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1999年(平成11年)

平成10年長審第44号
    件名
漁船第10金清丸漁船藤丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:第10金清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:藤丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
金清丸…操舵室側壁を破損、船長が鎖骨骨折など
藤丸…左舷外板に擦過傷

    原因
藤丸…見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

    主文
本件衝突は、藤丸が、見張り不十分で、無難に替わる態勢の第10金清丸の前路に進出したことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月16日04時30分
佐世保港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第10金清丸 漁船藤丸
総トン数 5.39トン 4.85トン
登録長 10.65メートル 10.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 90
3 事実の経過
第10金清丸(以下「金清丸」という。)は、定置網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、長崎県佐世保港内の魚市場で漁獲物を水揚げしたのち、船首0.20メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成8年10月16日04時05分同市場を発し、佐世保市針尾西町川畑に向けて帰途に就いた。
04時25分少し前A受審人は、佐世保港弁天島灯台(以下「弁天島灯台」という。)から179度(真方位、以下同じ。)1,220メートルの地点において、針路を153度に定め、機関の回転数を半速力前進より少し上げて6.0ノットの対地速力とし、法定灯火を点灯して手動操舵で進行した。
04時28分A受審人は、弁天灯台から170.5度1,800メートルの地点に達したとき、左舷船尾19度740メートルのところに、藤丸の白、紅、緑3灯を視認し、同船の動静を監視していたところ、同時29分少し過ぎ同船が高速力で正船尾270メートルばかりのところを自船の右舷方へ航過するのを認め、いずれに向かう船かと思って見守っているうち、同時30分少し前同船が自船の右舷側を200メートルばかり隔てて無難に航過する状況となったとき、突然左舵をとって自船の前路に向首する態勢となったのを認めた。
金清丸は、藤丸に対してA受審人が作業灯を点灯し、左右に振って合図をしたので、自船の存在が分かったものと思って続航中、04時30分弁天島灯台から167.5度2,140メートルの地点において、原針路、原速力のままの自船の右舷船尾部に、藤丸の左舷船首部が後方から33度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
また、藤丸は、底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、佐世保港鯨瀬ふ頭で友人に釣り餌(えさ)を届けたのち、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日04時22分同ふ頭を発し、佐世保市東浜町の係留地に向けて帰途についた。
04時28分B受審人は、弁天島灯台から169度1,060メートルの地点に達したとき、針路を佐世保市崎辺町西か沖合の海底磁気測定器設置区域南西端付近に設けられた灯浮標の西側に向く175度に定め、機関を全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力とし、法定灯火を点灯して手動操舵で進行した。
定針したころB受審人は、左舷船首3度740メートルのところに金清丸の白灯1個を視認することができ、その後、同船の右舷側を無難に替わる態勢で航過する状況となったが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、先航する金清丸の白灯を認めなかった。
04時30分少し前B受審人は、弁天島灯台から172度2,000メートルの地点に達したとき、海底磁気測定器設置区域南西端付近に設けられた灯浮標に並んだので、針路を左方に転じることにしたが、同灯浮標に気をとられ、転舵方向に対する見張りを十分に行うことなく針路を120度に転じ、左舷船首55度200メートルのところに存在する金清丸の灯火に気付かないまま進行した。
藤丸は、B受審人が120度の針路で続航中、前路至近に黒い船影を認め、機関停止、右舵をとったが、及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金清丸は、操舵室側壁を破損したが、のち修理され、藤丸は、左舷外板に擦過傷を生じた。また、A受審人は、鎖骨骨折などの負傷をした。

(原因)
本件衝突は、夜間、長崎県佐世保港内において、藤丸が、転針方向に対する見張り不十分で、無難に替わる態勢の金清丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、長崎県佐世保港内において同県佐世保市東浜町の係留地に向けて転針する場合、他船の前路に進出することのないよう、転針方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は転針地点の灯浮標に気をとられ、転針方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷前方至近を航行する金清丸に気付かないまま同船の前路に進出して衝突を招き、自船の左舷外板に擦過傷を、金清丸の操舵室側壁に破損を生じさせ、A受審人に鎖骨骨折などの負傷を被らせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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