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1999年(平成11年)

平成10年神審第60号
    件名
貨物船福徳丸漁船住吉丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、清重隆彦、西林眞
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:福徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:住吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
福徳丸…右舷船首部に擦過傷
住吉丸…左舷側後部を破損

    原因
福徳丸…見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
住吉丸…警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、住吉丸を追い越す福徳丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが住吉丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月21日05時50分
播磨灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船福徳丸 漁船住吉丸
総トン数 154トン 4.94トン
全長 47.50メートル 14.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
福徳丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、専ら広島県呉港から阪神間の諸港へ鋼材の輸送に従事していたところ、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、鋼材481トンを載せ、船首2.50メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、平成8年8月20日14時20分呉港を発し、神戸港に向かった。
A受審人は、発航後、B指定海難関係人と4時間交替で単独の船橋当直に当たり、翌21日04時00分家島沖合を東行中、同人に当直を引き継ぐこととしたが、明石海峡航路中央1号灯浮標の手前で知らせるようにと告げたものの、視界が良好であったうえ、単独の当直に慣れているので改めて指示するまでもないと思い、播磨灘東部の高蔵瀬付近は漁船の出漁する海域であるから、見張りを厳重に行うよう指示することなく、同人と当直を交替し、間もなく操舵室後部の仮眠台で休息した。
単独で当直に就いたB指定海難関係人は、04時53分上島灯台から193度(真方位、以下同じ。)2海里の地点に達したとき、海図に針路線が記載されていなかったので、自らの判断で高蔵瀬東灯浮標の南側を通過後に明石海峡航路西方灯浮標に向けることとし、針路を112度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、折からの東流により5度左方へ圧流されながら10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
やがて、夜明けとなり、B指定海難関係人は、付近には他船が見当たらなかったことに気を許し、05時40分ごろ操舵室後部右舷側の海図台の上に置かれたテレビをつけ、舵輪の後ろで背もたれのないいすに腰を掛けて右舷後方を向き、ニュース番組に見入った。そのころ右舷船首9度海里のところに、低速で東行している住吉丸を視認することができ、同船に後方から次第に接近する状況であったが、前路の見張りを十分に行わなかったので、その存在に気付かず、このことをA受審人に報告できなかった。
一方、休息中のA受審人は、B指定海難関係人から前路に存在する住吉丸についての報告が得られず、05時42分江崎灯台から274度6.4海里の地点に至り、方位が変わらないまま住吉丸を追い越す態勢で1,500メートルに接近し、衝突のおそれがあったが、その進路を避けることができずに続航した。
こうして、B指定海難関係人は、播磨灘東部を東行するうち、05時47分少し前高蔵瀬東灯浮標を左舷側500メートルに通過したことに気付かず、予定の転針を行わないでテレビを見続け、同時50分わずか前ふと船首方を見たとき、至近に住吉丸を初めて視認し、急いで左舵一杯をとり、機関のクラッチを中立としたが効なく、05時50分江埼灯台から271度5.1海里の地点において、福徳丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が住吉丸の左舷側後部に後方から24度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海域には東に流れる2ノットの潮流があり、視界は良好であった。
A受審人は、休息中、機関音の変化で目を覚まし、住吉丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、住吉丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日04時40分兵庫県富島漁港を発し、高蔵瀬付近の漁場に向かった。
C受審人は、05時20分ごろ漁場に到着した後、たいを獲る目的で棒こぎ漁と称する漁法により曳網(えいもう)することに決め、潮流模様を考えて1海里ばかり西方へ移動した。そして、網口を広げるために長さ20メートルのFRP製パイプを袖(そで)網付近に取り付けて海底に降ろし、引き索として、同パイフ両端からそれぞれ導いた長さ50メートルの化繊ロープ端に連結したワイヤロープを、船体中央部の甲板上に設けたロープリールから50メートル延出し、マストに漁労中の形象物を掲げ、同時32分江埼灯台から270.5度6.5海里の地点で、針路を淡路島北端の少し北に向く088度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、折からの東流に乗じ45ノットの曳網速力で手動操舵により進行した。
05時35分C受審人は、操舵室後方の甲板上に立って見張りを行っていたとき、左舷船尾33度1.5海里に東行する福徳丸を初めて視認した。やがて、同人は、福徳丸が高蔵瀬東灯浮標の南に向首し後方から近づいてくるのを認めたが同灯浮標に並んだら針路を左に転じ、自船から離れて航過していくものと思い、同じ針路及び速力で曳網を続けた。
C受審人は、05時42分江埼灯台から270.5度5.7海里の地点に至り、福徳丸が自船を追い越す態勢で同じ方位のまま1,500メートルに接近し、衝突のおそれがあることを知り、その動静を監視していたところ、依然、同船に避航の気配が認められなかったが、汽笛を装備していなかったので、警告信号を行うことができなかった。
そして、同人は、そのうちに福徳丸が避航働作をとるものと思い、間近に接近したとき、直ちに右舵をとるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、同時50分わずか前、危険を感じてクラッチを中立にするとともに、右舵一杯としたが効なく、住吉丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果福徳丸は右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが住吉丸は、左舷側後部を破損し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、播磨灘において、住吉丸を追い越す福徳丸が見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、住吉丸が、警告信号を行わず、右舵をとるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
福徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対して見張りを厳重に行うよう指示しなかったことと、同当直者が見張りを厳重に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、播磨灘の家島沖合を東行中、無資格の機関長に船橋当直を引き継ぐ場合、高蔵瀬付近は漁船の出漁する海域であるから、見張りを厳重に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関長が単独の当直に慣れているので指示するまでもないと思い、見張りを厳重に行うよう指示しなかった職務上の過失により、前路に存在する住吉丸についての報告が得られず、その進路を避けることができないまま続航し、同船との衝突を招き、福徳丸の右舷船首に擦過傷を生じさせ、住吉丸の左舷側後部を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、播磨灘において、淡路島北端の少し北に向けて東方へ曳網中、左舷船尾方から自船を追い越す態勢の福徳丸が間近に接近するのを認めた場合、直ちに右舵をとるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、福徳丸がそのうちに避航動作をとるものと思い、直ちに右舵をとるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、単独で船橋当直に当たり、播磨灘を東行中、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、同人が見張りの重要性について十分反省している点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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