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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月4日11時44分 明石海峡 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三新栄丸 総トン数 497トン 全長 65.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 船種船名 貨物船ジェラルド エル ディ 総トン数
91,651トン 全長 281.74メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
13,330キロワット 3 事実の経過 第三新栄丸(以下「新栄丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製砂利運搬船兼貨物船で、A受審人及びB受審人ほか3人が乗り組み、専ら山口県徳山下松港から神戸港へ砂の輸送に従事していたところ、空倉のまま、船首1.50メートル船尾2.90メートルの喫水をもって、平成8年9月4日11時15分神戸港を発し、徳山下松港に向かった。 A受審人は、船橋当直をB受審人が11時30分から5時間、一等航海士が16時30分から5時間、その後は自身が行うこととして発航時から操船に当たり、11時29分神戸港外須磨海釣公園塔灯沖合におしいて、昇橋したB受審人に同当直を行わせる際、同人が明石海峡航路の通航を何回となく経験していることから、同人に任せておけばよいと思い、同航路の手前で昇橋して操船の指揮をとることができるよう、同航路に差し掛かる前に報告するよう指示することなく降橋した。 B受審人は、単独で船橋当直に当たり、11時30分平磯灯標から090.5度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点で、針路を250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの対地速力で折からの西流によって2度右方に圧流されながら進行した。 11時32分少し前B受審人は、左舷船首39度2海里に、前路を右方に横切り明石海峡航路に向かう態勢の巨大船ジェラルド エル ディ(以下「ジ号」という。)を初めて視認し、その後その方位が明確に変わらないで接近し衝突のおそれがあることが分かり、その動静に留意しながら続航した。 11時39分少し過ぎB受審人は、平磯灯標から146度0.8海里の地点に達したとき、明石海峡航路東口北端に設けられている本四公団明石海峡2P区域東方仮設灯浮標(以下「2P区域東方仮設灯浮標」という。)に近寄って同航路に入航するつもりで、その少し左に向けて針路を253度に転じたところ、ジ号を左舷船首43度1,400メートルに見るようになり、依然衝突のおそれが解消しなかった。そのころ同人は、自船が同航路の約1海里手前に差し掛かっていることをA受審人に報告しないで、潮流により3度右方に圧流されながら同じ対地速力で進行した。 一方、A受審人は、B受審人から間もなく明石海峡航路に差し掛かる旨の報告がなく、自室において下船する乗組員の事務処理を行っていて、船長として自ら操船の指揮をとらなかった。 その後B受審人は、ジ号が減速するなど自船の進路を避ける気配が認められなかったものの、警告信号を行わず、11時42分ジ号が左舷船首44度650メートルに接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができない状況となったが、ジ号が明石海峡航路の中央寄りに向けて進入すると考えられるので、自船は2P区域東方仮設灯浮標に並んだとき右転して同航路の北側境界線に寄ればよいと思い、直ちに機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった。 そしてB受審人は、ジ号が同航路の北側に寄る態勢で次第に接近するので、衝突を回避するための措置を思案しているうち、11時43分ようやく操舵を手動に切り替え、同時44分少し前舵中央のまま、機関を停止、次いで全速力後進にかけたが効なく、11時44分平磯灯標から214.5度2,080メートルの地点において、新栄丸は、明石海峡航路に入航するわずか前、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、291度を向いたジ号の右舷側中央部やや船尾寄りに、後方から38度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には3.5ノットの西流があった。 A受審人は、自室において機関音の変化に気付き、直ちに船橋に駆け上がり、その直後ジ号との衝突を認め、事後の措置に当たった。 また、ジ号は、船尾船橋型の鋼製鉱石運搬専用船で、船長Dほか19人が乗り組み、鉄鉱石141,252トンを載せ、船首尾とも16.00メートルの喫水をもって、同年8月24日00時00分(現地時刻)シンガポール港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。 D船長は、越えて9月4日09時40分友ケ島水道を通過して大阪湾を北上し、11時05分明石海峡航路東方灯浮標の南東方2.6海里付近に至り、乗船したC受審人に水先業務を行わせ、引き続き三等航海士を機関の遠隔操縦に、操舵手を手動操舵にそれぞれ就かせ、海上交通安全法に規定する巨大船の形象物を掲げ、明石海峡に向けて進行を開始した。 C受審人は、警戒船1隻をジ号の前路に配置してその嚮導(きょうどう)に当たり、11時31分平磯灯標から150度2.2海里の地点で、明石海峡航路東方灯浮標を左舷側880メートルに通過したとき、針路を明石海峡航路中央第3号灯浮標の少し右方に向く291度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、対地速力を8.0ノットから少しずつ上げ、左舷後方から受ける潮流により8度右方に圧流されながら進行した。 11時32分少し前C受審人は、右舷正横後10度2海里のところに、明石海峡航路に向かっている新栄丸を初めて視認した。その後、新栄丸が前路を左方に横切る態勢で接近し、その方位が明確に変わらず衝突のおそれがあったが、同人は、巨大船であるジ号が明石海峡航路に沿うようこれに向けて西行しているので、新栄丸が避航してくれるものと思い、早期に減速するなどしてその進路を避けなかった。 そしてC受審人は、11時39分少し過ぎ対地速力が9.0ノットに上がり、新栄丸を右舷正横後9度1,400メートルに見るようになり、やがて同船が自船とほぼ同時に明石海峡航路に入航すると予測して、2P区域東方仮設灯浮標に接近して右転するものと思い同船を期待し、少しずつ増速しながら同じ針路及び圧流模様で続航するうち、同時43分半衝突の危険を感じて機関停止を令したが、ジ号は、機関の回転数が少し下がったのみで対地速力が10.0ノットのとき、原針路のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、新栄丸は、左舷船首ブルワーク及び同船橋ウイングに凹損を生じたがのち修理され、ジ号は、右舷中央部後方寄りの外板に小凹損及び擦過傷を生じた。
(原因) 本件衝突は、明石海峡航路東口付近において、同航路に向けて西行する両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、ジ号が、前路を左方に横切る新栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 新栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して明石海峡航路に差し掛かる前に報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、船長に対して同航路に差し掛かる前に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) C受審人は、明石海峡航路東方灯浮標付近から同航路に向け西行中、前路を左方に横切る態勢で方位が変わらないまま接近する新栄丸を視認した場合、減速するなどしてその進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、巨大船である自船が明石海峡航路に沿うようこれに向けて西行しているので、新栄丸が避航してくれるものと思い、その進路を避けなかった職務上の過失により、新栄丸との衝突を招き、同船の左舷船首ブルワーク及び同舷船橋ウイングに凹損を生じさせ、ジ号の右舷中央部後方寄りの外板に小凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、明石海峡航路に向けて西行中、神戸港外須磨海釣公園塔灯沖合において、次席一等航海士に船橋当直を行わせて降橋する場合、同航路の手前で昇橋して操船の指揮をとることができるよう、同人に対して同航路に差し掛かる前に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、次席一等航海士に任せても大丈夫と思い、同航路に差し掛かる前に報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自ら操船の指揮をとらず、同航海士の操船中にジ号との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、明石海峡航路に向け西行中、ジ号が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができない状況となった場合、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、ジ号が明石海峡航路中央寄りに向けて進入すると考えられるので、自船は2P区域東方仮設灯浮標に並んだとき右転して同航路の北側境界線に寄ればよいと思い、機関を停止するなと衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、ジ号との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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