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1999年(平成11年)

平成10年函審第68号
    件名
漁船第六十三恵運丸漁船第十八海鳳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第六十三恵運丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第十八海鳳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
恵運丸…損傷なし
海鳳丸…左舷中央部外板に亀裂及び左舷ブルワークに損傷

    原因
恵運丸…居眠り運航防止措置不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
海鳳丸…見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十八海鳳丸を追い越す第六十三恵運丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、第十八海鳳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第十八海鳳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月31日23時00分
津軽海峡東口
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十三恵運丸 漁船第十八海鳳丸
総トン数 19トン 10トン
登録長 19.40メートル 14.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 120
3 事実の経過
第六十三恵運丸(以下「恵運丸」という。)は、小型いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成9年8月31日05時00分青森県大畑港を発し、北海道苫小牧港沖合の漁場に向かった。
A受審人は、漁場に至って水深120メートルばかりのところで魚群探索を行いながら移動して操業を行い、いか約3トンを漁獲して操業を終え、18時20分苫小牧港出光興産シーバース灯(以下「シーバース灯」という。)から172度(真方位、以下同じ。)12.6海里の地点の漁場を発進し、航行中の動力船が掲げる所定の灯火を表示して帰航の途に就いた。
A受審人は、漁場発進と同時にGPSプロッターに大畑港を目的地として入力し、その方位を求めて針路を201度に定め、機関を全速力前進にかけて10.3ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
ところで、恵運丸ではGPSプロッターと自動操舵装置とが連動しており、同プロッターに目的地を入力すると目的地までの予定針路線が画面上に表示され、同船の船位が同針路線上から一定量外れるとその情報を自動操舵装置に送り、同装置が自動的に転舵して同針路線上を航行するようになっていた。
19時00分A受審人は、自ら単独で出港時から漁場までの船橋当直及び漁場での操船に当たり、漁場発進時から引き続いて船橋当直に従事していたことから疲れを覚え、大畑港近くになるまで休息をとることとし、その間甲板員を2時間交代で船橋当直に当たらせることとしてD甲板員を最初の船橋当直に就けたが同甲板員に対し、漁場に向かう航海の際甲板員に休息をとらせているので居眠りに陥ることはあるまいと思い、船橋当直中に眠気を覚えたら自分に報告するなどの居眠り運航を防止するための措置をとることを次直のB指定海難関係人に引き継ぐよう指示しないでD甲板員に船橋当直を任せ、操舵室後方にある寝台で仮眠をとった。
21時00分B指定海難関係人は、恵山岬灯台から053度15.8海里の地点で、D甲板員に起こされ、同甲板員と船橋当直を交代し、前方の船はいか釣り漁船で大畑港に向かっている旨の引継ぎを受け、前方を見たところ、右舷船首22度1,500メートルのところに船尾灯を見せだ漁船第十八海鳳丸(以下「海鳳丸」という。)及び左右舷方ともに1海里以上離れたところに数隻のいか釣り漁船が同様に大畑港に向け航行しているのを認めた。同指定海難関係人は、その後、操舵室内を移動しながら見張りを続けていたところ、同時30分ごろ昼間の操業の疲れから眠気を覚えたが、そのことをA受審人に報告するなどの居眠り運航を防止する措置をとらないで、左舷側に置いていた椅子に腰掛け、そのまま見張りを続けているうちいっしか居眠りに陥った。
22時35分半恵運丸は、恵山岬灯台から115度9.0海里の地点に達し、海鳳丸を右舷船首66度750メートルに見るようになったとき、折からの東流で予定針路線上より左方に圧流されていたことから、同針路線上に復帰するため自動操舵装置が働いて9度右転して針路が210度となったことで、同船を追い越す態勢となり、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、B指定海難関係人が依然居眠りに陥っていてそれに気付かず、そのことがA受審人に報告されないまま同船の進路を避けずに進行した。
23時00分わずか前B指定海難関係人は、ふと目覚めたとき、海鳳丸の左舷中央部付近が自船の船首至近に迫っているのを認め、直ちに機関を中立としたが及ばず、23時00分恵山岬灯台から155度10.8海里の地点で、恵運丸は、原針路、原速力のままその船首が海鳳丸の左舷中央部に後方から5度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には東流があった。
A受審人は、B指定海難関係人からの報告を受けて衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、海鳳丸は、いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成9年8月31日03時00分大畑港を発し、苫小牧港沖合の漁場に向かった。
C受審人は、漁場に至って水深100ないし200メートルの漁場を移動しながら操業を行い、いか約2.5トンを漁獲して操業を終え、18時00分シーバース灯から173度10.4海里の地点の漁場を発進し、航行中の動力船が掲げる所定の灯火を表示して大畑港に向け帰航の途に就いた。
C受審人は、漁場発進と同時に針路を大畑港に向首する200度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、操舵室右舷側に置いた物入れ箱に腰掛けて自動操舵により進行を開始したとき、大畑港に向かう同業船数隻が自船より早い速力で前方を先航するのをレーダーにより認めた。そして、22時20分同人は、恵山岬灯台から116度8.2海里の地点に達したとき、強い東流により左方に圧流されることを考慮して、針路を大畑港の少し右に向首する205度に転じ、その後レーダーを休止したまま続航した。
22時35分半C受審人は、恵山岬灯台から134度8.6海里の地点に達したとき、左舷側を追い抜いていく態勢にあった恵運丸が左舷正横後28度750メートルのところで右転したことにより、その後自船を追い越す態勢となったが、自船を追い越す他船はいないものと恩い、周囲の見張りを十分に行わなかったのでそのことに気付かないまま進行した。
22時55分C受審人は、恵運丸が左舷正横20メートルのところに自船の進路を避けないまま衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然周囲の見張りを不十分としていてそのことに気付かず、警告信号を行うことも、その後更に間近となっても速やかに右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもないまま続航中、23時00分わずか前恵運丸の船体を左舷中央部付近に認めたが、どうすることもできず、海鳳丸は、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、恵運丸は、損傷はなかったが、海鳳丸は、左舷中央部外板に亀裂及び左舷ブルワークに損傷を生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、津軽海峡東口において、海鳳丸を追い越す恵運丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、海鳳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海鳳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
恵運丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対し、眠気を覚えたら船長に報告するなどの居眠り運航防止のための措置を次直の船橋当直者に引き継ぐよう指示しなかったことと、船橋当直者が、眠気を覚えた際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、津軽海峡東口を青森県大畑港に向けて航行中、乗組員を船橋当直に当たらせる場合、船橋当直中に眠気を覚えたら同受審人に報告するなどの居眠り運航を防止するための措置を次直の船橋当直者に引き継ぐよう指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、漁場に向かう航海の際甲板員に休息をとらせたので、船橋当直者が居眠りに陥ることはあるまいと思い、船橋当直者に対して居眠り運航を防止するための措置を次直の船橋当直者に引き継ぐよう指示しなかった職務上の過失により、海鳳丸を追い越す態勢となった際、そのことが船橋当直者の居眠りにより報告されず、同船の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の左舷中央部外板に亀裂及び左舷ブルワークに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、津軽海峡東口を青森県大畑港に向けて航行する場合、左舷後方から接近する恵運丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、後方から自船を追い越す他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、追い越す態勢の恵運丸が自船の進路を避けずに接近していたことに気付かないまま進行して恵運丸との衝突を招き、自船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が眠気を覚えた際、A受審人に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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