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1999年(平成11年)

平成10年門審第108号
    件名
油送船湯川山丸漁船恵漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、宮田義憲、清水正男
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:湯川山丸三等航海士 海技免状:三級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:恵漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
湯川山丸…左舷側中央部及び同舷後部外板に擦過傷
恵漁丸…右舷船首部ブルワークを破損、船首マストを曲損、船橋上の探照灯を損壊

    原因
湯川山丸…見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
恵漁丸…見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、恵漁丸を追い越す湯川山丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、恵漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月15日21時03分
鹿児島県佐多岬南東岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船湯川山丸 漁船恵漁丸
総トン数 42,263トン 19トン
全長 234.84メートル
登録長 16.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 10,297キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
湯川山丸は、船尾船橋型の油送船で、船長C及びA受審人ほか日本人船員10人並びにフィリピン人船員14人が乗り組み、海水バラスト25,600トンを積載し、船首5.4メートル船尾7.5メートルの喫水をもって、平成9年3月14日13時25分名古屋港を発し、中華人民共和国大連港に向かった。
A受審人は、翌15日20時00分佐多岬灯台から073度(真方位、以下同じ。)16.2海里の地点で、フィリピン人甲板手に補佐させて船橋当直に就き、法定灯火を表示して、針路を240度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.8ノットの対地速力で進行し、同時53分同灯台から114度4.5海里の地点に達したとき、左舷船首21度1.6海里のところに先航する恵漁丸の船尾灯を視認し得る状況にあったが、前路の横切り船や右舷側の反航船に気を取られ、見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま続航した。
A受審人は、20時58分恵漁丸の方位がほとんど変わらないまま1,550メートルに近づき、その後同船を追い越す態勢で接近したが、依然現張り不十分で、これに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、同じ針路、速力のまま進行した。
A受審人は、21時02分少し過ぎ左舷船首21度300メートルに恵漁丸の船尾灯を初めて視認し、ついで風波によって動揺した同船が緑灯を見せたことから、衝突の危険を感じ、甲板手に自動操舵のまま針路を243度、続けて247度とするよう命じて、自ら同船に向けて昼間信号灯を照射し、更に手動操舵に切り替えて右舵一杯を命じたけれども、21時03分佐多岬灯台から144度3.7海里の地点において、湯川山丸の船首が260度を向いたとき、原速力のまま、その左舷側中央部付近に、恵漁丸の右舷船首部が後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北北西風が吹き、視界は良好であった。
自室で休息中のC船長は、A受審人から報告を受けて昇橋を求められ、直ちに船橋に赴き、2人で後方の恵漁丸の状況を観察し、同船が順調に航走し始め、異常がないように見えたので、そのまま続航したところ、第十管区海上保安部から呼び出しを受け、衝突した事実を知り、A受審人から詳細な事実を聴取するなと事後の措置に当たった。
また、恵漁丸は、まぐろはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、船首1.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同年2月15日15時00分鹿児島港を発し、北緯20度東経150度付近の漁場に至って操業し、13トンの漁獲を得たところで、乗組員の1人が突然病死したため帰港することとし、同3月9日10時00分北緯19度35分東経150度30分の地点を発進して帰途についた。
越えて同月15日18時00分B受審人は、喜志鹿埼灯台から359度4.8海里の地点において、針路を275度に定めて自動操舵とし、入港時間調整のため機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、18時30分法定灯火を表示して、操舵室右舷側のいすに座って見張りに当りながら続航中、20時53分佐多岬灯台から135度4.5海里の地点に達したとき、右舷船尾56度1.6海里に白、白、紅3灯を表示して後方から接近する湯川山丸を視認し得る状況にあったが、後方から来る船は避けてくれるから大丈夫と思い、後方の見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま進行した。
B受審人は、20時58分湯川山丸の方位がほとんど変わらないまま1,550メートルに近づき、その後同船が自船を追い越す態勢で接近したが、依然現張り不十分で、これに気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま続航中、21時03分わずか前湯川山丸の黒い船体を右舷側間近に認めたが、原針路、速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、湯川山丸は左舷側中央部及び同舷後部外板に擦過傷を生じた。また、恵漁丸は右舷船首部ブルワークを3メートルにわたって破損し、船首マストを曲損して船橋上の探照灯を損壊したが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、鹿児島県佐多岬南東岸沖合において、恵漁丸を追い越す湯川山丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、恵漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鹿児島県佐多岬南東岸沖合を西行する場合、自船が追い越す他船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路の横切り船や右舷側の反航船に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、恵漁丸の存在とその接近に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、湯川山丸の左舷側中央部付近及び同舷後部外板に擦過傷を生じさせ、恵漁丸の右舷船首部ブルワークを3メートルにわたって破損し、船首マストを曲損して船橋上の探照灯を損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、鹿児島県佐多岬南東岸沖合を西行する場合、後方から接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から来る船は避けてくれるから大丈夫と思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、湯川山丸の存在とその接近に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることも行わないまま進行して衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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