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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月4日08時20分 横須賀港第4区 2 船舶の要目 船種船名 遊漁船第八一之瀬丸
プレジャーボートツヨタカII 総トン数 10トン 全長 17.30メートル 8.93メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
297キロワット 11キロワット 3 事実の経過 第八一之瀬丸(以下「一之瀬丸」という。)は、FRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客18人を乗せ、船首0,3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年5月4日08時00分横浜市金沢区の平潟湾にある定係地を発し、浦賀水道の東側に位置する千葉県磯根三崎沖合の釣場に向かった。 発航後A受審人は、横浜市金沢区平潟町と同区乙舳町の間にある野島運河を経由して平潟湾から外に向かい、同運河に架けられた野島橋の橋桁の水面上の高さが低いため、船尾マストを倒し、油圧昇降式の操舵室を下げて航行し、同運河を通過したのち同市金沢漁港の東側海域において、同業他船が多数存在するなか停留して同マストを立ててスパンカーを準備し、操舵室を復旧して通常の航行に備えた。 A受審人は、5月の連休の前半に天候不良で、久しぶりに天候が回復したこともあって多数の業種船が出航するなか、操舵室において椅子(いす)に座って手動操舵に当たり、08時15分少し前横須賀港東防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から285(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点において、針路を107度に定め、機関を回転数毎分400の微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で進行した。 定針したころ、A受審人は、4人の釣客が前部甲板の釣客用腰掛けに腰掛けているのを認め、動揺して危険であること、波しぶきがかかること、船首方向の見張りの妨げになることから、拡声器を使用して何度か同釣客にその旨を伝え、釣客を客室に入れることに気を奪われ、08時15分半右舷船首37度230メートルにツヨタカIIが同航していたが、周囲の見張りが不十分となり、同船の存在に気付かず、その後そのまま進行すれば同船の後方を無難に替わる状況であることにも気付かずに続航した。 08時18分半A受審人は、北灯台から285度1,750メートルの地点に達し、ツヨタカIIが右舷船首15度185メートルに同航していたとき、釣客が客室に入り始めたのを見届けたので、機関を回転数毎分1,200の半速力前進にかけたところ、ツヨタカIIに対して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたが、依然同船の存在に気付かず、その後衝突のおそれがある態勢で接近し、同船を避けずに増速しながら続航中、08時20分わずか前釣客が全員客室に入ったのを確かめて前路を見たとき、正船首間近に迫った同船のマストと乗組員が手を振って合図しているのを認めて、同船に初めて気付き、直ちに右舵一杯をとり、全速力後進としたが、及ばず、08時20分北灯台から284度1,390メートルの地点において、一之瀬丸は、原針路、12.0ノットの速力で、その船首首部、ツヨタカIIの右舷側船尾と右舷側マストステイに後方から14度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。 また、ツヨタカIIは、FRP製のプレジャーヨットで、B受審人ほか1人が乗り組み、帆走の目的で、船首尾とも0.4メートルの等喫水でフインキールーの深さ1.86メートルをもって、金沢八景マリンクラブの僚船3隻とともに、同日07時10分横浜市金沢区の平潟湾にある定係地を発し、野島運河を通航して同時25分ごろ同区金沢漁港に寄港してマストをセットしたのち、08時05分同漁港を出航し、千葉県勝山漁港に向かった。 B受審人は、金沢漁港の東側海域に停留して出航準備をしている多数の遊漁船群や、野島運河から次々に出航してきた遊漁船が停留船群の方に向かって自船の前路や後方を横切って行くのを認め、同停留船群南側を大回りしたのち、08時15分半北灯台から281度1.1海里の地点において、針路を093度に定め、僚船の出航が遅れていたのでこれらを待つこともあって、機関を回転数毎分2,000の微速力前進にかけ、右舷側船尾のオーナーズチェアに座ってティラーを操作し、4.0ノットの対地速力で進行した。 定針したころ、B受審人は、僚船とアマチュア無線で交信しながら後方を見張っていたものの、多数の同航の遊漁船が自船の両舷側を約10メートル離して次々と高速力で追い越して行ったことから、これらの遊漁船に気を奪われ、後方の見張りを十分に行っていなかったので、左舷正横後41度230メートルから来航する一之瀬丸に気付かなかった。 08時18分半B受審人は、北灯台から283度1.580メートルの地点に達したとき、自船の船尾方を無難に替わる態勢で航行していた一之瀬丸が、左舷船尾29度185メートルに接近し、その後増速して新たな衝突のおそれがある関係が生じていたが、このことに気付かず、搭載しているガスボンベ式の汽笛を使用するなど、警告信号を行うことなく続航中、同時20分わずか前船尾間近に接近した一之瀬丸に気付き、甲板員とともに立ち上がって大声を上げながら手を振ったものの、衝突の危険を感じた甲板員が海に飛び込んだのち、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、一之瀬丸は船首槍出し部左舷側先端の防舷材に軽度の凹損を生じ、ツヨタカIIは右舷側船尾に破口、船尾船底部に亀裂(きれつ)及びマストの折損を生じて廃船となり、B受審人が危険を避けようとして前部に移動中、衝突の衝撃で海中に転落し、甲板員とともに一之瀬丸に救助されたが、左上腕、左下腿に全治3週間の打撲傷を負った。
(原因) 本件衝突は、両船が横須賀港第4区の八景島沖合を相前後して東行中、一之瀬丸が、見張り不十分で、前方を同航中で無難に航過する態勢のツヨタカIIに対し、増速して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、ツヨタカIIが、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、横須賀港第4区の八景島沖合を釣場に向けて東行し、多数の遊漁船が同航するなか機関を増速する場合、右舷船首方を同航するツヨタカIIを見落とさないよう、右舷船首方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板上の釣客を客室に入れることに気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前方を同航中の同船と新たな衝突の危険のある関係を生じさせることとなることに気付ず、機関を増速して衝突を招き、一之瀬丸は船首に軽度の凹損を生じただけであったが、ツヨタカIIは船尾部に破口、亀裂及びマストの折損を生じて廃船となり、B受審人が負傷するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は横須賀港第4区の八景島沖合において、帆走の目的のため東行する場合、左舷後方から来航する一之瀬丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同航する遊漁船に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航法の一之瀬丸が増速し新たな衝突の危険のある関係を生じさせていることに気付かず、警告信号を行わずに進行して衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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