するように努め、それでも眠気がとれないときには報告するなど居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか眠り込んでしまうようなことはあるまいと思い、当直者に対し、居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、当直者が居眠りに陥って報告を得られず、居眠り運航となって漂泊中の俊漁丸を避けることができないまま進行して衝突を招き、あけぼの丸の右舷船首部ハンドレールに凹損を生じさせ、俊漁丸のシーアンカーの流失及び左舷船首部外板に破損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、夜間、長崎県対馬南東方沖合で漂泊中、操業を終えてからいかつり用具の格納作業を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、集魚灯を、点灯して漂泊しているから、航行する船舶が自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近するあけぼの丸に気付かず、警告信号を行うことも機関を使用するなど衝突を避けるための措置もとらないまま、格納作業に専念していて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就いて、長崎県対馬南東方沖合を漁場に向け東行中、眠気を催した際、居眠り運航の防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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